他の客がオーダーした寿司を取ったりわさびを乗せたり、醤油さしに口をつけて直に飲んだり……とさまざまな問題行為を撮影した動画が公開され、大きな批判を呼んでいます。
筆者は一連の事件の当初に問題点を指摘していましたが、限度を超えた迷惑行為は、回転寿司店のみならず、「飲食業界全体」に悪影響を及ぼしかねません。
飲食店がアイデンティティを失い、つまらなくなる恐れ
筆者は飲食店にとって最も大切なことは、おいしさではないと考えています。おいしさを語る前に担保されるべきことは「安心と安全」です。飲食店は食品衛生法に則って、利用者に健康被害を及ぼさないように配慮して営業しています。迷惑行為をした人は、法律で定められた飲食店の食品衛生を意図的に損なわせたといっても過言ではないでしょう。
また、飲食店は、ただ単に料理を食べたりドリンクを飲んだりするだけの場所ではありません。
回転寿司は日本発祥の画期的な食のエンターテインメントですが、当事案のようなことが起きれば、回転寿司は“回転する”ことができなくなり、そのアイデンティティを失うことになりかねません。
他にも、自分で料理などを取るブッフェは、「好きなときに、好きなものを、好きなように」取れるという、非日常的な空間を提供していますし、ファインダイニングも、最近ではカウンターガストロノミーが人気となっており、キッチンとダイニングの距離がとても近いのが特徴です。
迷惑行為を予防しようとすれば、これらの躍動的で感動的なプレゼンテーションは廃止せざるを得なくなってしまいます。そうなれば、ダイニングシーンは単調となり、つまらないものになるのは火を見るより明らかです。
なお、影響を受けるのは、“表現方法”だけではありません。
牛丼店の紅生姜、ラーメン店のコショウや辣油、ファミリーレストランのドリンクバーやセルフサービスのコーヒーショップ、カジュアルダイニングの箸やカトラリーなど、飲食店には共用物がたくさんあります。
もしも悪意ある行為を未然に防ごうとすれば、これら全てを撤去するしかなくなる可能性もあるでしょう。スタッフに伝えて持って来てもらうことになりますが、客にとっては利便性が損なわれ、飲食店にとってはスタッフの負荷が高まってしまいます。撤去しないとすれば、防犯カメラを設置したり、監視スタッフを巡回させて都度注意するしかありませんが、今よりも余計にコストがかかってしまうでしょう。
表現方法が制限されたり、利便性が損なわれたりすれば、飲食店を利用する客も不利益を被ってしまいます。マナーが悪い客のために、しっかりとマナーを守っている客が余計なお金を支払って穴埋めすることになってしまうのです。
>次ページ:飲食店の「安心・安全」を守るために必要なこととは