もっと眠っていたいのに、いつも早朝に目覚めてしまう場合、睡眠障害の可能性も……
「朝の3時頃に目が覚めてしまうので、睡眠薬が欲しい」といった訴えで、医療機関を受診する人がいます。このようなときに、詳しいことを医師に伝えず、安易に睡眠薬を処方してもらうのは危険です。
起きたい時刻の2~3時間前に目覚めてしまうのは、「早朝覚醒」という睡眠障害の1つです。しかしこの場合、眠りに就く時刻もあわせて確認しておかなくてはいけません。特に高齢者に多いのですが、夕食が済んだらすぐに眠ってしまう人もいます。午後6時とか7時に寝つくわけですから、早朝に目が覚めてしまうのは仕方がありません。
このように、睡眠の時間帯が早い時刻に固定されてしまい、極端な早寝早起きが1週間以上続くことを「睡眠相前進症候群」といいます。一般的には、夕方から夜の早い時刻(18~20時)に寝ついて、早朝(2~3時)に覚醒するパターンをとります。本人の訴えで多いのは、早朝に目覚めて眠れなくなることと、夕方に強い眠気に襲われることです。
中高年の100人に1人が悩む、「加齢とともに早起きになる」睡眠障害
睡眠相前進症候群は、子どもや若い人には少なく、年齢が進むにつれて頻度が増します。中高年では、100人に1人くらいがこの病気だとも言われています。ただし、睡眠相前進症候群になっても、社会的にはそれほど悪影響がないことが多く、実際に医療機関を受診する人は比較的少数に留まっています。
睡眠の時間帯がずれてしまう原因は、生体リズムが年齢とともに短くなってくることと関係があると考えられています。そのため、歳とともにこの病気が増えるようです。睡眠リズムだけでなく、体温の変化や睡眠ホルモン・メラトニンの分泌パターンもずれていることもよくあります。また、生体リズムを司る時計遺伝子の異常が原因で起こる、家族性の睡眠相前進症候群の患者さんもまれにいます。
睡眠相前進症候群と診断するために重要なことは、実際の生活パターンを確認することです。就寝時刻や起床時刻をつける「睡眠日誌」や、腕時計型のセンサーが活動量を自動的に記録する「アクチグラム」が使われます。睡眠相前進症候群の方は、夜型か朝型かを判定する「ひばり-ふくろう型質問紙」を使うと、典型的な朝型と判定されます。
睡眠相前進症候群の治療法・治し方は「高照度光療法」「メラトニン療法」など
医療機関で行う睡眠相前進症候群の治療としては、高照度光療法やメラトニン療法があります。高照度光療法は、目から入った光が脳にある体内時計を調整する働きを利用します。夜の就寝時刻の前に2500~1万ルクスの強い光を浴びると、睡眠・覚醒や深部体温、メラトニン分泌などのリズムが遅いほうにずれて、極端な早寝早起きが軽くなります。
また、早朝にはサングラスを使うなどして、あまり光を見ないようにすると、睡眠の時間帯が早まることを予防できます。
メラトニンは「睡眠ホルモン」とも呼ばれていて、これの脳内の濃度が高まると眠たくなってきます。睡眠相前進症候群に対するメラトニン療法では、メラトニンを午前中に内服することで睡眠の時間帯を少し遅らせようとします。メラトニンと光は逆の作用があるので、両者を併用すると効果を高めることができます。
近年は若いビジネスパーソンの間でも「朝活」が流行っています。健康や作業の能率、エコロジーの面からは良いことなので、私も早寝早起きをお勧めしています。しかし、「夕方から眠くてしょうがない」とか、「いくら遅い時刻に寝ついても、朝早くに目覚めて疲れが取れない」などという場合には、注意が必要です。このような症状が続く場合、体調が悪くなってしまう前に睡眠障害の専門医へご相談ください。