もちろん、筆記振動を制御した「ブレンシステム」は搭載されていますし、デザインも「ストレスフリーを表現するシームレスなデザイン」を体現するものになっていて、根幹は従来のブレンを引き継いでいます。
文具に詳しい人ほど、「え? これがブレンなの?」と思うかもしれないデザインと書き味ですが、今回、ゼブラが提唱したのは、「不安定な場所でも濃く書けて使いやすい(※)」という新しい提案。
※不安定・低筆圧条件での同一ボール径当社従来品との比較
偶然ではあるのですが、三菱鉛筆の「ジェットストリーム ライトタッチインク」や、ぺんてるの「フローチューン」といった低粘度油性インクの新製品が立て続けに出た中で、このゼブラの「ブレンU」は、どういう製品なのか、ゼブラの開発スタッフにお聞きしました。
筆記時のペン先のガタつき、「ブレ」に注目
「元々、2015年に『ブレン』の開発が始まった時点で、すでに日本の筆記具は安価で高品質なものが出そろっていました。その中で、それらの素晴らしい筆記具がまだ満たせていないニーズがないかというのを探すことから始まったんです。一方で、これはどこの筆記具メーカーでも同じだと思いますが、より書きやすいボールペンやインクの開発というのは基礎研究的にずっと継続して行っています。そんな中で、完成してヒットしているボールペンを自社のものも、他社のものもひたすら書き比べていて気が付いたのが、筆記時のペン先のガタつき、『ブレ』だったんです」と、ブレンUの開発を担当したゼブラ株式会社プロダクト&マーケティング本部の瀬川美帆さん。
そこから生まれたのが、ガタつきを抑えるブレンシステムであり、長時間ボールペンを使う機会の多い事務職の人に向けたデザインであり、それらによって新規性のあるボールペンとしてヒットしたのが「ブレン」シリーズでした。
その後、新しい低粘度油性インクである「S油性インク」ができて、そのインクを使った新しいボールペンを作ろうという企画の中で生まれたのが、今回の「ブレンU」だったそうです。
最初のブレン発売以前から開発が始まっていた「S油性インク」
「『S油性インク』は、従来の油性インクよりも、より滑らかさを向上させつつ、より濃い発色のインクを目指して開発を進めていたものです。このインクの開発は今から7年前の2017年から。ブレンの発売が2018年なので、ブレンの発売以前から行われていました。なので、このインクはブレン用に開発していたわけではないんです」と、インクの開発を担当したゼブラ株式会社研究本部の池田良介さん。従来の「ブレン」シリーズは、全てエマルジョンインク(水性と油性を合わせたインク)が使われていたので、正確には油性ボールペンではありません。その意味では、今回の「ブレンU」は、シリーズ初の油性ボールペンの「ブレン」でもあるわけです。
「ブレンは、インクよりも、“振動制御”という価値を世の中に新しく提示したブランドとして出たので、基本的には機構が売りのブランドなんですよね」と瀬川さん。
「滑らか、かつ、より濃く書けるけれど、乾燥性も悪くなく、ダマもできにくいといった、全体的に評価点が高いインクになっています。何かが突出したり、とがった特徴があったりするというより、全要素を改良したという感じです」と池田さんは、S油性インクの特徴を説明してくれました。
「なので今回は、書きやすさの基本的な要素だと思われる『濃くハッキリ見える』『滑らか』『摩擦が少なく疲れにくい』『速く乾いて手やノートが汚れにくい』といった要素を全体的にアップデートしました。バランスをうまく取って、発売できるレベルにするのは苦労しました」と池田さん。
「S油性インク」×「ブレンシステム」の相乗効果が生んだ新しい可能性
そうやってできたインクを、振動制御と低重心を中心としたコントロール性の良いブレン機構と掛け合わせたときに、どういうシーンで生きるペンになるのかという部分が、「ブレンU」開発のコンセプトの1つになったと、瀬川さんは言います。「すごく悩みました。普通の筆記シーンだと今ある筆記具で十分なので、どんなふうに書いたらこのペンをすごく魅力的に感じてもらえるかということを考えたんです。一度普通の筆記の発想を全部取っ払って、いろいろなところに書いたり、それこそ、風船に書いてみたりして。その結果、書く場所が不安定な状態だと、このブレン機構のコントロール性と、軽い力で濃く書けるS油性インクの性質の掛け合わせが生きる、すごく書きやすいということに気が付いたんですよ」と瀬川さん。 そう気が付いてしまうと、日常の中で、下が不安定な状態での筆記シーンというのが意外に普通にあることも見えてきます。
接客時や電話をしながら手に持った手帳やメモ帳への筆記、机上に紙を置いていても紙を押さえずにメモする状況、ノートの端っこにちょこちょことメモをするなど、そういうときに、正確に読みやすく書けるというのは、多くの人のニーズに応えるものになると、開発チームは結論づけたそうです。
「ストレスフリーというのは、今のブレンの骨子となる部分です。その上でブレンUは販売していくことになるため、従来のブレンとは違った価値を打ち出したいというところで、“不安定な場所でも書きやすい”というコンセプトを考えました。アップデートモデルではなくて、シーンやターゲットを変えた、ブレンのもう1つの選択肢という位置付けです」と瀬川さん。
ユーザビリティを重視した、従来のブレンとは違った価値観をデザイン
今回、デザインが大きく変ったのも、従来のブレンとはまた違った新しい価値観を届けたいという点を表現しているからでしょう。「ブレンUの『U』はユーザビリティ(usability)のUなんです。なのでデザインも、使いやすさ、筆記具らしさといったところを意識してデザインしてもらいました。より使いやすいクリップを採用したり、形も従来のブレンに比べると一般的なボールペンの形に近づけています」と瀬川さん。
実際、新しさを明確に打ち出した従来のブレンに比べると、かなり普通の見た目になっていると言えるかもしれません。
ただ、大きく開くバインダークリップの可動部分は樹脂製にすることで開閉しやすく、挟む部分は金属製にして耐久性を高めるなど、実際に使うシーンに合わせた機能を追加したデザインになっています。
胸ポケットなどに挿して、頻繁に出し入れしながら、立ったままでの筆記が多いといった職場で威力を発揮しやすいペンなので、この選択は、ユーザビリティを考えると正解だと思います。 また、従来のブレンに比べて、ボディー自体が細身になり、筆記時のペン先周りの視認性も高くなっています。この細身のボディーにブレンの機構を入れるのはかなり苦労があったはずですし、低重心の実現方法も、ペン先を細くして先端の視認性を上げるために、口金の重さで実現するといった変更が加えられています。
一般的なボールペンの形に近づいてしまったことにしても、何十年も多くの筆記具メーカーが模索してたどり着いた形は、ユーザビリティが高いデザインだったということでもあるのでしょう。
実は、ブレンUと従来のブレンのシングルタイプは、リフィルの互換性があります。なので、ブレンUの軸にエマルジョンインクのブレンのリフィルを入れたり、従来のブレンにS油性インクのリフィルを入れることは可能。
書き味自体、どちらが良い悪いというよりも、好みや使用シーンで使い分けるのが良い感じなので、いろいろ試してみるのも面白いでしょう。
個人的には、デスクできちんと書くならブレン、メモを取ったり持ち歩いて使ったりするならブレンUが使いやすいと感じています。
また、ペンケースに入れて持ち歩くならブレン、ポケットやバッグに挿して持ち歩くならブレンUという使い分けも良さそうです。このように、使用シーンが明確になっている汎用ボールペンというのも、もしかすると今後のトレンドになっていくような気もしています。