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第139回芥川賞候補作その2(2ページ目)

第139回芥川賞の候補作、津村記久子「婚礼、葬礼、その他」、小野正嗣「マイクロバス」、岡崎祥久「ctの深い川の町」をご紹介!

石井 千湖

執筆者:石井 千湖

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バスvsタクシー?小野正嗣「マイクロバス」と岡崎祥久「ctの深い川の町」

新潮 2008年 04月号 [雑誌]
<DATA>タイトル:『新潮4月号』出版社:新潮社価格:950円(税込)「マイクロバス」を掲載。
「婚礼、葬礼、その他」の主人公はヨシノだが、ヨシノ婆というおばあさんが出てくるのが小野正嗣の「マイクロバス」

舞台は大分県佐伯市と熊本県湯前町を結ぶ国道388号線の近くにある小さな集落。35歳になる信男は、知的障害があるらしく、幼いころから言葉を話さない。父親の紹介でいったんは工事現場で働くようになったものの、やがて職場に行かなくなってしまい、親戚のヨシノ婆をマイクロバスに乗せて、ただひたすら海岸線を走るのを日課にしている。

信男が見ている世界のなかでは、過去も現在も、自然も人間も、他者と自分も混沌としている。だから読みやすくはないのだが、信男がマイクロバスによって“縫い合わせていく”土地の存在感に圧倒される1編だ。

最後に紹介するのは岡崎祥久の「ctの深い川の町」。語り手は六行の床板しかない部屋での素寒貧な暮らしに嫌気がさし、故郷でタクシー運転手になった「わたし」。“ct”とはタクシーをあらわす符丁らしい。

「わたし」が就職したノーブル交通は、一風変わったタクシー会社だ。青いビロード風の上着と白いフリルがついたシルク風のシャツが制服。従業員は、まるで貴族に仕える従者のように客人を送迎するのだ。そこで「わたし」は磁石を大量に集め車にためこんでいる勝俣や、初対面なのに「ねえ、わたしとセーコーしたい?」と聞く河村といった不思議な同僚に出会い、客人として数学者や同級生の青山を乗せる。

故郷で人生をリセットした男のちょっとヘンテコな日常を描いた小説。

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