食欲の秋は “血糖負債” に要注意! 運動や食事で楽しく健康を維持するコツ
食欲の秋、到来! 新米やフルーツなど、旬の食べ物が楽しみな季節です。クリスマスや年末年始も目前となり、おいしい食べ物との縁が切れない日々が続く一方で、気になるのが健康状態。つい食べ過ぎて「体重計に乗るが怖い……」なんて方もいるかもしれませんが、それ以上に心配なのが “血糖負債” です。生活の変化により、さらに高まったとも言われる血糖負債のリスクとは? 予防法と併せて専門家の方々にうかがいました。
提供:一般社団法人日本生活習慣病予防協会
お話をうかがった方

一般社団法人日本生活習慣病予防協会 理事長:宮崎 滋さん
1971年、東京医科歯科大学医学部を卒業。東京逓信病院副院長、新山手病院・生活習慣病センター長などを経て、2015年、公益財団法人結核予防会理事・総合健診推進センター長に就任。糖尿病、肥満症、メタボリックシンドロームを専門とする。
お話をうかがった方

管理栄養士:望月 理恵子さん
1999年、東京家政学院短期大学 生活科学科 食物栄養学科を卒業。調剤薬局、健康食品・化粧品会社などを経て、2012年より株式会社Luce 代表取締役に就任。アンチエイジング、メタボリックシンドローム、美容など、さまざまなジャンルの栄養情報を発信中。
把握していますか? 血糖負債のカギとなる “血糖値” と “HbA1c”

おいしい季節の到来を喜びながらも、コロナ禍で体を動かす機会が減り健康状態が気になる人も多いのではないでしょうか。
実際、2021年3月に一般社団法人日本生活習慣病予防協会が行った調査では、“BMI” と “HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)” の数値が悪化していることもわかりました。これは、医師に向けて「コロナ禍における健康診断・人間ドックを受診した患者の悪化した項目」を尋ねたところ、これらの数値が悪化したという回答が半数以上にも上ったのです。

「コロナ禍における健康診断・人間ドックを受診した患者の悪化した項目」の回答をグラフ化したもの。HbA1cやBMIのほかにも、気になる項目が挙がっています。
肥満度の指標であるBMIに比べ、それほど聞き慣れないHbA1cとは何でしょうか。一般社団法人日本生活習慣病予防協会の理事長、宮崎さんにうかがいました。
宮崎さん「HbA1cとは、赤血球内のヘモグロビンにブドウ糖が結合したもの。“糖化ヘモグロビン” とも言われ、血糖値同様、糖尿病の診断と経過判定のために測定されます。血糖値は血液中にあるブドウ糖の濃度を指しますが、食事をすれば上昇し、運動をすれば下降するなど、その時々で変化するもの。一方、HbA1cは過去1〜2か月の平均的な血糖レベルを示すため、糖尿病の診断時にはどちらも測定する必要があるのです」
糖尿病ってどんな病気?>>

血糖値が高い、つまり血液中のブドウ糖が多い状態ならその分、ヘモグロビンと結び付きやすくなり、HbA1cも上昇するといいます。こうした高血糖がある程度続くことで身体に負担がかかり蓄積されていく。これこそが「血糖負債」と呼ばれるものなのです。
糖尿病だけじゃない! 血糖負債に伴う多くの問題とは
宮崎さん「糖尿病の診断基準値は、空腹時の血糖値が126mg/dL以上、食後血糖値で200mg/dL以上、そしてHbA1cは6.5%以上とされています。
ただし、この数値に満たないからと言って、安心するわけにはいきません。HBA1cが5.6%を超えると人間ドックでは軽度異常と判定されますし、血糖負債も少しずつ積み重なっていくことになるんです。
高血糖状態をそのままにしておくと、動脈硬化、認知症、がんなどのリスクを高めてしまうことになります」
そして当然ながら、数値が高くなるほど問題も大きくなります。
宮崎さん「HbA1cが7%以上であれば、糖尿病網膜症、腎症、神経障害といった糖尿病の合併症が急速に進行します。そのままにしておくと、回復不能の合併症がますます悪化。網膜症では失明、腎症では透析、神経障害では下肢切断などに陥る可能性が高まります」
不安になるお話が続きますが、「合併症に進行する前なら、血糖を改善して負債を返済することは可能」だといいます。

宮崎さん「運動不足、消費エネルギー以上の食事摂取など、血糖値を上げる要因が数日続いても、すぐに糖尿病につながるわけではありません。これが数か月続くと体重や内臓脂肪が増え、インスリンが効きにくくなっていきます。そこから糖尿病となり、合併症が進行するまでには年単位の時間がかかるので、その前に生活習慣を改善することが大切です」
少しでも体を動かして、血糖負債を楽しく予防しよう
では、どうすれば血糖負債を予防できるのでしょうか。管理栄養士の望月理恵子さんは「適度な運動とバランスの良い食事が大切です」といいます。

望月さん「運動については、ややきついと感じるくらいの有酸素運動と筋肉トレーニングを組み合わせるとより効果的です。
有酸素運動を行うと筋肉への血流が増加します。これによりブドウ糖が細胞の中にどんどん取り込まれるため、インスリンの効果が高まって血糖値が下がります。
一方、筋力トレーニングの場合は、筋肉が増えることでインスリンの効果が高まり、血糖値が下がりやすくなります」
運動や筋肉トレーニングのポイントを望月さんに教えて頂きました。

●有酸素運動のポイント
・ややきついくらいのウォーキングやジョギング、水泳などの全身運動がおすすめ
・できれば毎日、少なくとも週に3回以上、各20~60分間行い、1週間で合計150分以上の実施を推奨
●筋力トレーニングのポイント
・腹筋、ダンベル、腕立て伏せ、スクワットのように、足や腰、背中などの大きな筋肉を中心に、全身の筋肉を使ったトレーニングがおすすめ・1種目につき、10~15回を1セットとして、1~3セット繰り返し、週2〜3回行うことを推奨
望月さん「食事の1~2時間後に運動を行うと、食後の高血糖状態が改善されて効果的です。ただし、運動は継続することが重要。たとえば有酸素運動のウォーキングなら、通勤や通学の時間を当てるなど、日常生活に取り入れることが大切です。運動をやめてしまうと、その効果は3日程度で失われると言われているので注意しましょう」
おすすめの食品から食べ方、レシピまで。食生活から予防する方法
食生活の改善も、血糖負債の予防・解消に効果的な手段のひとつです。望月さんに食生活のポイントをあげていただきました。

●食品の選び方
・高エネルギー食品のとり過ぎに注意。肥満になるとインスリンの効果が弱まる
・糖質の多い食品もたくさん食べると血糖値の急上昇に。白米よりも玄米、食パンよりもブランパンといった低GI食品を選ぶのがおすすめ
●夕食のタイミング
・夕食はできれば18時〜19時ごろまでに食べるのが良い。日中に比べ、夜間は食べたものを代謝する能力が半減するため、たとえ同じ摂取カロリーでも血糖値が上がりやすい
●食べる順序
・たんぱく質を多く含む、肉・魚料理から食べる「プロテインファースト」もおすすめ。たんぱく質は血糖値の上昇に影響を与えず、満腹感も得やすいので食べ過ぎを防ぐ効果もある

●おすすめの食品
・食事の30分ほど前に野菜ジュースやヨーグルトを食べておくと、食物繊維、あるいはたんぱく質の働きにより、糖の吸収が穏やかになるのでおすすめ
特にヨーグルトは腸内環境を改善する上でも心強い味方だといいます。
望月さん「乳酸菌によって腸内環境が改善されると、インスリンが効きやすくなります。腸内環境改善を目的とするなら、食べるのは食後に。というのも、空腹で食べると胃酸によって乳酸菌が死滅する可能性があるからです。
一方、血糖値の上昇を緩やかにするのが目的なら、前述のとおり食事の前がおすすめ。量が多いと食事が入らなくなるかもしれませんので、多くても100g程度(1カップ)が良いでしょう。どのタイミングで食べるにしろ、加糖ではなく無糖・低脂肪のものを選びたいですね」
そんなヨーグルトを使ったレシピも、望月さんに教えてもらいました。いずれもこれからのイベントごとにピッタリの華やかなものばかり。手間をかけずにできるので、ぜひ皆さんも作ってみてください。
ヨーグルトを食べると糖尿病リスクが低下!?>>

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●アップルヨーグルト
望月さん「りんごに含まれる食物繊維やオリゴ糖は、善玉菌の餌となって増殖を助けるので、腸内環境の改善につながります。りんごの皮もそのまま食べると、抗酸化作用の強いりんごポリフェノールや抗糖化作用のある食物繊維の一種、ペクチンがより多くとれるのでおすすめ。当然ながら農薬などの害はありませんが、気になる方は無農薬のものなどを選ぶと良いでしょう」

【材料】1人前
無糖ヨーグルト:80g りんご(中):1/3個 オリゴ糖:大さじ1
【下準備】
りんごは食べやすい大きさに切る。
【作り方】
1.器にりんごを入れ、ヨーグルトをかける。
2.オリゴ糖をかける。
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●ヨーグルトローストチキン
望月さん「骨つき肉を使ったごちそう感のあるメニュー。もちろん、骨なしの一枚肉でも作れます。ヨーグルトに漬け込むことで、肉は柔らかな食感に。たんぱく質をしっかり摂れるので、筋肉量の増加・基礎代謝アップにもつながります」

【材料】4人前
骨付き鶏もも肉:2本 ●無糖ヨーグルト:200g ●ニンニクチューブ:小さじ1 ●塩:少々 ●胡椒:お好みで適量
【下準備】
鶏肉の表面に、フォークで穴を数カ所開ける。ビニール袋に●を入れ、鶏肉に揉み込み、冷蔵庫で2~3時間漬け込む。
【作り方】
1.肉の表面についた●を取り除き、200℃に予熱したオーブンで20分ほど焼く。
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●ヨーグルトディップソース
望月さん「味噌とヨーグルトに含まれる善玉菌には、腸内環境を整える効果が期待できます。野菜をディップして食事の最初に食べれば、糖の吸収を抑えることにつながりますね」

【材料】2人前
無糖ヨーグルト:大さじ4 味噌:大さじ1 にんにくチューブ:小さじ1 オリーブオイル:小さじ3
【作り方】
材料を全て合わせ、混ぜる。野菜スティックなどをディップして食べる。
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望月さん「今回、ご紹介した内容をすべて実践するのは難しいかもしれません。しかし、一つでも取り入れることで、血糖負債の予防や解消につながります。ヨーグルトを夕食の前に食べる習慣をつけるなど、手軽にできそうなことからぜひ取り入れてみてください。
また、継続することが第一ですので、たとえば食事はすべて自炊ではなく市販の総菜や飲食店に頼るなど、取り入れやすい方法を見つけるようにしましょう。自分だけではなく家族や友人と一緒に行うのもおすすめ。競い合って勝った人にごちそうするといったごほうびがあるとがんばれますし、SNSで公表するとモチベーションのキープにつながりますよ」