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2005年世界大会を前に浮上した組織と競技の二大問題 「大道塾=空道」への危機感(4ページ目)

来年に第二回世界大会を控え、国内の総仕上げとなる「北斗旗無差別大会」が開催された。復帰を果たしたエース藤松の闘いぶりに露呈した大きな問題点とは。

執筆者:井田 英登

「世界」との戦いを目前に控えて

「頭を怪我して、不安を背負ってああいう組み手になったのはわかるんだけど、じゃあ世界大会でロシアの連中と撃ち合ったときに、“あれ”が通じるとは思わないんだな」

この東塾長の言葉に如実に現れているように、藤松が“工夫してきた新しい組み手”の発想自体に、脆さがあることは否めない。さらに言えばそんな藤松を倒す事ができなかった五十嵐、稲田ら主力陣の不甲斐なさは、そのまま世界大会での日本代表への不安も意味する。

だが、藤松自身が優勝直後に語ったコメントは、東塾長の憂慮とは対照的であったりする。

「今回の試合では、相手の攻撃を一発ももらわずに倒すかということを考えて戦いました。それもできるだけ寝技には頼らずに勝てるかを試したかったんですけど、さすがに上に行くとそうは行かない部分があって、結局寝技に行っちゃいましたけど、もっと今の形を完成させたいですね。それが自分の課題だと思います」

これまで常に「倒すか倒されるか」というギリギリのド突き合いを演じて来た選手の発言としてはあまりに寂しい。ノーガードの無意味なパンチ合戦を称揚する気はもちろん無い。頭部負傷と言う、選手生命に関わる大きな怪我を負った選手としては、むしろ当然といってもいいファイトスタイルの変更だと思う。

だが自らは一切相手の攻撃を受けず、相手の一瞬の隙を見抜いて、カウンターの一撃必殺で倒す、という今回の藤松の発想は決して実戦的なものではない気がする。むしろ中国拳法など、伝統武術のファンタジックな領域に接近してしまったのではないかとすら思うほどだ。

来年に控える世界大会で、スタミナ、瞬発力共に爆発的なものを持つロシア勢のラッシュに晒された時に、この中国拳法的な“仙人組み手”が通じるとはどうしても思えない。まして現在の藤松は復帰前の体重から20キロ減量し、パワーを失っている。「世界との戦い」の前に大きなハンデを背負ったと言っていいだろう。

実際、この大会でもボディ打ちを“実験”している最中に、その下げた頭部を稲田の膝蹴りで迎撃されたシーンがあった。あの攻撃がさらに力強く、執拗なものであったら、果たして藤松は決勝に進めたかどうか。相手が同じ軟投型の稲田であったからこそ、切り抜けられたシーンであろう。もし相手が今回出場していない昨年優勝者の山崎や、体力別で軽重量級を制したコノネンコであったなら、藤松はそこで踏みとどまれたかどうか、いささか疑問だ。

格闘技に限らず、大きな故障を抱えたスポーツマンは、復帰後もその箇所を無意識に庇ってしまうために、以前のフォームを取り戻せなかったりするものだ。藤松当人は完全復帰のつもりで居ても、やはり頭部の負傷に対する不安がどこかに残っているのではないだろうか?

最初、僕はこの大会に、外部の勢力の侵攻が無かった、と書いたが、ある意味藤松の“仙人組み手”がそれであったという見方もできる。かつて正面激突の権化であったような彼が、休場期間にそのポリシーを変質させ「省エネファイト」を旨とする異質の選手になったのだとすれば、大道塾の選手達は今回それを“異物”として、藤松を徹底的に叩きつぶさねばならなかったのだ。

冒頭にも書いたが、格闘技界は現在プロ一極集中によって「バリエーション」を失いつつある。一つの色に塗りつぶされた世界からは新しいものは生まれないし、一つの価値観というものは頂点を極めれば、後は衰退していくのみである。いくつかの勢力が軒を競い、さまざまな試みを繰り返す中で、競争を展開しない限り、どんな素晴らしいものも衰退して行く。これは競技場の中、外を限らない普遍の真理であろう。

「空道=大道塾」の体制的問題も、そして藤松の独走も、結局「外部」との擦れ合って成長すべき段階にある「空道」が、逆に内向して身内だけの競技になってしまっているという矛盾の現れと映った。今やプロへプロへと草木のなびく格闘界にあって、アマチュアの牙城となっている大道塾/空道だからこそ、あえてこの問題をなおざりにしてほしくはない。この日の北斗旗に鳴り響いた二つの警報は「空道」にとどまらない、格闘スポーツ界全体の根幹を揺るがすような問題と考えるべきなのだ。

外部に対しては、ニュートラルな立場の本格的な「連盟」としての自立を、そして内部に対しては、いかなる外敵が出現しようとも十分迎え撃てる「大道塾」としての強さの確立を目指すべきであろう。

ぜひ、来年五月の北斗旗体力別大会までに、軌道修正された方向性が提示されん事を切に祈りたい。

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