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中学受験母が語る、my塾弁ストーリー 1(2ページ目)

加熱する中学受験。身体的・精神的・経済的な負担も大きい「親と子の受験」と言われますが、親が作り受験生の食生活ををサポートする「塾弁」に注目。塾弁の裏の、母のストーリーをひも解きます。

河崎 環

執筆者:河崎 環

子育てガイド

私が中学受験生だった頃の「悲しい」話

私自身が20年ほど前に中学受験をした頃、塾にきちんとしたお弁当を持って行く子供は、まだ少なかったように思います。私が通った大手進学塾では、夕方から始まる授業が確か90分×2コマだったのですが、その間に取られる15分程度の休憩時間にお弁当を広げていた子供の姿は少数派で、多くは友だちと雑談したり、お菓子のようなものをかじりながら授業でやったところを見返していたりした記憶があります。

私の通っていた小学校は中学受験の準備をする私立小学校で、6時間の授業が終わった後も補習と称してクラス全員が残され、過去問を解かされ、全問正解した者から帰宅して良いとされる、「でき帰り」というスタイルをとっていました。ですから、それに加えて塾に通う子どもたちは、補習をこなした足で塾に直行せねばならず、専業主婦のお母さんたちは学校前に自家用車で子供を待ち構え、車の中でおにぎりのような軽食を食べさせながら子供を塾に送っていました。お昼は給食ではなく、お弁当の学校だったので、お母さん達も子供の昼食と夕食の2回分のお弁当を作っている人はほとんどいなかったのではないでしょうか。

私はもともと、仕事を持っていた母の都合もあって当時の実家での夕食の時間は9時から10時近く、塾から帰宅してから家族と夕食を摂っていました。その後、学校の山のような宿題を終え、就寝するのは12時、1時というのが普段の生活。宿題が終わらなければ翌朝早く起きて宿題を終わらせてから登校と、正直、勉強に追われてとても疲れていました。ですから、自分でも驚いたことに「食」の記憶があまりないのです。

思い出せるのは、作るのに時間のかからないカップラーメンをおやつ代わりに食べていたな、とか、日曜の午前と午後、それぞれ別の塾が主宰するテストを掛け持ちする日は、移動の電車の中で周囲の白い目を気にしながらこそこそとファストフードをかじっていて恥ずかしかったなとか、テストが終わった後に連れて行ってもらった、駅前のアイスクリーム屋さんのアイスが美味しかったとか。

級友たちも多かれ少なかれそんな感じでしたから、やはり中学受験準備が忙しくなる5、6年生になると、男子も女子も食生活の影響でだんだんぽっちゃりしてくる(中にはストレスなのか、かなりぽっちゃりしてしまう)子供が多かったのです。もちろん私もその例に漏れず、太めな上にニキビまでできて……というのが、思春期に入りかけた女子としてとても恥ずかしかったです。

子どもの食を大事にする、はずだったのに……

そんな(悲しい?)思い出もあるからか、自分が子供を育てるにあたっては、食を充実した、美味しくて楽しくて健康なものにしたいという思いがありました。あまり食生活に細かく厳格なルールはありませんが、できるだけバランスが取れた食事で、目にも楽しい食卓で、なるべく大人数で取る。少なくとも、夕食は必ず親子一緒に(私の仕事が遅いときは他の家族が一緒に)食べて「孤食」にしない、ということくらいは心がけていました。

だから、子どもの塾弁生活が始まったとき、親と子どもの夕食が別々になったことを実感し、とても戸惑いました。それまでは私自身も私の配偶者も、それぞれきょうだいもみんな中学受験をしてきた「受験文化」を持つ家庭で育ったことや、私自身が中学受験の現場で仕事をしていた時期があったことから、中学受験に対する抵抗や疑問は全くありませんでした。

「あれ?自分が子育ての上で一応は大切にしてきた『食の充実』を、私は自分から手離したのか」と、今さら思い知ったのです。食育という言葉が広く普及した今、子育てするお母さん達はきっといろいろな思いで塾弁を作ったり、何らかの食事の調整をしたりしているんだろうな。そんなわけで、せめてもの努力という形で、せっせと「塾弁」作ってます。

塾講師時代の反省

以前受験指導をしていたとき、生徒さんのお母さん達が毎回塾弁を作って持たせたり、休憩時間に間に合うように届けたりしているのを見て、お母さん達の負担や関わり方が大きいことを見ていました。それを過保護と受け取る向きもあるのは百も承知ですが、お母さん達は本当に「できるだけ」のことを子どものためにしているんだなぁと、身に沁みて感じます。賛否ある中学受験をすると決めたなら決めたで、真剣に取り組んでいる姿でした。

子どもたちもお弁当を食べられる時間をとても楽しみにしていて、「先生、今日のお弁当はね……」と、楽しそうに話しかけてくれました。

でも、当時の私が子どもたちのお弁当の時間を大切にしていたかというと、そうでもないような気がします。未熟な私の授業が延長してしまい、子どもたちの休憩時間の何分かを使ってしまったことが何度かありました。その時の子どもたちのがっかりした表情といったら!彼らの目から光が消え、視線は焦って授業をする私の頭の上を超えて、時計へと注がれるのです。大げさですが、絶望的とでも呼べるような表情をしていました。

悪かったなぁ、申し訳なかったなぁと思います。体を育てる、成長期真っ盛りの子どもたちにとって、食事は大きな楽しみ。だって、どんなに賢くても、ナマイキでも、まだ9歳や10歳、大きくたって12歳なんですよ!食事の時間を奪ってしまってごめんね、と今なら謝ります。

そんな風に子どもと親の思いがこもる「塾弁」、学びの現場でも大切にされているだろうか、大切にされているといいなぁ、と思いながら塾弁を作る日々です。


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