つまり、この「Pli」はウォールフックなのです。プレスリリースには「シンプルを極めたステンレス製のフック型ピン」と書かれていますが、筆者的には「ピン型のウォールフック」と呼びたいくらいです。使ってみると分かりますが、形にしても強度の持たせ方にしてもよく考えられていて、それがとてもシンプルな形に収められている、“名品”と呼べる製品なのです。
あまりに良くできていたので、「Pli」の開発者、デザインユニット・アカサキ ヴァンミュィーズの建築家でありデザイナーの赤崎健太さんに、その開発過程や発想について、お話を伺いました。ロンドンを拠点に活動されている方だからというのもありますが、面白いのは日本での「壁活」ブームとは全く関係なく、しかし、コクヨの「壁につけるマグネット」と同じタイミングで発売されたということでした。
建築家だからこそ、小さいプロダクトもやりたかった
「日本の賃貸住宅だと、壁に釘を打ったり、穴を開けてネジで固定するといったことに制限がある場合が多いのですが、イギリスだとあまりその辺は厳しくないんです。なので、ウォールフックなどは当たり前に使われていますので、Pliを考えるときに“壁に直に刺す”ということに関して、抵抗はあまりありませんでした。ただ、やっぱりデザイナーの美学として、ギリギリのところを攻めたいというのはありました」と赤崎さん。実は、この製品のアイデアは、赤崎さんが独立される前、建築事務所で働いている頃から考えていたのだそうです。
「建築事務所では普段、住宅などの大きなものを扱っていて、もちろんそういうものも好きですし面白いんですけど、小さい、プロダクト的なものも扱ってみたいなと思っていたんです。どうせやるなら、極端に小さいものをスタートラインとして考えてみたいというのがあって、そのときに、画鋲やピンが目につきました。そうこうしているうちにコロナ禍になって、年で言えば2020年頃ですね。在宅勤務などで家の中で仕事をするようになったときに、意外と壁という空間を使えていないなということに気が付いたんです」と赤崎さん。
そうして、壁の使い方と画鋲やピンのような小さなものを作りたいという思いが合体して出来たのが、「Pli」のアイデアの原型だったそうです。それをアッシュコンセプトへ持ち込んで、一緒に開発することになったというのが、商品化への始まりです。
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