杉並区の早稲田通り沿い、コンクリートの建物が建ち並ぶなかに、ひっそりたたずむ築80年を超える古民家があります。昭和初期に和菓子屋として建築されたものです。この古民家を相原まどかさんと山崎敏幸さんのご夫妻が買い取って、ご自宅兼事務所(YUUA建築設計事務所)としてリノベーションしました。
築80年超の商家の趣を残す古民家が見事に再生された
土地を探して出会った古民家
その趣を残した大胆なリノベーションを
相原さん・山崎さんご夫妻は、住宅を新築したいと当初は土地を探していたそうです。事務所も兼ねるため、交通アクセスのよい都心部で探していましたが、建物との予算バランスで土地が狭小になったりと希望に沿うものがありませんでした。
この古民家が目に留まったのは、中古一戸建て売り出しても買い手がつかなかったためか「古家付き土地」として、土地値で売り出されたからです。相原さんたちは、建物を取り壊して新築するのではなく、古民家の趣を残して快適に暮らせるようにリノベーションを施すことに決めました。
脇から入る玄関部分
筋交い(すじかい)や貫(ぬき)を補強して耐震性を高めたり、断熱材を入れたりはしていますが、基礎や構造の基本的な部分は残しています。一方で、内装は大幅に手を入れました。かつての店舗部分だったと思われる広い土間(取得時点ではLDKとして使われていた)は、打ち合わせスペースとして改修。かつての住居部分だったと思われるところ(土間からも玄関からも入室できる空間)は、1階をキッチン、浴室、トイレなどの水回りと仕事スペースに、階段を上がった2階を寝室などのプライベートスペースに改修しました。
外と一体的に使える広い土間は、打ち合わせなどのスペースにした。神棚だったところに木のルーバーをつけて、その中にエアコンを隠すなど、木の素材を活かしている(写真の右上の部分)
1階は右側にキッチン、左側手前に仕事スペース、左側奥に浴室を。浴室はガラスで囲まれているが、目隠し用のブラインドを付けている。キッチンの左手前に見えるカーテンの中が玄関になる
相原さんのキッチンへのこだわりを紹介しましょう。キッチンはかなり大きなアイランド型で、特別に現場で職人たち(左官職人、建具職人、塗装職人等)が手分けして作った、ここだけもの。床とキッチンの天板は同じ「カナリア石人研ぎ仕上げ」だそうです。キッチンの背面部分は収納スペースになっていて、扉の面材に使われている木材は、改修前に土間の壁に使われていたものを再利用しています。状態のよいものを選んで、風合いがそのまま残るように何度も洗い流したとか。
キッチンにはたっぷりと収納が納まっている。キッチンの右側、階段の下に2つの戸があり、1つはトイレで、もう1つには冷蔵庫が隠されている
>>では、
次からは古民家ならではの空間について、さらに詳しく見ていきましょう。