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至近距離から見た、幻のUFC王者流転の一年 「ジョシュ君のこと(3)」(4ページ目)

史上最年少のUFC王者の栄光をドーピング疑惑で奪われ、未経験のプロレス界に身を投じたジョシュ・バーネット。はからずも僕の至近距離で繰り広げられた、知られざる一年間の苦闘の記録。いよいよ終局へ。

執筆者:井田 英登

DEEP有明大会から数日後、僕はK-1の記者会見でジョシュに再会した。いつもはTシャツ姿のジョシュが、珍しくスーツを着込んで会場の隅っこに立っていた。一瞬、その後予定されていたパーティーに参加するためだろうかと思ったのだが、良く見れば、隣に長身で異様にスタイルのいい黒人女性をエスコートしているではないか。黒のドレスを着こなしたその美人女性は、総合格闘家シャノン・フーパーだった。

AMCでのチームメイトであり、私生活ではジョシュの恋人でもある彼女を、ジョシュは日本に呼び寄せていたのである。僕に目を留めるとジョシュは、早速シャノンに紹介してくれようとする。だが、僕がジョシュから、彼女に紹介されたのは初めてではない。

一回目の御対面は、一年前にニュージャージーで行われたUFC31の大会直前のことだった。僕は、ホテルから会場に移動するバスの中で、ジョシュの横に腰掛けたシャノンと会っているのである。ただ、その時ジョシュはセーム・シュルトとの王座挑戦権が掛かった試合を控え、かなりナーバスになっていたようで、ぴったりと彼女の肩に頭をもたせ掛けて、しっかりと腕を握りあって座っているところだった。“ありゃ、お呼びじゃないな”と見て見ぬフリを決め込もうとしたのだが、これまた偶然目があけたジョシュと目が合ってしまう。ジョシュはすっと立ち上がり、彼女を紹介してくれたのだった。ただ、こっちも試合直前の選手にあまり言葉もかけたくない。まして直前の“二人の世界”を目の当たりにしているだけに、ばつが悪い。もごもごとハローとつぶやいて握手だけさせてもらうと、そそくさと後方の席に逃げ出てしまったものである。まあ、向こうもそんなことはとっくに忘れてしまっていたのだろう。

ただ、オシドリのように寄りそうその時の二人の姿は、僕の脳裏に強く焼き付くことになった。

んな経験があるだけに、一カ月近く異国に張り付きっぱなしの状態にあったジョシュが、この時期にわざわざ日本に恋人を呼び寄せたくなった心理は十分すぎるほどわかった。顔には出さなかったが、彼も人の子、上がるリングの見つからない状況にかなり不安が募っていたに違いない。脳裏には、一年前のあのバスの中の光景がダブって浮かんでくる気がした。フラッシュバックするのは、あの日、強敵との決戦に向かおうとしていたナーバスなジョシュの表情だ。

これまでの成し遂げてきた業績を全否定され、名誉も職も失い異国を彷徨う25歳の若者にとって、恋人の与えてくれる安らぎはかけがえのないものであったろう。その恋人を失わないためにも、経済的な安定はどうしてもキープしたい。僕は、計らずもジョシュのリアルなもう一つの顔を見たような気がした。

無論、一度はジャンルの頂点に上り詰めた男である。
そんな弱みはおくびにも出さない。
出すわけもない。

一瞬の追憶から目覚めれば、やはり目の前に立っていたのはいつも通りにこやかで、自信たっぷりのチャンピオンだった。

そして、彼は再会の握手もそこそこに僕を引き寄せると、そのショッキングな一言を囁いたのだった。

「イダサン、僕はWRESTLE-1に出ることになるかもしれない」と。


(次回完結)
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