地震多発国の日本で「地震は他人事」ではない。今、全国で地震保険が必要な理由

東北、九州、関西など、地震の発生確率が低いと思われていた地域も含め、大規模な地震が続く日本。地震後は他の地域でも一時は不安になるものの、しばらくすると「他人事」のように感じ、備えを怠ることはないでしょうか? しかし防災・危機管理アドバイザーの山村武彦先生は「日本は平均して6年に1度は大地震が起きている地震多発国。誰もが地震を自分事と捉えた対策は必須です」と警鐘を鳴らします。そこで今回は地震保険を含め、これからの地震にどう備えるのかを山村先生に伺いました。

提供:一般社団法人 日本損害保険協会

お話をうかがった方

山村 武彦

防災システム研究所 所長:山村 武彦

新潟地震(1964年6月)でのボランティア活動を契機に、防災アドバイザーを志し、同研究所を設立。50年以上にわたり、世界中で発生する災害(250カ所以上)の現地調査、研究を実施。日本各地での講演(2,500回以上)、報道対応、執筆活動を通じた防災意識啓発に取り組む傍ら、企業や自治体などの防災アドバイザー(顧問)として、BCP(事業継続計画)マニュアル、防災・危機管理マニュアルの策定や改定など、災害に強い企業・街づくりに携わる。実践的防災・危機管理の第一人者、防災・危機管理アドバイザー。

地震の発生確率80%とは、今日起きる可能性も80%という意味

近年も大きな地震が続き、「日本は地震大国」と改めて感じている人も多いと思いますが、自治体や企業などの防災・危機管理アドバイザーとして活躍する山村先生は、実際にどれくらいの頻度で地震が起きているのかもしっかり認識してほしいと言います。

山村「1923年に発生し、死者・行方不明者が10万人以上となった関東大震災から今年で95年になりますが、それから現在まで100人以上の死者・行方不明者を出した地震は16回を数えます。つまり日本は平均して6年に1度は大地震に見舞われる、まさに地震多発国なのです」

平成28年(2016年)熊本地震による地割れ

平成28年(2016年)熊本地震による地割れ

大地震の発生年や被害などをまとめた下表を見ると、数年おきに起きていた時期などもあり、地震多発国との言葉も納得できます。今後もこのような被害をもたらす地震が起きる可能性はあると思われ、例えば南海トラフ地震は「マグニチュード8から9規模の地震の発生確率が、30年以内に70%から80%」と地震調査研究推進本部(文部科学省)から発表されています。

1923年の関東大震災以降、死者・行方不明者が100人以上となった地震

山村「ただ、この話を聞いて80%もあるなら大変だ!と感じても、今すぐ地震に備えるという人は多くないでしょう。それは『地震はおそらく起きるだろう。でも今日明日ではないだろう』と何となく思い込んでいるからです。私は防災に関する講演を全国で行っていますが、受講者に『大地震が起きると思われる方は?』と尋ねるとほとんどが挙手するのに対し、『今日、大地震が起きると思われる方は?』との質問に挙手するのはごく少数。しかし『30年以内に70%から80%』とは、30年かけて発生確率が70%から80%になるのではなく、今日も明日も発生確率70%から80%が続くという意味です。天気予報で降水確率80%と聞けば、大抵の人は外出時に傘なり雨具なりを用意するはず。同様に地震の発生確率80%の状況下で、地震への備えを怠らないでほしいですね」


地震に備える第一歩は、家族や自宅の被害をリアルに考えること

とはいえ、一般的な防災袋や備蓄用の水を用意するほかに、どのような準備をすればよいのでしょうか。山村先生は、毎日地震のことを気にしているのもストレスになるため、年に1度「我が家の防災会議」を開いて、「明日、震度6強の地震が来るならどんな準備が必要か?」を考えるようアドバイスしているとのこと。

ちなみに前段で紹介した大地震の最大震度の多くは現在の震度階に当てはめると震度6強。気象庁震度階級関連解説表によれば、震度6強は以下の様な状況と説明されています。

震度6強での感じ方や屋内外の状況

山村「このような大きな揺れが来るとしたら、まずは生き延びる準備として室内を安全空間にしておくことが必要です。家具は必ず倒れると考えて固定する、それでも倒れた場合を想定して部屋の出口や玄関付近には家具を置かない、などの対策は必ず話し合い、実行してほしいですね」

さらに屋外への避難で注意することは? どこの避難場所に集まればいいのか? 家が住めないほど倒壊したら? 避難所で必要な物は? など、地震が来たときに起き得ることを列挙し、そのとき自分や家族はどうするのか、それを防ぐには何を準備するのか、起きてしまったらどう対処するのかという具合に、対策を具体的に検討していく「展開予測」を行ってほしいと山村先生。

平成7年(1995年)阪神・淡路大震災後の家の中の様子

平成7年(1995年)阪神・淡路大震災の後の家の中 写真提供:神戸市

このほか山村先生が監修したWEBのコンテンツ「地震ドリル」でも、展開予測のための基礎知識が学べますから、参考にされてはどうでしょうか。

山村「我が家の防災会議では、被災後の生活再建資金についても是非検討してください。住宅ローン返済中の自宅が倒壊した場合、建て直す・買い直すとすれば二重ローンになる可能性が高くなります。また家財道具も壊れたり、津波で流されたりして使い物にならず、一度に買い直すとしたら大きな出費になることは間違いありません」


地震多発国の日本で、すでに50年以上の実績を持つ地震保険

こうした生活再建資金として大いに役立つのが地震保険による補償です。調査のため各被災地を訪ねている山村先生は、現地で被災した人から「地震保険に入っていてよかった」と安堵の声を何度も聞いたそうです。

山村「被災後は政府や自治体が何とかしてくれると思うかもしれませんが、国の被災者生活再建支援法で受け取れるのは最大300万円。しかもこれは支援法の適用を受けた自然災害で住宅が一定の被害を受け、建て直す・買い直すという場合の基礎支援金と加算支援金を合計した金額です。これでは到底足りるはずはありません」

平成7年(1995年)阪神・淡路大震災で倒壊した家屋

平成7年(1995年)阪神・淡路大震災で倒壊した家屋

家を新たに建築・購入するための資金すべてはカバーできないにしても、損害の状況によっては数千万円の補償が得られる地震保険は、生活再建を経済面から支えてくれるはずと山村先生。

山村「さらに被災した方が早く生活再建を進められるよう、保険金が迅速に支払われるのも大きな特徴といえるでしょう。これだけ地震が多発する日本において、私としては地震保険に入る方がいいかどうかの問いはナンセンスで、当然入った方がいいと考えています」

地震保険は、地震による建物の火災や倒壊などの被害が火災保険の補償対象外となっていたため、それを補償する保険として1966年に「地震保険に関する法律」の制定により誕生した制度です。以前から必要性は検討されていましたが、1964年の新潟地震で大きな被害が出たことも後押しとなって実現しました。その後、大地震の被害を受けた人の要望などをもとに改定を重ね、50年以上も地震で被災した人の生活再建をサポートしています。

地震保険の主な特徴

地震保険の付帯率・加入率は、被災地や南海トラフ地震の想定地域で上昇

山村先生は「当然入るべき」といわれる地震保険ですが、実際の加入状況はどうでしょうか。これは損害保険料率算出機構が随時発表している付帯率(加入済みの火災保険とセットで契約しているかの割合)と、世帯加入率(全世帯のうちどれくらいが地震保険に加入しているかの割合)から知ることができます(以下の数値はすべて同機構の地震保険統計速報によるものです)。

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まず付帯率は2001年度ではまだ33.5%でしたが、2017年度には63.0%と2倍近くにまで上昇しています(いずれも全国平均)。特に地震で大きな被害を受けた地域の付帯率は大きく上昇しており、例えば東日本大震災が起きた2011年度は宮城県が前年の68.7%から81.1%になったほか、岩手県、福島県、茨城県、栃木県などいずれも前年から10ポイント以上も上昇しました。熊本地震が起きた2016年度、熊本県では前年の63.8%から74.3%に上昇しました。

このほか、南海トラフ地震が想定されている地域でも総じて付帯率は高く、例えば愛知県73.7%、徳島県73.3%、高知県85.2%、宮崎県80.3%などとなっています(いずれも2017年度)。近年は被災した地域だけでなく、発生確率が高いとされた地域でも地震保険に加入する世帯が増えているようです。

山村「一方で、全世帯から見た加入率は2017年末時点の全国平均で31.2%に過ぎません。南海トラフのように地震の発生確率が非常に高い地域が示されると、ほかは比較的安全と思ってしまうのは人間の心理といえますが、発生確率が低いといわれていた熊本県で2年前に大きな地震が起きたばかりです。これを日本全国どこでも大地震が起きない保証はないと受け止め、多くの方に地震保険に加入してほしいと思います」


どんな人がまず地震保険に入るべきか? 山村先生からアドバイス

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山村「私が地震保険に必ず入ってほしいと考えているのは、多額の住宅ローンが残っている方です。地震で自宅が壊れたら建て直しや買い直しが必要で、二重ローンを抱える可能性が高く、そうした住宅ローンの負担を減らすために保険金が役立ってくれるでしょう。また、年金生活者の方も地震保険に是非加入してほしいですね。どうも躊躇される方が多いのですが、年金生活者になると被災後に住宅ローンを組むことは難しく、結果として家族に負担をかけることも考えられます。さらに地震保険に加入済みという方も補償額が十分かどうか、我が家の防災会議などで定期的に見直してください。日本では地震の対策は『リスクマネジメント』の一種と捉え、耐震化などで被害を避けることを重視する傾向にあるようです。しかし実際には『クライシスマネジメント』、つまり避けようない大きな災害への対応と考え、どう準備して被害を減らすかと同時に、起きた後にいち早く生活を再建するための対策も用意しておくべきでしょう。その一つとして地震保険はとても重要な役割を担うと思います」

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「1923年の関東大震災以降、死者・行方不明者が100人以上となった地震」の被害について

※1 2011年3月11日に発生した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」の余震による被害、および3月11日以降に発生した余震域外の地震で被害の区別が不可能なものも含む

※2 「平成28年(2016年)熊本地震」における最大規模の地震(4月16日1時25分熊本県熊本地方の地震)を記載

※3 2016年4月14日21時26分熊本県熊本地方の地震及び4月16日1時25分熊本県熊本地方の地震の最大震度を記載

※4 死者数には、震災後における災害による負傷の悪化又は身体的負担による疾病により死亡したと思われる死者数のうち、市町村において災害が原因で死亡したものと認められた死者214名、及び6月19日から25日に発生した被害のうち熊本地震との関連が認められた死者5名を含む