黒インクにも個性を出すことができる時代
ボールペンが会社から支給されるものではなくなって、自分で選ぶ時代になって、もう随分長い時間が経ちました。その間にも油性ペンはサラサラと滑らかに書けるようになり、水性ペンは水に強く裏写りが少なくなり、万年筆が復活し、紙やインクにユーザーの目が向くようになりました。その状況を受けて登場したのがサクラクレパスの「ボールサイン iD」です。全6色で発売されたそのゲルインクボールペンは、6色全てが黒インクですが、それぞれ微妙にニュアンスが違う黒で、ユーザーはそれらの中から自分が好きな「黒」を選ぶことができました。
インクブームの中、同じ青や赤でも、そのニュアンスの違いを使い分ける時代だからこそ成立した製品と言えるでしょう。また、仕事で使うのに、派手な色は使えませんが、黒なら普通にビジネスの現場で使うことができます。その上で、さりげなく個性が主張できるというのは、筆記具を使う楽しみ、選ぶ楽しみにつながります。
金属パーツによる低重心化と高級感
その「ボールサイン iD」の上位バージョンが「ボールサイン iD plus」です。1本220円(税込)のボールサイン iDに対し、ボールサイン iD plusは385円(税込)と価格がアップしていますが、その分、確実に使いやすいペンに仕上がっていました。まず、大きな違いはペンの先端部分です。この先端部分がボールサイン iD plusでは金属になっています。そうすることで、ペン全体の重心がペン先の方に寄ります。この、いわゆる「低重心」は、ペンを持ったときに自然にペン先が下を向き、その重さで、あまり筆圧をかけずにラクに書くことができるということで、最近のボールペンのひとつの流行になっています。
実は、ボールサイン iD plus発売以前に、ボールサイン iDを低重心にするための先端パーツが別メーカーから発売されたほど、この変更は待望されたものだったのです。 もうひとつのバージョンアップは、マットな質感の軸による握ったときの安定感と滑りにくさです。この不思議な素材感は、指に吸い付くようにフィットするので、軸の丸みを帯びた六角形の形状との合わせ技で、持ちやすく、書きやすく、持ったときに高級感さえ感じる仕上がりになっています。その上で、シルバーのクリップとペン先の金属パーツが高級感を演出するので、個人的には、385円(税込)が安く感じるほどです。
3色の黒インクは、それぞれに個性がある
その軸に入っているのが、ピュアブラック、ナイトブラック、フォレストブラックの、ニュアンスが違う3つの黒インク。「ピュアブラック」は、より黒く、コントラストが高くクッキリと黒を主張する色。「ナイトブラック」はやや青みがかった黒です。ボールサイン iDのブルーブラックは黒に近い青ですが、このナイトブラックは青が限りなく濃くなって黒に見えるという感じの色合い。寒色系の黒です。「フォレストブラック」は、グリーン系の黒。碧の黒髪という表現がありますが、それは、こういう色のことかと思わせる、深い深い緑が深すぎて黒になったような色です。個人的には、本来、日本の「黒」は、こういう緑っぽいものだったのではないかと思ってしまうような色で、ナイトブラックと比べると、少し暖かみのある黒という感じです。
とはいえ、知らない人が見たら、普通に黒なのです。だから、当たり前に黒のボールペンとして使えます。軸のデザインや質感も、ビジネスの現場で使っても恥ずかしくない仕上がりで、その上で、自分好みの黒を、さりげない個性を発揮する場所として使って、周囲に迷惑をかけることはないわけです。何だか、羽織の裏地に凝った江戸っ子のセンスを思わせるペンですね。 そして、リフィル(希望小売価格88円)は「ボールサイン iD」と共通ですから、別途リフィルを購入すれば、赤みがかった黒の「カシスブラック」、紫系の黒「ミステリアスブラック」、茶色みが強い暖色系の「モカブラック」も、ボールサイン iD plusの軸で使うことができます。
筆者はもともと黒やグレーのインクが好きなので、こんな風に黒が選べるペンが、400円足らずで買えてしまう時代が来たことが、とてもうれしいと思っています。いつもとちょっと違う黒を使うのは、案外楽しいものなのです。