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なぜ『マリオ』はRPGになったのか(2ページ目)

『ドラクエ』『FF』に見るRPGの2つの流れを分析してみると、今話題の『ペーパーマリオRPG』が面白い理由をわかりやすく解明できそうです!

執筆者:川島 圭太

「RPG」の起源は、あの指輪物語!

Role(役割を)Playing(演じる)Game」の頭文字が表すとおり、ゲームのいちジャンルとしてのRPGとは、ゲーム世界の住人のひとりとなって冒険などを楽しむ遊びを意味します。……となると、ある意味ではすべてのゲームがRPGだ!と見なすこともできてしまいそうです。まずは、本来のRPGの起源からおさらいしておきましょう。

日本では、RPGというと「ゲームのジャンルのひとつ」くらいの認識しかありませんが、本来は「一定のルールにのっとって架空の会話を楽しむ即興芝居」のことで、一種のテーブルゲームを指します。1960年代のアメリカで『指輪物語』(映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作)という長編小説がブームになり、その世界を登場キャラクターたちになったつもりで冒険する“会話ゲーム”が、RPGの始まりだとされています。

この本来の意味に従うならば、プレイヤーが操作するキャラクターになりきれるような、しっかりとした世界観が用意されているゲームは、すべてRPGとしての要素を含んでいると言えます。その一方で、ひとりで遊んでいるときはRPGでも、友達と一緒に遊ぶとRPGには当てはまらなくなる場合もあるようです。

たとえば、『マリオカート』をひとりで遊んでいるときは、選択したキャラクターになりきってライバルたちを蹴散らしていく一種のRPGであると言えます。しかし、友達と一緒に遊ぶとなると、現実世界の人間関係の延長線上としてゲームを楽しむ──ゲーム世界のキャラクターになりきるわけではない──という姿勢になり、RPGとしての楽しみ方とは全く異なってくるのです。

このあたりが、「RPG=ひとりで遊ぶゲーム」と認識されがちな理由のひとつかもしれませんね。

友達とのバトルで「やりやがったな!この野郎!」などと叫んだときの「この野郎」とは、あくまでも友達を指すのであって、友達が操作しているキャラクターへの呼びかけではないのです。
写真:『マリオカート ダブルダッシュ!!』
(C) 2003 Nintendo

RPGの2つの流れ──「自己投影」と「感情移入」は違う!

日本を代表するRPGといえば、真っ先に挙げられるのが『ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』でしょう。“2大RPG”とまで呼ばれる両シリーズの開発コンセプトは、そのまま現在のRPGの2つの大きな流れとなっているほど、まるで対照的です。

『ドラゴンクエスト』シリーズは、プレイヤーがゲームの主人公になりきることを重視した“体験型”RPGと言えます。『ゼルダの伝説』や『ポケットモンスター』シリーズなども、このタイプのRPGに分類できます。

“体験型”RPGの主人公は、決して自らの意思で行動することも喋ることもなく、あくまでも「主人公=操作するプレイヤー」です。主人公が無個性だからこそ、プレイヤーは思うままに自己投影(※1)することができ、主人公の成長がすなわちプレイヤーの成長として実感できるような作りになっています。何より、主人公の名前を最初にプレイヤーが決めるという行為が、主人公になりきるための欠かせない儀式なのかもしれませんね。

“体験型”RPGの主人公は、操作するプレイヤーがゲームの世界に入り込むための、いわば「分身」のような存在なのです。
写真:『ゼルダの伝説 時のオカリナ』
(C) 1986-2004 Nintendo

一方の『ファイナルファンタジー(FF)』シリーズは、プレイヤーがゲームの主人公の物語を観ることを重視した“鑑賞型”のRPGと言えます。『テイルズ オブ』シリーズなども、このタイプのRPGに分類できます。

“鑑賞型”RPGの主人公は、プレイヤーの意思とは関係なく行動したり喋ったりします。「主人公≠プレイヤー」であるがゆえに、プレイヤーは主人公に自己投影をしづらい面がある一方で、個性豊かな主人公たちに対して「好き」「キライ」「共感」「反感」といったさまざまな感情移入(※2)をするようになります。“鑑賞する”という立場ならではの、RPGのもうひとつの楽しみ方がここに生じるわけです。

この構造は、映画における登場人物と観客の関係に近いものがあります。とりわけ『FF』シリーズは、ファミコン初期の作品からオープニングやエンディングはもちろんアバン(※3)までもが挿入され、映画的な演出が随所に盛り込まれています。『ドラクエ』の後発である『FF』(※4)が、むしろ確信犯的に『ドラクエ』とは異なる路線を目指した結果と言えるでしょう。

(※1)「自己投影」=物(キャラクター)の見え方や解釈の仕方に、自己(プレイヤー)の心の内面が表現されること。<参考:広辞苑第五版>
(※2)「感情移入」=他人の心理に、自分自身の感情や精神を投射してそれを直接に理解すること。<参考:広辞苑第五版>
(※3)「アバン」=映画などでタイトルが登場する前に挿入されている「幕前芝居」のこと。『FF1』では、最初の敵を倒した後に、これからの壮大な物語を予感させるタイトルロールが流された。
(※4)『ドラクエ』の後発である『FF』=『ドラクエ』第一作の発売日は1986年5月27日、『FF』第一作の発売日は1987年12月28日。

プレイヤーの意思とは無関係に主人公がセリフを喋る“鑑賞型”RPG。キャラクターの個性を前面に打ち出すことで、プレイヤーの愛着心を喚起することにもつながります。
写真:『テイルズ オブ シンフォニア』
(C) 藤島康介 (C) NAMCO LTD

『FF』シリーズの中にあって、“鑑賞型”RPGとは異なる『クリスタルクロニクル』。複数のプレイヤーと助けあいながら冒険できるという、まさに“会話ゲーム”としてのRPG本来の遊び方を実現しています。
写真:『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』
(C) 2003 THE GAME DESIGNERS STUDIO,INC.
FINAL FANTASY is a registered trademark of SQUARE ENIX CO.,LTD.
CHARACTER DESIGN / Toshiyuki Itahana.

……何だか、「Role(役割を)Playing(演じる)Game」という言葉における主語(主体)を、“体験型”RPGなら「プレイヤー(が役割を演じる)」、“鑑賞型”RPGなら「主人公(が役割を演じる)」と解釈してみると、両者のプレイスタイルの違いを簡潔に表現できそうですね。

さて、次のページではいよいよ『ペーパーマリオRPG』をテーマに、マリオがアクションゲームからRPGへと昇華できた仕組みとその魅力を、この調子で分析してみます!

>> Page.2/
なぜ『マリオ』はRPGになったのか
~RPGになって、変わったこと、変わらないこと~


<目次>
『ペーパーマリオRPG』は、なぜ面白い?
RPGの起源から、『ペーパーマリオRPG』の魅力を解明する!
RPGの起源と、2つの大きな流れ
起源はあの指輪物語!~“体験型”の『ドラクエ』、“鑑賞型”の『FF』
なぜ『マリオ』はRPGになったのか
『マリオ』がRPGになって、変わったこと、変わらないこと。

 

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