「性能向上工事」で高経年マンションを守る!住まいの長寿命化と快適性につながるリフォームとは

高経年のマンションは耐震性や省エネ性に不安があったり、設備の機能や性能が古くなっていたりするため、長く快適に暮らすための対策が不可欠です。直面する問題点と、その解決策となる「性能向上工事」について、専門家である日下部さんに聞きました。

提供:住宅金融支援機構

お話をうかがった方

日下部 理絵

マンショントレンド評論家:日下部 理絵

第1回マンション管理士試験に合格。新築などマンショントレンドのほか、数多くの実務経験、調査から既存マンションの実態に精通する。テレビ・ラジオなどのメディア、講演会・セミナーでも活躍中。著書に『マイホームは価値ある中古マンションを買いなさい!』(ダイヤモンド社)、『60歳からのマンション学』(講談社+α新書)など多数。

高経年のマンションで考えたい「性能向上工事」

paragraph_0_img_0

住まいの身近な課題として近年、社会問題の一つとして問題視されているのが、管理や修繕が適切に行われず、建物や設備の劣化が進んでしまった高経年マンションの存在です。

日下部さん(以下敬称略)「築40年以上の高経年マンションはかなりの数にのぼります。そもそも、マンションを適切に維持管理していくための長期修繕計画がないような物件も見かけますね。

築40年となると、通常10~15年ごとに行う大規模修繕工事を2回〜3回は経験しているはずですが、必要な時期に必要な修繕が適切にされていなかったり、耐震化を検討したりしている場合、費用対効果から4回目を迎えるころには建て替えの話も出てくるでしょう」

令和6年の国土交通省のデータでは、築40年以上のマンションは現在136.9万戸、10年後には約2倍、20年後に約3.4倍に増加見込みとされています。

日下部「マンションを長寿命化し、毎日安心して暮らすためには、もちろん大規模修繕工事が重要なのですが、長く快適に住い続けるためには、大規模修繕の他に、『性能向上工事』を検討することも大切です。両方の工事を適切なタイミングで実施することで、新しい設備の導入などもやりやすくなり、区分所有者の利便性やマンションの資産価値もアップします」


元の性能や機能をさらにグレードアップする

paragraph_1_img_0

マンションの区分所有者なら大規模修繕工事についてはよくご存知だと思いますが、「性能向上工事」とはどんなものなのでしょう。

日下部「大規模修繕工事は『修繕』ですので、経年により劣化した部分の性能や機能を元の状態に回復させるものです。それに対して性能向上工事は、修繕に『改良』をプラスして、性能や機能をグレードアップさせるものを指します」

具体的に、性能向上工事にあたるものはどんな例があるのでしょうか。

日下部「代表的なのは、耐震性を上げる工事や、断熱・サッシ交換など省エネ性能向上のための工事です。大規模修繕工事で給排水管の交換を行う際に、共用部分の給水塔や受水槽を撤去し、給水方式を変えるケースも性能向上工事の一種です。

1階にあった受水槽を撤去して駐輪場やバイク置場にしたり、機械式駐車場を撤去して平面式の駐車場にしたり、機械式駐車場の空スペースにトランクルームやバイクが停められる固定装置を設置する例などもありますね」

いうならば、使われていないものを便利な形に変えるなど「もっとよくなる」のが性能向上工事といえそうです。

日下部「その他、時代に即した設備として、防犯カメラ、宅配ボックス、インターフォン、オートロック、エレベーター、バリアフリーなどの導入も挙げられます。建物の長寿化と住みやすさ、さらに資産価値も上げることを目的とした工事と捉えるといいでしょう」


性能向上工事の3つの課題にどう対応する?

paragraph_2_img_0

しかし、性能向上工事を実施する際に、大きな課題となることがありそうです。

日下部「まず問題となるのは資金不足です。ここ数年物価高が続き、工事費も高騰していますので、きちんと積み立てていたはずでも費用に余裕がない、費用が足りない!というマンションも多くなっていますし、性能向上工事を元から計画しているケースは多くないでしょう。特に耐震工事は、重要ではあるものの莫大な費用がかかります。マンションのウイークポイントをしっかりと把握し、どんな工事が実施できるか、優先順位や資金の調達方法も併せて検討することが必要です」

2つめの課題として、高経年マンションは特に、区分所有者の意見をまとめるのが難しいという点がありそうです。

日下部「昔は、結婚や子どもが小学校に入学するタイミングで新築マンションを購入し、建物とともに家族が歳を重ねるという流れがありました。その場合は、住民の世代や経済状態が近く、皆が高齢になったからバリアフリーを導入しようなど、ニーズも絞りやすくなります。

最近は、新築の供給不足や価格高騰の影響で、若者世代が中古マンションを選択することも増えています。その結果、住民の価値観やライフスタイルがまちまちになったことで、合意形成が難しくなっているのが現状です」

3つめの課題として、性能向上工事は実施している組合がまだ少なく、定期的に行われる大規模修繕工事よりも情報収集が難しそうです。

日下部「合意形成には、最新情報や住民が納得できる資料が必要となります。性能向上工事の場合、管理組合の理事はまず何から着手し、どう進めればいいかわからないというのが本音ではないでしょうか。工事にあたり、正しい知識を得る方法がポイントになります」


資金不足は、安全な融資や運用で解決

では、3つの課題を解決するための方法を見ていきましょう。まず1つめの課題の資金不足については、後送りにするほど状況が悪化する可能性があります。対応策としてはまず修繕積立金の値上げや一時金の徴収がありますが、それが難しければ、融資を活用し早めに対処することも検討すべきです。

日下部「管理組合として融資を受けるなら、最重要なのは安全性です。マンションリフォームに特化した融資のひとつに、担保不要、全期間固定金利で低金利という、住宅金融支援機構の『マンション共用部分リフォーム融資』があります」

【マンション共有部分リフォーム融資】画像

マンションの戸数や規模を問わずに利用でき、性能向上のために耐震や省エネ工事をする場合は、融資金利の引き下げも。

日下部「費用がなく一時金の徴収や修繕積立金を大幅に値上げするなら工事には全部反対する、ということでもめてしまうようなケースでは、安全に資金が調達できれば意見が変わることも多く、2つめの課題のスムーズな合意形成にも役立ちます」

「マンション共用部分リフォーム融資」の詳細はコチラ >>


また資金不足に備えるため、計画的に工事費用を積み立て、しっかりと運用するなら【マンションすまい・る債】という利付き10年債があります。

【マンションすまい・る債】画像

日下部「【マンションすまい・る債】は管理組合の大切な修繕積立金をできるだけ増やすために活用してほしい商品です。工事資金のために中途解約が必要となったときも手数料不要なのでリスクがなく、『マンション共用部分リフォーム融資』と併用すれば、借入金利引き下げの特典もあります。

国の認可を受けて発行している債券なので、安全・確実であるのもポイント。例年、春先から秋ごろまで募集が行われているため、理事会で話し合い、総会の議題にできるよう準備しておきましょう」

【マンションすまい・る債】の詳細はコチラ >>


充実の手引き書で管理組合をバックアップ

性能向上工事を進める際の工夫点

管理組合で性能向上工事をどう進めていくべきか、正しい知識をどう得るかという3つめの課題を解決するには、住宅金融支援機構が発行している『性能向上工事を進める際の工夫点』が参考になりそうです。

日下部「ホームページ上でPDFのデータを無料でダウンロードできるので、まずは一読してみることをお勧めします。性能向上工事について、一般向けにまとめられているものはまだ少なく、無料でここまで提供していいの……というほど充実した内容です」

実際に、工事を体験した管理組合の先輩たちの声も豊富に掲載。起こったトラブルや解決に至る工夫など、とてもリアルで読みやすくなっています。

日下部「工事の基礎知識から施工会社の選定、具体的な工事事例など、やることが多すぎる管理組合を力強く支えてくれるはずです。難易度の高い合意形成を上手に進め、決定するためのヒントもあり、ぜひ活用してほしい1冊です」

『性能向上工事を進める際の工夫点』の詳細はコチラ >>


性能向上工事が大切な暮らしと資産を守る

paragraph_7_img_0

性能向上工事は、快適で安全な住まいに長く住み続けるための大切な手段ですが、いつごろから準備しておくべきでしょうか。

日下部「築40年以上を目安にしつつ、できるだけ早く動くのがセオリーです。少なくとも3回目の大規模修繕に合わせて、住民全員にアンケートを取るなど、意見交換をしてマンションの弱点を洗い出しておきましょう。

性能向上工事で何をバリューアップしたいのか、今後の方向性決定が重要です。早めに融資なども検討し、資金不足に備えれば、やれることの選択肢も広がります」

今後、工事に必要な資材や人件費の上昇に伴い工事費用が大きく下がることはないと想定されています。

日下部「大規模修繕工事と性能向上工事を同時に行うことで、必要な手続きや、工事の面でも足場の設置など仮設工事の費用が一度で済み、費用と時間の効率もはかれるので、タイミングを逃さないようにしましょう。物件の購入価格が高騰している今、古くなっていてもマンションは大切な資産です。できる限り長く住みながら、資産価値も落とさないために、適切な修繕・改良を行ってください」