母乳育児の助けになるよう、被災地に授乳服を送る
被災地に授乳服を送付
筆者が代表を務めるモーハウスでは、新潟県中越地震以来、東日本大震災、先の熊本地震などで、被災地に授乳服を送る活動を行っています。
先日、この支援を含めた活動を、テレビでも紹介いただきましたが、予想以上に反響が大きかったことは私にとっても驚きでした。男性も女性も、こうした隠れたニーズに気づかなかった、ということだと思います。
避難所でのプライバシー問題を、授乳服が解決
被災地の避難所で、不足するものの筆頭は、水や食べ物、粉ミルクなど。これらは、不足すれば命に関わるものですから、なんとか届けようという想像力は働きやすいです。でも、プライバシーの問題は、なかなか本人は声をあげづらいもの。だからこそ、そのニーズは表面化しないのでしょう。避難所で、母乳で赤ちゃんを育てる女性の気持ちはどうでしょうか?そもそも、私たちがこの活動を始めたのは、避難所の中で「授乳のたびに部屋の隅の寒い場所に行き、隠れて授乳せざるを得ない」という母親たちのつらい状況を聞いたことでした。避難所に授乳室が必要、ということも言われていなかった頃のことです。授乳できる場所がないなら、母親が自分自身で空間を作ってしまえば、という発想で授乳服が役立つのです。
見えない授乳服があれば、どこでも授乳OK
現在は、過去の経験から、授乳できる場所を備えた避難所も出てきました。でも、たとえ授乳室があったとしても、人の間を縫って何度も足を運ぶのはたいへんなこと。母乳の赤ちゃんの授乳は想像以上にひんぱんです。
一方で、たくさんの方がいる中で「赤ちゃんを泣かさないようにしなければ」という緊張も強いられます。赤ちゃんが泣く理由はいろいろですが「お腹がすいたから泣く」というのは、当然に大きな理由の一つです。
母乳が防災になる3つの理由
■1 赤ちゃんにいつでも栄養を与えることができる被災した際に、母乳は役に立ちます。その一番目の理由は、なんといっても、母親がいる限り、水やミルクがなくても、赤ちゃんにお乳を与えることができるということ。このことは、母親にとっても大きな安心感につながります。
イベントでお会いしたあるお母さんは、こんなことをおっしゃいました。
「3.11の時、上の子が生まれたばかりで、いつミルクがなくなるか、と毎日とても怖い思いをしました。だから、今度の子は、たとえ一滴でも、長く母乳を続けようと思ったんです」。
■2 物資の有効活用
理由の二つ目としては、実は他の人のためでもあるということ。赤ちゃんに母乳を与え続けることができれば、その子のための水や粉ミルク、お湯を沸かす燃料を、他の赤ちゃんや他の大人にも回すことができるわけです。
■3 ストレスを減らす
また、3つめの理由は、ストレスを減らしてくれること。母乳に関わるホルモンの中には、気持ちをリラックスさせるものがあります。母乳を与えることで、ナーバスになりがちな母親の心のケアになります。
周りの人にとっても同様です。狭くて、多くの人がいる空間はストレスがたまりやすいもの。まして、それが震災の後の不安な状況であればなおさらでしょう。そんな場所での赤ちゃんの泣き声は影響が大きく、周りの方たちの気持ちを乱すのは、仕方がないことです。
しかし、一方で赤ちゃんがお母さんの胸に抱かれて安心していれば、その雰囲気が周りに与える影響もまた大きいでしょう。
見えないニーズに気づき、ふだんからの備えを
被災地では、あまりに大きな被害に、遠慮やがまんが起こりがちです。たとえば、体の具合が悪い方が、なかなか診察を受けづらい状況。怪我をした方たちがいる中、少々の不調なら我慢しなければ、と思ってしまうからだそうです。結果として、早期に治療ができないために重篤化したり、インフルエンザなどの感染症などであれば、周囲の人を感染させてしまう可能性もあります。大きなストレスを受けながらも、被害が周りの方より少なかったことに罪悪感を持つ方もいらっしゃいます。弱音を吐けず、つらさをためこんでしまいます。
小さな不安や小さながまんを、気が付く人が何らかのアクションを起こしていくことは、大切なことではないか、と今回の支援をしていて気づかされます。
防災はふだんからの備えが大切です。家具の置き方の調整や固定。ご家族同士の安否確認方法を決めること。逃げる経路の確認。逃げやすいような抱っこひもや靴などの準備。そして、食料や水、また非常時に必要なものの備蓄などなど。
母乳育児そのものも防災活動と言えますが、それに加え、ふだんから備蓄品の中に、授乳用品や抱っこひもをそなえること。さらに言えば、それらをふだんから使って、赤ちゃんとの外出に慣れておくことは最大の備えかもしれません。
こうしたことに気が付くことができる人や経験者が、母親たちに伝えていっていただければなと思います。