疲れにくい筆記具の代表としての「ドクターグリップ」
元々は、パソコンが普及する前、多くの事務作業では、大量に手書きをして、複写伝票などに強い筆圧をかける必要がありました。しかも、事務用のペンの多くは軸が細く硬い素材で、指が滑ったり、ペンだこができやすかったり、さらには余分な筆圧も必要でした。そういうペンで大量に書く必要があるユーザーの中には、腕や首、肩の痛みに悩まされる人も多かったようです。そこで、長時間書いても疲れず、ムダな筆圧をかけずに書けるペンを医師と協力してパイロットが開発したのが「ドクターグリップ」でした。その太い軸やシリコン製のグリップなども、そういった現場からの要請で生まれたものでした。現在も、大量に手書きする必要がある学生ユーザーを中心に、高い人気を誇っています。
2022年の暮れに登場した「ザ・ドクターグリップ」は、その名前の通り、「これこそがドクターグリップである」といってもいいような、原点回帰であり、最新型であり、スタンダードでもあるシャープペンシルとなっています。シリーズ発売から30年を超えながら、今も続く人気の秘密を、最新機種である「ザ・ドクターグリップ」を中心に、パイロットさんに伺いました。
初代から続く「フレフレ機構」を強化した新機能
「『ザ・ドクターグリップ』は、二つの大きな新機構が搭載されています。一つは、『ドクターグリップ』に当初から搭載している『フレフレ機構』の静音化、そして、フレフレ機構をロックしつつ、通常通りに書ける機能です。握りやすく疲れにくいのが特徴のドクターグリップだからこそ、握り変えることなく芯を出せる『フレフレ機構』は重要です。なので、そこを強化したいと考えたんです。機構自体は1978年に開発されて、ずっとパイロットのシャープペンシルに使われています。その最新版を、ドクターグリップに組み込んだわけです」と、パイロットコーポレーション マーケティング部 筆記具企画課の多賀丈恭さん。「フレフレ機構」は、軸を振るだけで芯が出る便利な機能ですが、ペンケースの中などで、勝手に芯が出てしまう恐れもありました。そのため、機構自体をロックして使用していない時に芯が出ないようにする機能を搭載したモデルも過去にあったのですが、ロック状態の時は筆記ができません。今回搭載された「フレフレロック」機構は、フレフレ機構だけをロックして、ノックによる芯の出し入れは可能にしたもの。この製品のために新しく開発されたものです。それに加えて、フレフレ機構で芯を出す時の音を静かにして、現代の学生が求める筆記具へとチューンアップされた製品になっています。
一層式で肉厚な新しいシリコングリップ
「グリップに関しては社内でも意見が割れたのですが、従来のドクターグリップの主軸製品だった『ドクターグリップ Gスペック』以降続いている、内側のシリコンは柔らかく、外側のシリコンは硬くした二層式ではなく、初代やエースなどで採用した一層式で、より肉厚のグリップにしました」と多賀さん。現在のドクターグリップのラインナップでいえば、Gスペックが柔らかめのグリップ、シャープペンシルの多機能時代に合わせて開発された、芯が折れにくい「ドクターグリップエース」が硬めのグリップ、「ザ・ドクターグリップ」は、その中間の硬さということになります。 そして、軸のデザインは、2003年にドクターグリップを時代に合わせるためにデザインを大きく変えて主力製品となっていた「Gスペック」ではなく、初代のデザインを踏襲しています。
30周年記念モデルを機に良さを再認識した初代デザイン
ドクターグリップ30周年を記念して2021年に発売された「30カラーズ」は初代のシャープペンシルのデザインで、軸色をいくつかのテーマにあわせて全30色を発売。現在は「ドクターグリップクラシック」がレギュラー商品として販売されている。
また、シャープペンシルは、三菱鉛筆の「クルトガ」シリーズは別として、芯の片減りを防ぐために、軸を回しながら書く人が多いのです。この時、クリップがあると、回すのに邪魔になります。その意味でも、クリップがない初代の形は、シャープペンシルという筆記具の特性上合理的な形です。学生さんの場合、シャープペンシルはペンケースに入れて持ち歩くことが多く、あまり胸ポケットに差すこともないため、クリップの利用頻度は少ないということもあるでしょう。
「1992年にシャープペンシルタイプを発売した時は、ボールペンが売れたということはシャープペンシルでも筆記時の疲れを気にするユーザーが多いのではないかという考えからでした。2000年代に入ってパソコンの需要が増えると共に、ボールペンの売り上げが落ちたのですが、一方で、学生さんを中心に、勉強や研究の用途では、手書きが主流のままだったこともあって、ドクターグリップもシャープペンシルの方が市場の主流になっていきました」と多賀さん。
初代のデザインに込められたディテールへのこだわりを実現
2003年には、クリップを付けたタイプを作り、軸も外側を透明にして、少しでも細く見えるようにするなど、デザインを大きく変更。さらに、重心付近に重さを集中させることで筆記時の往復回転運動を少ない力で行えるようにし、また、グリップも二層式で柔らかい握り心地にした「ドクターグリップ Gスペック」を発売します。以来、このタイプがラインナップの中心になるのですが、改めて、初代のデザインの良さに着目し、デザイナーと相談の上、試しに新機構を初代の軸に入れてみようと考えたのが「ザ・ドクターグリップ」になったというお話でした。
・デザインの細かいこだわりはノック部分の下にも 「『ザ・ドクターグリップ』のノック部分の下や、軸の中央には、別パーツでリングが付いています。これ、細かいところですが、初代をそのままに近い形で復刻した『ドクターグリップ クラシック』の同じ部分にはリングを模したような段差が付いているんです。これは当時のデザイナーが付けたのだと思うのですが、コスト的に別パーツにはできなかったから、段差で表現したのだと思うんです。それを、『ザ・ドクターグリップ』では、別パーツにして、色を変えています」と多賀さん。 こういう細かい部分も、当時のデザインから意図を汲み取って作られています。また、初代以来のクリップの無いデザインも、今見ると、むしろ新鮮に見えます。転がり防止のために付けられたポッチのようなパーツに穴が空いていて、ストラップやチャームが付けられるのも、現代の使い方に合っています。
ヒストリカルな「ドクターグリップ クラシック」と未来を見る「ザ・ドクターグリップ」
初代モデルのデザインをそのまま踏襲し、軸色だけを現代風にした「ドクターグリップ クラシック」550円(税込)。軸色は上からアイスブルー、アイスピンク、アイスグレー、アイスホワイト。今見ると、懐かしさより新鮮さが際立つ。
ドクターグリップの歴史を振り返りながら、今回の「ザ・ドクターグリップ」を使うと、その握りやすさや使いやすさ、形がとてもマッチしていたのだということを感じます。
太軸だからどうではなく、太軸でなければならない理由があって、その上で、正しくデザインされた形が初代のデザインだったのでしょう。それを30周年記念の「30カラーズ」で再認識したことが、今回の「ザ・ドクターグリップ」と「ドクターグリップ クラシック」を生んだのだと思います。
・これぞまさに現時点での「ザ・ドクターグリップ」 例えば、ペン先部分が光って邪魔にならないようにペン先がマットになっていたり、フレフレロックの表示部分が普通の印刷ではなく箔押し印刷にして、キラキラと目立つようにしてあったり、ロゴの色を中央のリングの色にあわせて、そのロゴ自体も初期のデザインにしてあったり、本当に細かいところまで行き届いた製品になっています。 歴史と新しさをナチュラルな形で融合した、まさに現時点での「ザ・ドクターグリップ」になっていると感じました。