「2つの老い」と「工事費高騰」に立ち向かう。管理組合が修繕積立金を守る方法は

建物の高経年化と居住者の高齢化が同時に進む「2つの老い」と、建設工事費の上昇による「工事費高騰」により、マンション管理組合の運営が困難になるケースは少なくないようです。そこで、管理組合が検討すべき対策や修繕積立金の運用方法について、マンション管理の研究に取り組む齊藤広子教授に伺いました。

提供:住宅金融支援機構

お話をうかがった方

齊藤広子

東京都市大学 大学院 情報データ科学研究科 特任教授:齊藤広子

筑波大学第三学群社会工学類都市計画専攻卒業。 不動産会社勤務を経て、大阪市立大学大学院生活科学研究科修了。 英国ケンブリッジ大学研究員、 明海大学不動産学部教授、横浜市立大学教授を経て、2025年より現職。

マンション管理を取り巻く厳しい現状とは

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齊藤 広子さん(※以下敬称略)「国土交通省の調査※1によると、築40年以上の高経年マンションは急増し、2023年末時点の約137万戸から、2033年には約2倍の約274万戸まで増加する見込みです。また、築年数と同時に居住者の高齢化も進むケースが多いため、マンション管理組合の役員のなり手不足や、修繕積立金が足りなくても値上げが困難、さらに滞納が生じる可能性が高まります。今後もこの傾向は続き、適正に修繕が行われず管理不全に陥るマンションの増加が懸念されています」

特に高経年マンションにとって、定期的な修繕工事は建物の価値を維持する重要なポイントです。しかし近年、人件費や資材価格の上昇で建設工事費が高騰していることから、修繕積立金不足に悩む管理組合は多いようです。住宅金融支援機構のデータ※2によると、大規模修繕の1戸あたりの平均工事費は、2020年の117.3万円から2024年には162.5万円まで上昇しています。

齊藤「国土交通省の調査※3では、約3分の1のマンションで修繕積立金が不足しています。建設工事費の高騰による影響も一因かとは思いますが、工事費はますます上がっていますので、現在はこの数字はもっと高くなっているでしょう。

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修繕積立額が足りないからといって予算の範囲内で工事を行うと、必要な修繕工事やアップグレード工事の先送りにつながり、マンションの質の低下を招く原因になります。質の低いマンションは魅力が乏しいため、賃貸や売却をしたくてもうまく進まないかもしれません。特に若い人が住みたい・買いたいと思わないマンションは、住民の高齢化が一層進んでしまいます」

※1:マンション関係法改正の概要(令和7年9月)/国土交通省
※2:住宅金融支援機構調べ(マンション共用部分リフォーム融資利用実績)
※3:令和5年度マンション総合調査/国土交通省

修繕積立金不足を防ぐために、管理組合がとるべき対策

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マンションの質を維持するために修繕積立金の不足は避けたいものです。管理組合は先々を見据えて、どのような対策を取ればよいのでしょうか。

齊藤「まずは大規模修繕を2回以上含めた30年以上の長期修繕計画を立てて必要な修繕工事費を把握し、その額に応じて区分所有者から積立金を徴収するのが基本です。もし修繕工事費が分からなければ、住宅金融支援機構のマンションライフサイクルシミュレーション~長期修繕ナビ~を使うことや、また国土交通省が発表している調査結果を目安にするのもよいと思います。

長期修繕計画の内容によっては、現状の徴収額では足りず、値上げが必要になるでしょう。現在、積立金が段階的に上がる『段階増額積立方式』を採用しているなら、徴収額が高くなると総会で反対されたり、居住者の高齢化により徴収が難しくなったりするかもしれません。できるだけ早いタイミングで、毎月一定額を徴収する『均等積立方式』に変更するのが望ましいと考えます。

また、費用が足りない場合は、住宅金融支援機構のマンションすまい・る融資】(マンション共用部分リフォーム融資)があります。この融資を受けるには管理費と修繕積立金を区分していること、滞納率が1割以内であることなどの条件があります。いざというときに頼りにするためにも、こうした管理組合として当たり前の体制を整えておくことが必要です」

修繕積立金の運用を検討する必要も

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築年数を経たマンションほど、徴収した修繕積立金は大きな金額になります。管理組合は、修繕積立金をどのように運用するのがよいでしょうか。

齊藤「マンションの修繕のためのお金ですので、マンションの修繕に備えてのストックがよいでしょう。その方法として、住宅金融支援機構に【マンションすまい・る債】があります。国の住宅政策に基づく債券なので信頼性が高く、マンションの適正管理のきっかけにもなり、定期預金以外の積立方法として意義のある制度です。

さらに言えば、【マンションすまい・る債】を利用していますと、修繕の費用が足りない場合に【マンションすまい・る融資】を受ける際に、融資金利が年0.2%下がり、保証料も約2割引きになります。修繕に対して安心の体制が構築できます」

2026年度【マンションすまい・る債】は現在募集中

【マンションすまい・る債】は、住宅金融支援機構が国の認可を受けて管理組合向けに発行している利付10年債のことです。募集期間や募集口数などが定められており、今年度の募集内容は以下のとおりです。

  • 募集期間 :2026年4月13日(月)から2026年10月9日(金)まで(応募は先着順で、応募口数が募集口数に達した時点で受付終了)
  • 募集口数:582,089口
  • 債券の利率(10年満期時年平均利率(税引前))
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※管理計画認定を取得したマンション向けマンションすまい・る債を「認定すまい・る債」、マンション管理適正評価制度において「★4つ以上」の評価を取得したマンション、またはマンション管理適正化診断サービスにおいて「S評価」の診断を取得したマンション向けマンションすまい・る 債を「ステップアップすまい・る債」と表記しています。

【マンションすまい・る債】は、10年後の満期まで毎年1回の利息の受け取り、債券発行から1年経過すれば手数料無料で中途換金が可能、1口50万円から複数口購入できるなどの特長により、修繕積立金の計画的な積立・運用をサポートしています。応募は先着順のため、理事会でスピーディーに検討するために情報収集を進めておくとよいでしょう。

【マンションすまい・る債】が修繕積立金の運用におすすめな理由

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【マンションすまい・る債】は、委託先の管理会社が手続を代行することができ、残高証明書を指定月に無料で発行してもらえるなど、管理組合にとってメリットが多い点も特長。さらに、マンション管理の認定制度を取得すると利率が0.05~0.1%上乗せされるのは大きな魅力です。

昨年度までは『管理計画認定制度』のみ対象でしたが、今年度からは利率の上乗せ幅は異なるものの、『マンション管理適正評価制度』と『マンション管理適正化診断サービス』でも適用されるようになりました。

齊藤「利率の上乗せもとても魅力的ですが、管理認定は取得を目指す過程で課題を早期発見できるのが最大の利点だと考えています。課題が明確になれば、管理組合が共通目標をもって改善に向けて活動ができるという効果もあります。ぜひ、すべてのマンションで認定取得にチャレンジしてほしいですね。

『管理計画認定制度』とは、適切な修繕や管理を行っているマンションの管理組合が、国の定める基準を満たしていることを地方公共団体が認定する制度です。適正に管理されたマンションであることが明確になり、制度を取得したマンションの7~8割で、管理状況が改善されています。

また、『マンション管理適正評価制度』とは、国家資格を持つ管理業務主任者やマンション管理士が、マンションの管理状態や管理組合運営の状態を6段階で評価してくれます。インターネット上で公開されるため、良質な管理への意識が高まるでしょう。制度を利用したマンションでは、7~8割で管理状況が改善されています。

『マンション管理適正化診断サービス』の場合は、国家資格を持つマンション管理士が建物の共用部分を目視でチェックし、管理規約や長期修繕計画などを確認したうえで管理状況を3段階で評価してくれます。高い評価を受けると火災保険料が安くなることもあり、診断をきっかけに管理状況が改善するマンションは4割程度あります。

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『管理計画認定制度』、『マンション管理適正評価制度』、『マンション管理適正化診断サービス』などを利用し、マンションの管理状態の健康診断をして、改善につなげていただきたいと思います」

【マンションすまい・る債】は修繕積立金を計画的に運用できる賢明な方法ですが、それでも資金が足りないときは、住宅金融支援機構が扱う【マンションすまい・る融資】(マンション共用部分リフォーム融資)を検討するという方法も考えられます。【マンションすまい・る債】を保有していれば、借入金利の引下げと保証料の割引が特典として受けられます。

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【マンションすまい・る債】の購入を、管理への意識を高めるきっかけに

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マンションの質を保つためとはいえ、修繕積立金の値上げは難しい面もあります。値上げを議論する総会でスムーズに承認を得るには、区分所有者への説明がポイントになります。

齊藤「総会では値上げの根拠について、分かりやすく丁寧に説明するのが何よりも大事です。マンションの区分所有者には同じ立場である管理組合の理事が説明するのがベストですが、説明が難しい場合は、管理会社の担当者やマンション管理士、建築士などの専門家に説明してもらうとよいかもしれません。

区分所有者の方は意外に自分のマンションのことしか知らないので、管理の専門家でもある第三者に、他のマンションの管理状況を参考にしながら客観的なアドバイスをもらえば、不安が取り除かれて理解を得られやすくなるでしょう。第三者に依頼すると費用がかかるなら、長期修繕計画の見直し時などピンポイントで依頼するとよいと思います」

総会をきっかけに、区分所有者全員が管理への意識を高め、質を高めようという共通の目標を持ってもらうことが重要なのだとか。修繕積立金の堅実な運用方法としての【マンションすまい・る債】や、資金が不足する場合の【マンションすまい・る融資】などの制度の利用も検討したいところです。

齊藤「もちろん資金がないと、マンションの質を保つのは難しい面もあります。そういったときは、マンション管理の適正化につながる上記の制度を賢く活用できます。将来にわたって安全・安心で、誰もが住みたいと思える価値ある住まいを、区分所有者全員で誇りを持って育んでいきましょう」