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至近距離から見た、幻のUFC王者流転の一年 「ジョシュ君のこと(3)」(3ページ目)

史上最年少のUFC王者の栄光をドーピング疑惑で奪われ、未経験のプロレス界に身を投じたジョシュ・バーネット。はからずも僕の至近距離で繰り広げられた、知られざる一年間の苦闘の記録。いよいよ終局へ。

執筆者:井田 英登

こではっきり書いておくが、このとき僕は一切ジョシュのエージェントとしては動いてはいない。一円の金ももらっていないし、もちろんどんな書類にもサインしていない。それどころか、このときの佐伯代表との面会にも立ちあっていないのである。あくまで友人として、そして格闘技関係者として、彼ほどの選手がホされるという事態が我慢できず、日本のリングにあがるという選択肢を提案こそしたが、僕はあくまで、彼自身が行う交渉を潤滑にやれるようにお膳立てをしたにすぎない。

逆に、このときはっきりエージェント契約を交わして、きちんと彼のために動いてあげればよかったのではないか、そんな反省が今も心をよぎることがある。ただ当時の僕にはその勇気も覚悟もなかった。マスコミ側の人間が興行に足を踏み入れるということは、ある意味その人間の倫理観の限界を試される行為となる。ジャーナリストとして、取材対象と金銭や利害が関るやり取りをしながら、なおかつ客観性をもって記事を書き続けることができるだろうか? 

無論、論理的には可能である。可能ではあるが、それは非常に難しい行為だ。常に絶妙のバランス感覚を要求され、そして自分の公正さのナイフを常にのど元に突き付けられる。英語もおぼつかない自分が、十分にジョシュの望む条件交渉など出来るかどうかという現実問題もある。ましてや、ジャーナリストとしてまだまだ基盤の弱い自分が、そんなスリリングな行為を行うことは命取りになりかねない。複雑な要素が絡みあって、僕はジョシュの苦闘を傍目に見ながら、最後まできちんとしたサポートをしてあげることは出来なかったのだ。友人の窮地を救うことも出来ない、僕の脆弱さを笑っていただくしかない。

“彼の身近には高阪というベストフレンドも居るし、ボブのサポーターとしての仕事も忙しいはずだ。今回は日本の業界人たちとの顔合わせ以上の活動はできなくても仕方がないだろう。”そう自分に言い聞かせて、僕は現実から目を反らし続けるしかなかった。


んな状況で、ジョシュの日本での夏は確実に消費されていく。

一方で、Dynamaite !でPRIDE王者ノゲイラをノックアウト寸前まで追い込んだボブ・サップの株は、あの国立での一夜を境に一気に高騰を見せ始めていた。ボブの敗戦を受けてリングに駆け上がったジョシュの「オマエハスデニシンデイル」のアピールも、サップ人気の爆発的な勢いにかき消された感があった。やはり格闘家は闘って幾らの商売なのだ。そのボブに勝るとも劣らない実力を持ちながら、職探しに奔走するジョシュの心境を思うと辛い気持ちになってしまうのだが、それが「winer takes all」を絶対原理とする格闘技ビジネスの残酷さなのだろう。闘う場所の無いファイターには、歓声を浴びる権利すら与えられない。

そして、ついにジョシュは「リアルファイト・ファースト」の原則を棚上げにすることを考え始めたようだった。
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