より戦闘的なマシンへと進化したソフテイルスリム
1950年代に人気を博したレーサースタイル「ボバー」を完全再現したハーレーとして2012年にデビューしたモデル、ソフテイルスリム。昨年(2017年)、最新型エンジン「ミルウォーキーエイト」を搭載すべくフレームも新型化するというカテゴリーごとフルモデルチェンジをはかったソフテイルにおいて、このソフテイルスリムがどんな進化をはたしたのか、以前のモデルに何度も試乗した経験があるガイドが、比較検証してみました。
パワーアップ&軽量化
さまざまなタイプが揃えられているハーレー・ソフテイルファミリーにおいて、不必要なパーツを用いることなく無垢なハーレーというスタイルを貫くソフテイルスリム。確かに304kgという重量は決して「軽い」とは言えませんが、排気量が1700ccオーバーのハイパワーマシンが並ぶハーレーのなかではとりわけ軽量なモデルなのです。インパクトある前後16インチホイール&ファットタイヤという組み合わせに大きなヘッドライト、そのヘッドライトからリアホイールの中心にかけて直線を引くリジッド型フレーム「ソフテイルフレーム」、そしてタンク~シート~リアエンドが描く流麗なシルエットと、ソフテイルのなかでも特に美しさを見せつけてくるモデルでもあります。
前後フェンダーやハンドルバー、ライザー、ホイールなどなど、流用パーツが多いことから以前のモデルとの違いが分かりづらいソフテイルスリム。こうして並べてみると、相当ハーレーに精通している人でなければ違いが分からないでしょう。
今回のフルモデルチェンジの要がこちら、バイクの心臓とも言えるエンジンの刷新です。重量400kgオーバーのツアラーモデルにも用いられている排気量1745ccのエンジン「ミルウォーキーエイト」がソフテイルにも搭載されることになりました。本来超重量級のバイクを疾走させるためのハイパワーエンジンなわけですから、軽量なモデルに積めば……重しを取り除かれたような荒々しい走りを生み出すのは当然です。それが、ソフテイルのなかでもとりわけ軽量なソフテイルスリムともなれば……。
そのミルウォーキーエイトを搭載するためのフレームも今回バージョンアップ。シートの真下にサスペンション機能を内蔵するカーボンスチール製のリジッド型フレームを開発しました。ちょうどリアホイールの中心を起点にトライアングルを描くリジッド型フレームは1950年代以前までスタンダードとされた形状で、クラシックスタイルを踏襲するソフテイルのアイデンティティでもあるのです。
見た目は以前のままながら、心臓と骨格がパワーアップしたソフテイルスリム。そこで気になるのは「乗り味」ですよね。2017年以前のツインカムエンジン時代のスリムに何度も試乗している私が、どれだけ違いが出ているか比較インプレッションをしてみました。
ちょっと日本人にはオーバースペックかも……
またがってすぐに気づいてしまった、残念な部分……それが「シーソーペダルじゃなくなっていたこと」でした。シーソーペダルとは、つま先とカカトの両方を使ってギアチェンジできるアメリカンバイクに多く見られるペダルシステムで、ソフテイルやツーリングファミリーの全モデルにこれまで標準装備されているものでした(FXモデル除く)。ソフテイルスリムも2017年モデル以前まで装備されていたのですが、これがつま先だけでギアチェンジを行なう仕様になっていました。これは明らかにグレードダウン。
左がシーソーペダル、右が今回のソフテイルスリムのペダル。ご覧のとおり、カカトでギアチェンジできることからシューズやブーツを痛めない優れものとして愛用されてきたのが、今回このソフテイルスリムだけ片側仕様に。これは明らかにグレードダウン
このスリムを初めて見る人にとっては「こういうものかな」という感じかもしれませんが、カカトでギアチェンジできることでシューズやブーツを痛めずに済むという魅力を備えた以前のシーソーペダル仕様を知る人にとっては、かなりガッカリする点です。どうやらシーソーペダルでなくなったのはこのスリムだけで、シーソーペダル化はオプション(有料)だそう。正直、これだけで僕なら2017年以前の中古車を探しに行くでしょう。
がくっとテンションが落ちましたが、気を取り直してまたがり、バイクを起こしてみたところ……おお、軽い。体感はもちろんのこと、数値を見ても、2017年以前は321kgだった重量が304kgまで落ちていたのです。ひとえにカーボンスチールという剛性に秀でながらも軽量な素材を用いた新型フレームの恩恵でしょう。アメリカ人よりも小柄な日本人にとってはメリットと言えますね。
軽くてパワフルなエンジンを積んでいるわけですから、当然速いです。2017年以前のモデルと比べるべくもないほどに。4速で時速100kmに軽く到達してしまいます、正直言って「6速もギアいらないんじゃない?」と思ったりしました。スポーツクルーザーというカテゴライズになるであろうソフテイルスリムですが、ハーレーでこの速さって必要?という疑問が残りました。決して速くなく鈍重なところはありますが、鼓動を味わいながら気持ちよくクルージングできる2017年以前のソフテイルスリムでも十分では……?とも。
一時間ちょっと走り続けているとお尻が痛くなってきました。原因はシートで、ちょうど真下にサスペンション構造を備える新型フレームにあわせて、かなり薄く作られているようです。車体の美しいシルエットはスリムのキモでもあるので、そのために乗り心地を犠牲にした模様。また、シーソーペダルじゃないことからカカトでのギアチェンジができないため、つま先をグッと前に押し出さないと操作できないデメリットも。
これらのデメリットを改善する方法はひとつ、シート交換でしょう。ライディングポジションを前めでホールドしてくれる厚みあるシートに換えることで解消は可能だと思います。2017年以前のソフテイルスリムでも十分なんですけどね。
結論:速さなら2018年版、ハーレーらしさを味わうなら2017年以前モデルを狙え!
マシンとしては正常進化している2018年版ソフテイルスリムですが、「ハーレーダビッドソンとして楽しむ」「日本人が楽しむ」という要素を加味してみると、「(バージョンアップは)別にやらなくてよかったんじゃない?」と言いたくなる点が多かったです。今ならこの2018年版よりも安く、それも程度の良いツインカムエンジンのソフテイルスリムが手に入れられるでしょうから、気になる方は最寄りのハーレーダビッドソン正規販売店で聞いてみてはいかがでしょうか?
[HARLEY-DAVIDSON SOFTAIL SLIM SPECIFICATIONS]
HARLEY-DAVIDSON Softail Slim(2018)
ホイールベース/1630mm
シート高/660mm
車両重量/304kg
エンジン型式/ミルウォーキーエイト
排気量/1745cc
フューエルタンク容量/18.9L
フロントタイヤ/130/90 B16 53H BW
リアタイヤ/150/80 B16 77H BW
【メーカー希望小売価格】(消費税込/2018年4月現在)
[ビビッドブラック]226万8000円
[ブラックデニム]231万円
[インダストリアルグレーデニム]231万円
[ウィキッドレッド]231万円
[ボンネビルソルトデニム]231万円