今回は、離れて暮らす両親の介護費用の負担を依頼されたケースを例に、親の介護費用準備について書いていきたいと思います。
相談内容
実家で母の介護が始まって1年。今まで実家に近い家族が介護にかかる費用と作業を負担していたが、費用負担の相談があった。実作業は他の家族が行っているため、介護費用はできるだけ負担したい。
介護費用の負担は月額5万~10万円で検討している。できれば毎月10万円負担したいと考えているが、子供の教育費が増える時期に入る。教育費も介護費用もまかなえるよう、収支の見直しが必要であれば提案してほしい。
相談者の基本データと家計状況
相談者の基本データと家計状況は以下の通りです。▼相談者
男性(48歳)/会社員、年収750万円(ボーナス150万円含む)
※定年まで同額。定年60歳、再雇用制度を利用して65歳まで就労可能。60歳以降の年収は300万円の見込み
▼家族構成
- 妻(45歳)/パート勤務、年収100万円、定年65歳
- 子供(12歳)/公立中学在学中
▼現在の家計
<毎月の支出>(※保険・住居・車にかかる費用を除く)
食費:10万円
日用品費:3万円
水道光熱費:2万円
通信費:1万円
交通費:1万円
小遣い:相談者3万円、妻2万円、子供3000円
習い事:1万5000円(3年後3万円に増額予定)
被服費:1万5000円
<年間支出>
家具・家電:5万円
旅行:20万円
<貯蓄>
800万円
▼保険について
<生命保険>
相談者(1):終身保険300万円、65歳払い込み……毎月の保険料5400円
相談者(2):定期保険、20年間1000万円……毎月の保険料2200円
妻:終身保険300万円、60歳払い込み……毎月の保険料5500円
<医療保険>
相談者:終身医療保険、日額1万円、終身払い……毎月の保険料約2000円
妻:終身医療保険、日額5000円、終身払い……毎月の保険料約1500円
<学資保険>
学資金300万円、子供10歳まで払い込み……月額約2万4000円
※相談者の生命保険(2)と学資保険は12年前に契約。それ以外は20年前に契約
▼車関連の費用について
任意保険(車両保険込み):2万5000円
車検:2年ごと10万円
駐車代:1万円
▼住まい
持ち家:13年前3LDKのマンション購入、購入価格3500万円(頭金500万円、ローン3000万円。返済期間30年、金利3%固定)
- 毎月の返済額:12万7000円
- 固定資産税:10万円
- 火災保険(建物の保険金額:2000万円、家財補償:500万円、地震(建物):1000万円、地震(家財):250万円):5年払いで約23万円
▼今後について
- 子供の進学:私立高校、私立理系大学進学を希望
- 相談者の親の介護期間は20年、毎月10万円負担で試算
- 現在介護対象は母親1人だが、両親ともに要介護になった場合の負担額も10万円
- 定年後も介護が続く場合は手伝いたいが、資金が不足するのであれば再雇用で働くことを検討中
- 自家用車を70歳まで使用予定
- 車を10年後に買い替え予定。予算200万円。維持費の試算は現行通りで行う
<退職金>
- 相談者:1500万円の見込み
- 妻:iDeCo(6年前から加入。投資信託に毎月1万円拠出)
資産額推移のシミュレーション
現在の収支に介護費用10万円分を加えて生活資金のシミュレーションを行いました。その結果がこちらです。グラフの水色部分が生活資金、オレンジ色の部分がiDeCoの予測額です。こちらのグラフを見ると、相談者51歳以降57歳まで、子供が私立高校・大学に通っている間は生活資金の減少幅が大きくなるのがわかります。また、58歳の時に車を買い替えるタイミングで生活資金不足になる予測となりました。
相談者が60歳で退職すると、退職金で生活資金がプラスに転じますが、65歳の年金受給まで年間約500万円不足するため、62歳で生活資金不足となり、さらに両親の介護費用を負担する期間とした68歳まで生活資金不足が続きます。介護負担が終わると、年間の収支はプラスになるものの、蓄積された生活資金不足の影響が大きく、生涯、金融資産額はマイナスとなる見込みです。
それでは相談者が介護費用を負担しながら生活資金不足を回避するには、どのような対策が取れるのでしょうか。
生活資金不足の回避策について
毎月10万円の介護費用を20年間負担し続けると、合計で2400万円となります。大きな負担となりますので、支出の見直しや収入増加を検討しつつ、自治体のサポートも検討してはいかがでしょう。条件にもよりますが、自宅で介護する場合のリフォーム代や介護用品の補助を支給する自治体があります。これらの補助やご両親の年金なども活用できるかもしれません。
その場合は介護費用が少なくなるかもしれませんが、今回はご相談者が毎月10万円負担するとして対策を考えてみます。
まず、支出を減らすために固定費の削減を検討しました。固定費削減には次のような方法があります。
●住宅ローンの借り換え
現在のローン金利が3%、ローン残高が約2000万円あります。条件によっては返済額を減らせる可能性があります。
●通信費
プランの変更や使っていないオプションの解約ができるか検討してみてはいかがでしょう。
次に、変動費の見直しをしてみます。食費、日用品費、被服費、水道光熱費などの出費を見直し、削減できる項目はあるか検討してみましょう。
最後に収入増加については、相談者の再雇用や妻のパートを増やすなどの方法があります。
今回実施した回避策は?
前述の改善案の中から、今回は、次の項目を採用して再度シミュレーションしました。▼対策1:住宅ローンの借り換え
今回は金利0.74%、返済期間を2年間短縮するプランに変更したとしました。この変更により、事務手数料を支払っても約400万円も返済総額を減らすことができます。
▼対策2:毎月の生活費から3万円支出削減
食費、日用品費を中心に毎月の生活費から合計で3万円の支出を削減したとしました。
▼対策3:相談者は再雇用で働く
住宅ローンの返済が終わる63歳まで再雇用で働くことにしました。年収300万円の見込みですので、3年間で900万円の収入が見込めます。
住宅ローン返済額が減ったことで、子供が高校・大学に通っている間の生活資金減少が比較的緩やかになり、58歳で車の買い替えを行っても、生活資金不足を回避できるまでに改善されました。
60歳以降についても、収入が減ってしまうことで、介護費用を負担している間は貯蓄を取り崩す生活となりますが、生活資金不足になる期間はなく、介護費用の負担が終わると年間の収支もプラスになり、徐々に貯蓄が増える見込みとなりました。
まとめ
毎月10万円の介護費用負担を検討している方を例に、生活資金不足回避策を検討しました。今回の例では、住宅ローンの借り換えにより固定費を下げることができました。また、住宅ローン完済まで相談者が働くこと、毎月の支出を3万円減らすことで貯蓄を使い切らずに済む予測となりました。生活費の見直しはご家族の協力が必要だと考えられますが、毎月10万円の介護費用を負担しても生活資金不足を回避できそうです。
なお、急に大きな出費が必要になるなど状況が変わった場合にはこの予測から外れますので、再度シミュレーションや資金計画の見直しを行ってください。
この記事を執筆したのは……黒川 一美(MILIZE提携FPサテライト株式会社所属FP)
大学院修了後、IT企業や通信事業者でセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、お金を稼ぐ側から家計を守る側に立場が変わり、お金の守り方を知らなかったことを痛感。自分に合ったお金との向かい合い方を見つけるため、FP資格を取得する。資格取得後は、FPの勉強を通じて得られた知識をもとに、よりよい家計管理を求め試行錯誤の日々を過ごす。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。