FXDF ファットボブはパワフルなモンスタードラッガー
個性的なのはスタイルやディテールだけでなく、その乗り味も、です。前後16インチのファットタイヤという骨太な足まわりにツインカム96エンジン、そして剛性アップしたフロントフォークとドラッグバーという組み合わせは、FLスタイルのドラッグレーサー、すなわりストリートドラッガーである証明。このファットボブ、アメリカ本国仕様だとステップ位置がフォワードコントロールとされているので、元々はドラッグレーサーをイメージして開発されたものなのでしょう。XL1200X フォーティーエイトも同じ足まわりですが、あちらの場合はフロントフォークの剛性がダイナモデルほどではないため、重量感のある足まわりと軽快なハンドリングがミスマッチとなり、アンバランスな状態に陥ってしまっています。それに対してファットボブはすべてが筋肉質なので、どれだけ悪条件のなかで走ってもバランスを崩すことはありません。
実は今回、機会があってこのファットボブで東京~南房総間を走ってきたのですが、その日があいにくの雨模様(どちらかと言えば土砂降り)で、往路はともかく復路は路面状況も最悪なうえ、夜になってハイウェイ灯とヘッドライトのみの灯りで高速道路を走らねばなりませんでした。もちろんベストコンディション時のような走り方はできませんが、これほどの悪条件下でファットボブはバツグンの安定感を味わわせてくれたのです。
太いタイヤがしっかりと路面を掴んでくれ、パワフルなエンジンとマッシブなボディが絶妙の組み合わせとなって、その低重心スタイルでハイウェイを駆け抜けてくれるさまは痛快ですらありました。ちょっとした路面のギャップぐらいじゃビクともしませんし、さらに大きなギャップによる衝撃でもしっかりと受け流す柔軟性も持ち合わせています。まるで寝技が得意な“いぶし銀のレスラー”のよう。スポーツクルーザーというカテゴリーで言えば、間違いなく上位に食い込むレベルではないでしょうか。
実にアメリカらしいスポーツバイク
ファットボブのベースとも言えるもうひとつの魅力、それはいかにもアメリカらしいスタイルのオートバイであることです。これほどの大排気量エンジンを積んだ直線番長なクルーザー、他メーカーではまず見かけることはありません。ストリートドラッガーというくくりで見れば、その舞台はストリートユースがメインなわけですが、街中でこれほどの大排気量エンジンを最大限に生かすシーンがあるかと言われれば、答えはノーです。しかしアメリカには、こうした大排気量オートバイでストリートを駆け抜けるライダーが数多く存在します。体型はもちろん民族性、カルチャーの違いと言ってしまえばそれまでですが、ファットボブは知られざるアメリカのモーターサイクルカルチャーがあってこそ生まれたモデルとも言えるのです。アメリカらしいスポーツバイクに対する解釈は、私たち日本人のそれとはずいぶん違うもの。その視点をもって見れば、気づかなかったファットボブの魅力に惹かれていくかもしれませんよ。
[HARLEY-DAVIDSON XL883N SPECIFICATIONS]
全長/2,386mm
全幅/895mm
全高/1130mm
ホイールベース/1,620mm
加重時シート高/690mm
車両重量/321kg
エンジン型式/Air-cooled, Twin Cam 96
排気量/1,584cc
フュエルタンク容量/18.9L
フロントタイヤ/130/90B16 M/C 67H
リアタイヤ/180/70B16 M/C 77H
メーカー希望小売価格(消費税込)/210万円
(2014年9月現在)