2022年6月、新築住宅に断熱性などの基準適合を義務づける改正建築物省エネ法が成立しました。エネルギー消費の約3割を占める建築物分野での省エネ対策を加速したい考えです。また、東京都では全国初の取り組みとして、2025年4月から都内の新築戸建て住宅へ太陽光パネルの設置を義務づけます。これは都内CO2排出量の約7割が、建物関連で占められているためです。
その根底にあるのが政府の「カーボンニュートラル宣言」です。菅義偉総理(当時)は2020年秋、「わが国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明。東京都も、2030年までに温室効果ガスの排出量を50%削減する「カーボンハーフ」を掲げています。どちらも地球環境への負荷軽減に取り組む姿勢を鮮明に打ち出しています。
省エネ性能の高い住宅ほど還付額が多くなる
このような流れを受け、住宅税制にも変化の波が押し寄せています。その1つが、住宅ローン減税の見直しです。これまで住宅ローン減税は、住宅取得者への金銭的支援(インセンティブ=購入決断の後押し)の色合いが強くありました。それが、気候変動への危機意識の高まりや、世界的な脱炭素化の潮流により「省エネ」「創エネ」「蓄エネ」を意識した環境配慮住宅の増進へと、その役割を変えようとしています。実際、2022年度税制改正により、耐震性や省エネ性能の高い住宅ほど還付額が多くなるよう改められました。住宅の脱炭素化を税制面で支援しようという試みです。
そこで住宅性能の違いにより還付額にどの程度の「差」が生じるのか、実際に試算してみました。結果は、表の通りです。 たとえば、長期優良住宅と一般住宅(どちらも新築)を比較した場合、最大控除額には182万円(455万円-273万円)の差が生じます。このように住宅ローン減税の税制上のメリットを硬軟に織り交ぜることで、国策として高性能なエコ住宅の建設に誘導しようという狙いです。
脱炭素化に向け、住宅建設に求められる「グリーンシフト」
これまで環境対策と経済発展は「二律背反」の関係、つまり温暖化防止と経済成長の両立は難しいとされてきました。振り返れば、かつて日本も環境汚染(公害)と引き換えに、経済発展を遂げてきました。「エコ」(環境保全)ではなく、「エゴ」(自己都合)を優先してきたわけです。しかし、これからは「環境保全」と「経済発展」の両立が欠かせません。エネルギー効率の改善やエネルギー供給における脱炭素化の推進とともに、新たな技術開発に基づく産業の創造を通じた「グリーンイノベーション」が求められます。
こうした環境意識の芽生えがトレンドとなるなか、住宅建設においても「グリーンシフト」は待ったなしです。「温暖化対策」と「経済成長」を両立させる低炭素なグリーン社会へのシフトが至上命題となっています。
「環境対策」と「住宅取得支援」の“両得”を享受できる
これからマイホームを建てようという人は、断熱性能や気密性能に優れた地球にやさしい住宅を心掛けることで、次のような効果が期待できます。もちろん、住宅ローン減税の税制上のメリットも享受できます。【省エネ住宅のメリット】
(1)冷暖房費の削減につながる
(2)家全体の温度差が小さくなり、ヒートショックの影響を和らげられる
(3)窓や壁の表面結露が改善され、ダニやカビの発生が抑制できる
今日の住宅ローン減税には、住宅取得者に対する金銭的なインセンティブとしての側面とともに、省エネ住宅が選択されやすい住宅市場を創出・誘導しようという狙いが込められています。環境価値を重視した良質なエコ住宅の建設を後押ししようというわけです。
こうした“一挙両得”の役割を具備した住宅ローン減税を活用しない手はないでしょう。住宅の脱炭素化を税制面で支援しようという試みは、すでに始まっています。
教えてくれたのは……
平賀 功一さん
日本FP協会正会員(ファイナンシャルプランナー、AFP)、宅地建物取引主任者、管理業務主任者、福祉住環境コーディネーター、住宅ローンアドバイザー、二種証券外務員の資格を持つ。第一不動産グループの住宅販売会社にてマンション販売のプロジェクトを任され、三井不動産販売への出向経験もあり。 1999年にはマンション事業のコンサルタントとして独立し、e住まい探しドットコムを設立。現在は、住宅セミナー講師や住宅ポータルサイトでのコラム執筆、ネット上での住宅相談を中心に活躍している。All About 賢いマンション暮らしガイド。