実家をどうする? 子世帯が親世帯と一緒に考えておくべきこと
親が高齢になるにつれ、実家の相続をどうするか頭を悩ます方が多いのではないでしょうか。今の親の生活を尊重しながら、相続での子世帯の負担を減らす方法について、ファイナンシャルプランナーである佐藤益弘さんにうかがいました。
提供:住宅金融支援機構
お話をうかがった方
All About『不動産にまつわるお金』ガイド:佐藤 益弘
某メーカーの不動産部門にてマンション開発・販売統括・管理支援などの主任を務める中、FP資格を取得し独立系FPとして独立。FP教育機関のスタッフとしても迎えられ、3つの独立系FP関連会社設立にも参画。【優益FPオフィス】代表。「マイアドバイザー®」(https://www.my-adviser.jp/)、「ライフプランFP®」としても活動中。
実家の「これから」を決める第一歩は親子の話し合い
実家を将来どうすべきかは、子世帯にとって大きな問題です。相続して住む、賃貸に出す、売却するなど、いくつかの選択肢がありますが、どのようなタイミングで考えていくといいのでしょうか。
佐藤 益弘さん(※以下敬称略)「親が70代になったら、いったん親子で話し合ってみることをおすすめします。この世代であれば、判断力や気力・体力もまだ十分にあるでしょう。親の意思が確認しやすく、子世帯の選択の幅も広がります。
最初は“仮決め”のような形でも、ある程度方針を決めておかないと、複数の相続人がいるときなど争いごとになってしまうこともあります。また、大事でなくてもケガをした、体調を崩したなどの話があったときも、ひとつのタイミングかもしれません」
親に相続関係の話をスムーズに持ちかけるのは、なかなかデリケートで難しいように思います。
佐藤「親から見れば、自分がいなくなった後の話をされるので、感情的になってこじれるケースもあります。最初は、家族が直接顔を合わせる年末年始やお盆、お彼岸などの際に、軽く世間話として切り出してみてください。
有名人や知り合いの相続トラブル事例などを出して他人事から入り、『うちの場合は……』と徐々に自分事に変えて話を進めるのがいいでしょう。TVの情報番組で、老後や相続の話題が出たときなどもチャンスです。
親子とも相手に気を遣って本音が言えない場合などは、本意でない方向に話が進んでしまうこともあります。FPや終活アドバイザーなどの専門家に、第三者としてサポートしてもらうのも方法です」
親の暮らしを守りたいが、金銭面での不安も
実家が老朽化している、段差が多い、断熱性が不十分など、親が暮らす住まいに心配がある場合、どう対処するといいのでしょうか。
佐藤「住宅には耐用年数があるので、より快適に暮らすには計画的なリフォームや建て替え、住み替えなどが必要になります。また、高齢になると身体・精神・認知の機能の低下が始まる頃でもあります。住宅は生活の基盤になるものなので、親の状況に合わせて手を入れるのが理想です」
ただ、金銭的な不安から、親はできるだけ老後に大きな出費はしたくないと考えるのは当然のこと。子世帯としても、親に幸せに暮らしてほしいけれど、住宅にかかる費用は多額のため、こどもの教育費や自身の家の住宅ローンなどを抱えている自分たちが代わりに支払うとなると難しいのが現状かもしれません。
佐藤「適切な時期に、適切な行動をするために上手にお金を使うことが大切です。『壊れたら補修すればいい』など場当たり的だと、緊急対応になるので選択肢もなく、かえって高額になりやすいのです。
私が相談を受けた例では、数年先にリフォームを考えていたところ、年内に該当工事に補助金が出ることがわかり、早めに対応したケースがありました。早めに資金を用意し、ライフプランを立てて、計画的に住宅に手をかける方が、物価や金利のアップにあわてることもなく結果的にお得です。時間と心にも余裕が持てるでしょう。
手元の預貯金を残しながら、住宅資金をローンで調達するという選択もあります。返済のあてのない借金は厳禁ですが、早く対処するほど、親の暮らしは安全で快適になり、住宅の寿命も伸ばすことができます。
住宅に特化した安全性の高いローンとして注目したいのが、公的金融機関である住宅金融支援機構と提携している金融機関が提供する【リ・バース60】です」
親の住宅資金は【リ・バース60】で調達
【リ・バース60】とは、住宅金融支援機構(旧:住宅金融公庫)が、住宅融資保険という制度を通じて金融機関と提携。その金融機関が提供するリバースモーゲージ型住宅ローンのことです。60歳以上の方を対象としており、全国各地で利用できます。
■どんな資金に利用できる?
・契約者本人が住む住宅を建設、または購入する資金
・自宅のリフォーム資金
・住宅ローンの借換資金
・サービス付き高齢者向け住宅の入居一時金
・子世帯などが住む住宅の取得資金を借り入れる資金
資金の利用用途は住宅関連に限られ、生活資金などには利用できません。
佐藤「この商品は、まず住宅ローンで歴史と実績のある住宅金融支援機構が関与している点が、大きなプラス要素と考えています。使える用途が制限されていますが、住宅関連資金をローンで調達することで、手元に残した預貯金を他のものに使うことができます」
■いくらまで借りられる?
担保評価額の50%または60%※1です。ただし、8,000万円以下で所要資金以内が融資限度額、つまり借りられる金額になります。
※1 契約者の年齢が満50歳以上満60歳未満の場合は「担保評価額の30%」となります。担保とする住宅(セカンドハウスを含みます)が長期優良住宅の場合で、契約者の年齢が満60歳以上のときは「担保評価額の55%または65%」となります。
仮に、リフォーム工事費500万円で、担保評価額1,000万円(住宅・土地)の実家をリフォームする場合、融資の限度額は500万円で、月々の返済額は12,500円※2です。
※2 試算条件 変動金利年3.0%で、担保評価額の50%を上限とした場合。金利が見直されると毎月の返済額(支払額)が変わります。
【リ・バース60】の元金は、生存中に繰り上げ返済することで減らすことが可能ですが、契約者である親が亡くなった後に残金を一括で返済することになります。その返済方法は、次の2つより選択できます。
返済方法1:相続人が返済する
相続人が物件を引き継ぎ、相続人の預貯金などで一括返済するか、ローンを組んで返済します。元金の返済後には担保物件を引き継ぐことができます。
返済方法2:担保物件の売却代金で返済する
売却方法は、相続人が自分で売却するか、金融機関などが競売手続きをとります。売却代金での返済後に債務が残った場合、不足分の取扱いはノンリコース型かリコース型かによって異なります。(下図参照)
※1 2023年度のお申込み件数に占める割合です。
※2 ノンリコース型の場合、返済が不要となる残債務分については、債務免除益とみなされ、一時所得が発生し、所得税等が課税される可能性があります。詳しくは、税務署や税理士にご相談ください。
子世帯も安心できるノンリコース型
契約者である親世帯だけでなく、相続人となる子世帯にとって【リ・バース60】が評価できる点はどんなところでしょうか。
佐藤「最大のメリットは契約時にノンリコース型を選べることで、これは実務家FPとしてこの商品をおすすめしたいポイントです。実家を残さなくていいのであれば、前述の返済方法2の通り、担保物件である実家を売却後に債務が残った場合でも相続人がそれを返済する必要がないのがノンリコース型になります。もし、担保物件を売却した際に余剰金があったときは、相続人が受け取れます」
【リ・バース60】を親世帯が利用する前に、子世帯が準備しておくことはありますか?
佐藤「この住宅ローンの商品特性や、親である契約者がなくなった後の手続きについて理解しておくことが大切です」
【リ・バース60】のノンリコース型について詳しく知りたい >>
親は快適で安心な暮らし、子は金銭面の負担減に
【リ・バース60】は、親と子の双方に安心感と負担軽減というメリットがある金融商品となりそうです。
佐藤「親が子供に、家を資産として残したいと思うのは人情として当たり前のこと。しかし、自分で築いた財産ですから、子供に迷惑をかけないことを前提に、自分で使い切るというのもひとつの在り方です。親が快適で安全な家で、最後まで幸せに暮らせるのならば、子供としても本望ではないでしょうか。
最近では、実家じまいのセミナーに親子で参加する方もよく見かけるようになりました。方針が決まっておらず、どうしたらいいのか? 誰に聞いたらいいのか? などが分からなくて来たという方が多い印象です。避けては通れない問題なので、まずは親の認知力が健全なうちに、コミュニケーションをしっかり取ることから始めましょう。
そして、【リ・バース60】のように、活用できる商品やサービスは早いうちから検討することが大切です。親子ともに納得のいく選択をしてください」