塾講師視点で描く『二月の勝者』は意外に真実……?
塾講師目線で中学受験の世界を描く『二月の勝者 ―絶対合格の教室―』(小学館)。受験の経験者や受験生の親子の間では超有名作品であるコミックを原作にしたドラマが現在放送中です。『二月の勝者』といえば主人公の塾講師・黒木によるこの名言。
「合格に必要なのは、父親の経済力と母親の狂気!」
コミックの内容を忠実に再現していることでも話題のドラマ版は、夫婦間や親子間で交わされる会話の内容、塾にまつわるエピソードにはリアリティがあります。とはいえ、校長として塾を運営する立場にありながら子どもや保護者を「金脈」扱いする黒木のキャラクターやセリフはさすがにちょっと大げさで、そこがフィクションとして楽しめるポイントでもあるわけです。
そんな『二月の勝者』、当事者からみると正直どうなんでしょう……? 中学受験塾に詳しい元塾講師(Kさん)に話を聞いてみると、意外なコメントが返ってきました。
「塾講師なんて、だいたい黒木先生と似たようなもんですよ……」
よくよく聞いてみると、「金脈」的な考えには大いに共感できるとKさん。
「だいたいどの塾でも、生徒数や合格実績はもちろん、すべてがノルマ化されているんですよね。『二月の勝者』では、オプション講習会の申し込みをめぐってノルマの話が出てきましたが、こうした各種講習ももちろんです。ノルマは結構シビアで、実績次第では校舎長が異動や左遷などもよくある話ですからね……」
退塾を引き留めるのは「お子様のため」だけではない
転塾や退塾の話を保護者からするシーンも多いですが、そのたびに黒木先生は上手に引き留めますよね。熱い一面もあるのだなと心打たれそうになりますが、実はこれも塾講師のれっきとしたノルマのひとつだというKさん。
「退塾させないように必死ですよ。塾では“退塾率”もノルマになっているので。今年はもうこれ以上退塾者を出せない……といった具合で。 “おまかせください!”“一緒にがんばりましょう”と引き留めます。先生が親身になってくれていると保護者は思うかもしれませんが、仕事ですから」
「困っている子」を救いたい!? 新人講師・佐倉タイプがむしろめずらしい
ドラマでは井上真央さんが演じる新人塾講師の佐倉。黒木のドライなやり方に疑問を感じ、意見することも多い彼女ですが、実はそんな佐倉タイプの方がめずらしいというKさん。
「何も知らずにアルバイトとして来た学生なら仕方ありませんが、社員であれば入社の際に研修を受け、いわゆるノルマなどを含めた仕事内容は理解しているはずです。社会人としてちょっと未熟すぎる気がしますね」
受験生の子どもが『二月の勝者』を見ても悪影響はない……?
校舎長など塾を運営する立場の講師であれば特に、黒木のような考え方には共感するのでは、と話してくれたKさん。
「『金脈』や『ATM』といったストレートな言葉は使いませんが、塾経営者の視点で保護者や子どもたちと接するのは当然ですよね。黒木先生と違うのは、保護者を相手にあんなふうな口のききかたをしないということでしょうか」
なんとなく想像できていたような、でも聞きたくなかったような……。
「子どもの将来を売る場所」
「成績下位の子はお客さん」
子どもにとっては刺激が強い言葉も多い作品なので、子どもには見せたくないという保護者もいそうですよね。
「受験生の親はもちろん、子どもにも見せてまったく問題ないと思いますよ。塾とうまく付き合っていくために、むしろ知っておいたほうがいいこともあります。中学受験生にとって塾の存在は大きいですが、適度な距離感を保ちつつ、塾や塾講師をうまく利用するくらいの気持ちでいるのがいいと思います」
実際にSNSをのぞいてみると、
「子どもが、黒木先生の塾に行きたいと言い出している」
「自分はいま3年生だからまだまだ可能性がある」
と、受験に意欲を見せる子どもたちもいるようです。
「黒木先生に教わってみたかった」
という受験終了組の声も。
母親の気持ちに寄り添って共感してみせ、父親からお金を引き出し、子どもたちにやる気を出させる……、多少強引ではありますが、なぜか引き込まれてしまう黒木のやり方。塾講師としてそれだけリアリティがある証拠なのかもしれませんね。
取材・文/古田 綾子
1970年代生まれ。女性のライフスタイルを中心にWeb&雑誌メディア、オウンドメディア等の編集・執筆に携わり、子どもの中学受験をきっかけに教育分野でも活動。子育て・教育関連本の発掘と読書が趣味。上智大学卒。三重県出身、神奈川県在住。2男児の母。