直木賞受賞作家の新作×3

桜庭一樹『ファミリーポートレイト』、三浦しをん『光』、井上荒野『あなたの獣』。ほぼ同時期に上梓された直木賞受賞作家の新作をご紹介！

桜庭一樹『ファミリーポートレイト』

＜DATA＞タイトル：『ファミリーポートレイト』出版社：講談社著者：桜庭一樹価格：1,785円（税込）

『ファミリーポートレイト』は、『私の男』と対をなす長編だ。まず、雨の銀座で幕を開けひたすら黒いイメージの『私の男』に対して、花咲く公営住宅から始まるファーストシーンがカラフル。今回は母と娘の逃避行を描いている。

生まれたときから、美しい母のマコと2人きりだったコマコ。彼女が5歳のとき、2人はそれまで住んでいた公営住宅から逃げる。山奥にある小さな村、海辺の温泉宿、養豚場の町……。2人が流れ着いた場所では、不思議で残酷な出来事が次々と起こる。母子は何から逃げているのか？　放浪の果てにコマコがたどり着いた場所とは？

日本であって日本ではない、小説でしか行けないような幻想的な場所を、コマコと一緒に彷徨する。単に父と母を反転させただけじゃない、著者の家族ものの集大成的な作品。物語の荒野へ身を投じた作家の新たなる旅立ちを感じさせる1冊だ。

次ページでは三浦しをん『光』をご紹介。