世界的文豪も賭博の誘惑から抜けられず
古くは阿佐田哲也の『麻雀放浪記』や最近であれば森巣 博の『神はダイスを遊ばない』など、作者自らのギャンブル体験をもとに生み出された傑作は数多くありますが、それは世界的にみても例外ではありません。なにしろあのロシアの大文豪ドストエフスキーにはズバリ『賭博者』という作品が存在します。劇中では、裕福な老婦がルーレットの魔力に魅了され、大金を注込みあっというまに財産を溶かしていくというシーンがあります。
負けを取り返そうと賭金を増やし、さらに大金を失うという、ほとんどのギャンブラーが陥る「わかっちゃいるけどやめられない、負けちゃいるけど抜けられない」悪魔のデフレスパイラル!! その描写があまりにも真に迫っており、空恐ろしくなるほど見事。
が、何のことはない、ドストエフスキー自身がヨーロッパへ旅行した際、行く先々のカジノでルーレットにはまり、帰国のための路銀まで失ってしまう始末。しかも出版社との契約で、作品の提出期限が迫っており(ドストエフスキーはこの出版社に借金の支払いのため、作品の版権をとっくに売り払っている!)絶体絶命のドストエフスキー!
なんだよやっつけ仕事かよ!
精神的にも、経済的にも、時間的にも追い詰められていたドストエフスキーが「えいやっ!」とばかりに口述によってわずか27日間で完成させたのがこの『賭博者』だったというのは有名な話。まあ自身のギャンブル失敗談も、短い創作期間でも、一流の文学作品になってしまうのが文豪の文豪たる所以。登場人物たちのギャンブルにのめり込む様子が異常に説得力があるのも当然です。そもそもこの作品の舞台になっている「ルーレテンブルグ」という場所もルーレットをもじった架空の都市名。文豪ドストエフスキーもなかなかおちゃめ。
えっと、今回の教訓ですか?
「芸は身を助ける」でどうでしょう。
本日の参考文献
・『賭博者』(ドストエフスキー 原 卓也訳)新潮社・『年代別エピソードで描く 天才たちの私生活』(ゲルハルト・プラウゼ 畔上司・赤根洋子訳)文藝春秋