60歳からの住まいとお金の考え方 ~【リ・バース60】の活用事例を紹介~
人生100年時代の今、60歳からの住まいとお金について、いつ・どのように考えればよいのか悩んでいる方はいませんか。そこで、ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんに、老後の住まいを考えるタイミングやお金のことについて教えていただきました。
提供:住宅金融支援機構
お話をうかがった方
ファイナンシャルプランナー:畠中 雅子(はたなか まさこ)
大学時代にフリーライター活動をはじめ、マネーライターを経て、ファイナンシャルプランナーになる。新聞、雑誌、ウエブなどに、1万件を超える執筆記事や監修記事を掲載。執筆のほかにも、セミナー講師、講演、相談業務、金融機関へのアドバイス業務などを行っている。 「貯金1000万円以下でも老後は暮らせる」(すばる舎)、「70歳からの人生を豊かにするお金の新常識」(高橋書店)など、著書・監修書は70冊を超える。
60歳以降の住まい、いつ・何を考えるべき?
定年退職を迎える60歳以降は、ライフスタイルが変わり、家にいる時間は必然的に長くなります。老後の暮らしを見据え、住まいを快適に整えたいと思う方は多いのではないでしょうか。
畠中 雅子さん(※以下敬称略)「私が受けているマネー相談では、60歳前後の方から住まいとお金に関するご相談が増えていきます。相談の内容は様々ですが、例えば、古い家をリフォームしたいけど介護が必要になって住めなくなるかもしれないからお金をかけるのはもったいないかな……など、この先の住まいのイメージが固まらず、いつ、どうすればよいのか決断ができない方が多い印象です。
老後の住まいについてじっくり考えるのは良いことですが、悩んでいるうちに家や設備に不具合が生じ、慌ててリフォームするというケースがあります。特にキッチンや浴室などの水まわりが故障した場合は急いで修理する必要がありますが、それに合わせて他の場所もリフォームをしようと急に考え、無計画に貯金を取り崩したり、金利の高いローンを組んでしまったりする人もいるようです。
60代は現役のときに手に入れた家の修繕が必要になる年代です。病気や介護など、今後どうなるか分からないこともありますが、一方で、自分や家族がこの先がどう生きていきたいかは決められるはず。無駄なお金を使わないためにも、早めにイメージを固めて、決断を先延ばしにするのは避けたいですね」
老後の住まいを考え、希望に合わせて実行するのはいつ頃がよいのでしょうか。
畠中「60歳頃から考え始めて、現在の年金支給開始年齢である65歳頃に実行できるとよいでしょう。法改正によって定年が延びる可能性があり、今後は70歳まで働く人も増えるかもしれませんが、早めに住まいを整えて快適な家に長く住むことは、人生の質を高める重要なポイントだと思います」
住まいを整えるお金は、どう用意する?
定年退職で収入が減る、医療・介護の支出が増えるなど、老後の家計に不安を持つ方は多いでしょう。では、住まいを整える費用はどう用意すればよいのでしょうか。
畠中「定年退職後の家計は、年金収入で食費や水道光熱費などの基本的な生活費を支払い、手元の貯金から特別出費、例えば固定資産税や自動車税などの税金、冠婚葬祭などのイベント費用、病気にかかった場合の医療費などを払うのが一般的。なので、手元資金はある程度残しておくことが必要です。
手元資金が潤沢にあれば、建て替えや住み替え、リフォームなど住まいを整える手段を自由に選択できますが、そういう方は多くないかもしれません。
最近は、自宅の家や土地を担保に金融機関からお金を借りる融資制度の『リバースモーゲージ』を取り扱う金融機関が増えています。このような制度の力を借りて、老後の住まいをプランニングするのもよいと思います。その中で私がご紹介したいのは、住宅金融支援機構と提携している金融機関が提供する【リ・バース60】です」
60歳からの住宅ローン【リ・バース60】とは
【リ・バース60】は、公的金融機関である住宅金融支援機構(旧:住宅金融公庫)が、住宅融資保険という制度を通じて金融機関と提携。その金融機関が提供する住宅ローンです。
一般的なリバースモーゲージと同様に、【リ・バース60】も毎月の支払いは利息のみです。元金と利息を返済する住宅ローンと比べると支払い額が少ないため、年金生活者にとっては使い勝手がよい融資制度です。
畠中「【リ・バース60】のメリットは、エリアを限定することなく全国各地で利用できる点や、借入申込時点で物件を所有している必要はなく、今後取得する物件も対象となる点です」
●【リ・バース60】の使い道は?
【リ・バース60】では、使い道を下記のような住まいに関する事項に限定しています。
- 本人が住むための住宅の建設資金または購入資金
- 住宅のリフォーム資金
- 住宅ローンの借換資金
- サービス付き高齢者向け住宅の入居一時金
- 子世帯などが住む住宅の取得資金を借りるための資金
●【リ・バース60】の融資限度額は?
【リ・バース60】の融資限度額は、(1)8,000万円(2)所要金額100%(3)担保評価額の50%または60%※のうちの最も低い金額となります。
畠中「融資限度額が低く抑えられていると感じるかもしれませんが、年金収入のみなら返済不安が少ないほうが安心なので、適正な水準だと考えます」
ちなみに、担保評価額とは、不動産の売却時にいくらで売れるのかを算出した金額のことで、金額は不動産鑑定士が算定したり、路線価や固定資産税評価額を用いて計算されるのが一般的です。
畠中「自分で担保評価額を計算するときは、不動産会社が提示するような売買価格と間違えないように気を付けてください。一般的に、売買価格は路線価や固定資産税評価額よりも高くなるためです」
※契約者の年齢が満50歳以上満60歳未満の場合は「担保評価額の30%」となります。担保とする住宅(セカンドハウスを含みます)が長期優良住宅の場合で、契約者の年齢が満60歳以上のときは「担保評価額の55%または65%」となります。
●【リ・バース60】の返済方法は?
【リ・バース60】の元金は、生存中に繰り上げ返済することで減らすことが可能ですが、契約者が亡くなられた後に残金を一括で返済することになります。その返済方法は、次の2つより選択できます。
- 方法1:相続人が一括返済する
相続人が物件を引き継ぎ、相続人の預貯金などで一括返済するか、ローンを組んで返済する。元金の返済後には担保物件を引き継ぐことができる。 - 方法2:担保物件の売却代金で返済する
売却方法は、相続人が自分で売却するか、金融機関などが競売手続きをとる。売却代金での返済後に債務が残った場合、不足分の取扱いはノンリコース型かリコース型かによって異なる(下図参照)。
※1:2023年度のお申込み件数に占める割合です。
※2:ノンリコース型の場合、返済が不要となる残債務分については、債務免除益とみなされ、一時所得が発生し、所得税等が課税される可能性があります。詳しくは、税務署や税理士にご相談ください。
相続人が家や土地を引き継ぐ予定がない、担保物件を相続する人がいない場合には、ノンリコース型を選択されるとよいかもしれません。ただ、ノンリコース型のほうが、リコース型より金利が高くなる傾向があります。
【リ・バース60】について詳しく知りたい >>
【リ・バース60】の活用事例を紹介
【リ・バース60】の申請件数は2024年3月末時点で累計約7,000件と、多くの方に利用されている金融商品です。ここでは【リ・バース60】の活用事例を3つ、資金計画と併せてご紹介しましょう。
<事例1>戸建住宅のリフォーム
80歳代、年収100万円台(年金収入のみ)の方です。古くなった家をリフォームしたいものの、必要なリフォーム工事費用300万円を全額出すのが難しく、どうしようかと悩まれていました。
<資金計画>
・所要資金(リフォーム工事費):300万円
・担保評価額(A):500万円
・担保掛け目(B):60%
・融資限度額(A)×(B):300万円
・【リ・バース60】借入額:300万円
・自己資金:なし
・毎月支払額(利息分):0.9万円(金利が年3.6%)※金利が見直されると変わります
担保評価額の60%まで借入れられたので、自己資金なしでリフォームを実行できました。毎月支払額も少ないため、年金収入のみでも安心です。
畠中「リフォームは全額自己資金で行う人が多いのですが、【リ・バース60】を活用して老後資金を取り崩さなかった事例ですね。80代で年金収入のみですが、毎月支払額が1万円以下なので、無理のない返済計画だと思います」
<事例2>住宅ローンの借換え
70歳代、年収300万円台(パート・アルバイト収入含)の方です。今も返済している住宅ローンの負担が大きいので、借り換えて返済負担を軽くしたいけれど年齢的に難しいのでは……と思われていました。
<資金計画>
・所要資金(住宅ローン残債):1000万円
・担保評価額(A):2600万円
・担保掛け目(B):50%
・融資限度額(A)×(B):1300万円
・【リ・バース60】借入額:1000万円
・自己資金:なし
・毎月支払額(利息分):3.0万円(金利が年3.6%)※金利が見直されると変わります
所要資金が融資限度額よりも低かったため、自己資金なしで住宅ローンの借換えができました。毎月支払額も以前より減ったそうです。
畠中「【リ・バース60】の毎月返済額は、金利が変わらない限り、ずっと同じ金額です。この方は年収300万円なので毎月の支払いが3万円でも大丈夫ですが、仕事を辞めたり、年金収入が1人分になったりしても、無理なく払える金額にしたいですね」
<事例3>自宅の建替え
70歳代、年収200万円台(年金収入のみ)の方で、連帯債務者は70歳代、年収100万円台です。家が古くなったので建て替えたいが、預貯金を使いすぎると老後の生活資金が不安だし、年金収入だけで住宅ローンを払うのは無理と思い、どうするか迷われていました。
<資金計画>
・所要資金(建替え費用):3100万円
・担保評価額(A):4900万円
・担保掛け目(B):50%
・融資限度額(A)×(B):2450万円
・【リ・バース60】借入額:2200万円
・自己資金:900万円
・毎月支払額(利息分):5.5万円(金利が年3.0%)※金利が見直されると変わります
担保価値が十分あったこともあり、【リ・バース60】の借入額に自己資本を加えて、希望する金額をまかなうことができています。
畠中「住宅ローンよりも毎月返済額が少ない【リ・バース60】のメリットを生かした資金計画ですね。預貯金の一部を自己資金に充てて毎月の支払を少なくしたのもよいと思います。
建替えた家を相続人が住み継ぐ予定があるなら、リコース型を選択して金利を抑えるのも一案です。いずれにせよ、【リ・バース60】の利用前には、相続人とよく話し合うことが大事です。相続人に資金計画をまとめた紙を渡してサインしてもらったり、契約時に同席したりてもらったりすれば、相続後のトラブルを防ぎやすくなります」
その他の活用事例はこちら >>
【リ・バース60】で快適な住まいを手に入れよう
活用事例でご紹介したように、【リ・バース60】は毎月返済額を抑えながら、老後の住まいを整える有効な手段となります。
畠中「【リ・バース60】は毎月、利息部分を払い続ける必要があるので、長生きした分だけ総支払額は増えてしまいます。そのため、早いタイミングでの利用は避けたほうがよいという意見もありますが、私は、早いほうが快適な家に住める期間が長くなると考えています。
古い家に10年我慢して暮らすのか、リフォームや建替えをした快適な家で10年暮らすのかでは、生活の楽しさだけでなく健康寿命も変わるかもしれません。相続人としっかり話し合いながら【リ・バース60】を上手に利用し、快適な住まいを手に入れてくださいね」
【リ・バース60】は、取扱金融機関によって利用できる方の年齢、資金の使いみち、融資限度額、金利タイプなどが異なります。取扱金融機関は【リ・バース60】のWEBサイトで検索できるので、詳しい情報は確認してみましょう。