三菱鉛筆「ジェットストリーム シングル(Lite touch ink搭載)」220円(税込)。軸色は左から、ライトブルー、オフブラック、シェルホワイト、セージ、コーラル。ボール径は0.5mm。ライトブルー、オフブラック、シェルホワイトは0.7mmにある。ボール径違いでも軸色が同じなのは三菱鉛筆としては珍しい
現在は、ラインアップも充実し、用途に合わせてさまざまな機能やデザインの製品がそろう「ジェットストリーム」ですが、発売からすでに18年を経て、ここ最近では、初期からのもっともスタンダードなタイプのモデルや「ジェットストリーム スタンダード」165円(税込)も軸色を大きく変更したり、さらには2024年3月、新開発の「Lite touch ink(以下、ライトタッチインク)」を搭載した製品も登場しました。
普段使いの油性ボールペンのイメージを一新したジェットストリームのこういった変化は、一般的に広く使われるボールペンという存在のポジションの新たな変化なのかもしれません。
そこで、三菱鉛筆商品開発部の百田崇人さんに、新しい軸のデザインやインクのお話を中心に、ジェットストリームのこれまでとこれからについてお聞きしました。
ジェットストリームのデザインは古いわけではない
「事務用や一般的に広く使われるボールペンの大きな変化は、ちょうどジェットストリームが発売された2006年前後の時期に起こりました。それは、リーマンショックなどで備品としてボールペンを支給する会社が減り、会社員が自分でボールペンを選んで買うようになったからです。その流れの中で、新しい書き味を提案したジェットストリームも選んでいただけたということはあったと思います」と、百田さん。現在では、自分が使うボールペンは自分で買うというのは当たり前ですが、ほんの20年前までは、会社の備品など、ボールペンはそこにあるものを使うというような意識が一般的でした。
それが、自分で使うものは自分で買うという状態になったときに、ちょうど登場した三菱鉛筆の「ジェットストリーム」や、パイロットの「フリクションボール」が、筆記具には機能や書き心地に差があるということを気付かせてくれました。そうやって、自分が使うボールペンを意識する時代になったわけです。
「今回、軸色を変えた既存品の『ジェットストリーム スタンダード』ですが、これも、発売当時にはちょっと未来志向的なものが強いデザインだったんです。どちらかというと、いわゆる昔ながらのボールペンのデザインではなくて、新しいインクの技術を使った先進的な商品であるということを意図したデザインにはなっているんですよ」と百田さん。
流行色ではなく、新しい標準となるボールペンの軸色を採用
手元にあったジェットストリームのクリップ周りを比べるために、新しいジェットストリーム シングルも含めて数本並べてみた。クリップ周りのカラーリングはいろいろだが、斜めに走るラインが特徴的なのは伝わる。緑っぽい単色の軸は、限定発売されていた「ピスタチオイエロー」
特に、ゲルインクボールペンのような、若い層を中心に使われている商品では、三菱鉛筆の「ユニボール ワン」シリーズに代表される白軸や、「ユニボール ワン F」のヒットも記憶に新しい、ペールトーンでマットな色調の軸が、ここ数年、筆記具業界全体のトレンドになっています。
ただ、油性ボールペンは、事務用から作業用、学生も社会人も幅広く使う、ユーザー層を限定しない使われ方をする汎用品です。
「ジェットストリーム自体は非常にスタンダードなもので、お客様から見ても『これがジェットストリームだよね』というように認知されている部分があります。そのような変えてはいけない部分もあると考えていますが、やはり発売以来10何年も新しいものを出していなかったので、新しいニーズを拾い切れていないという実感がありました。
カラフルなデザインは、やはり職場で黒インクのペンとしてベースとなる黒色の軸があって、そうではないものを使いたい人をターゲットにしているんです。例えばピンク色は、当時、女性であればこういう色が喜ばれるのではないかといったことをある程度意識していたと思うんです。そういう形で、黒軸を中心に、それを補完する色を選んでいました。
ただ、現代は、黒をベースにしたとしても、それを補完する色は、よりジェンダーレスやエイジレスなどを意識したところに振っていくという考え方になるはずで、その考え方を基本に、今回、新しく軸色を考えました」と百田さん。
>次ページ:新商品「ジェットストリーム シングル」における伝統の継承と新しさ