他のハーレーにはない強烈なインパクト FXDF ファットボブ
デュアルヘッドライトにデュアルテールランプという、ハーレーダビッドソンのみならず各モーターサイクルメーカーにもそんなデザインのモデルはない異端のなかの異端、FXDF ファットボブ。初めてその姿を見たときには「これがハーレーか?」と、戸惑いにも似た驚きを覚えたものです。それぐらいハーレーらしからぬモデルなのですが、その特徴を掘り下げていくと、ハーレーダビッドソンがかつて持っていたレーシングカルチャーをふんだんに備えていることに気づかされます。ファットボブが登場したのは2008年。ハーレーダビッドソンの歴史は100年以上におよぶ長いものがあり、その伝統的なスタイルこそアイデンティティなので、たいていのニューモデルにはベースとなる存在がいます。ところがこのファットボブには元となるモデルがないのです。それもそのはず、フロント16インチホイールのダイナモデルというのは、当時で見れば掟破りとも言える仕様だったからです。
FXDB ストリートボブ、FXDWG ワイドグライドといったダイナモデルをこれまでご紹介してきましたが、ダイナと言えば“スポーツ性能を備えたビッグツインであること”に加え、フロント19インチ / リア16インチという足まわりの組み合わせがベースでした。それはダイナの始祖であるFXスーパーグライドがデビューした1971年から続く変わらぬ姿だったのです。
フロント16インチ / リア16インチというのは、ハーレーダビッドソンのなかでは珍しくない……それどころか、もっともポピュラーなスタイルです。いわゆるFL(エフエル)と呼ばれるスタイルが元で、ソフテイルファミリーなどにはこの前後16インチモデルがいくつもあります。しかし、スポーツ走行性能に重きを置いたダイナモデルの足まわりを前後16インチにするというのは、既成概念を破壊しかねない試みではありました。そう、ファットボブの開発テーマは創造的破壊だったのでしょう。
時代を切り開いたFXDF ファットボブの斬新さ
フロントに従来のもの以上の太いタイヤを履かせるということは、当然2本のフロントフォークの幅を広げなければなりません。そうなると、一灯のままだとヘッドライトまわりがスカスカになって、間が抜けた印象になってしまいます。ファットボブがデュアルヘッドライト(二灯)なのは、そうしたクリアランスに対する考慮とモデルそのものの斬新さを増す意味が込められているのでしょう。キャラクターづくりという点でも、この仕様は良くも悪くも当たったと思います。2014年よりリアフェンダーがボートテイルフェンダーへとデザインチェンジしました。これは1971年にデビューしたFX スーパーグライドに備わっていた斬新なボートテイルフェンダーへのオマージュで、ダイナの始祖とフロント16インチのFL仕様を組み合わせた時代の寵児としての意味合いを持たせたのでは?などと勘ぐってしまうディテールです。
既成概念をくつがえすほどの斬新なアイディアというのは、デビュー時にはなかなか理解され難いもの。このファットボブもどちらかと言えば、戸惑いをもって迎え入れられることとなりました。とりわけ日本では“古き良き伝統”を重んずる傾向から、ハーレーダビッドソンに対する根強いイメージをお持ちのユーザーからは敬遠されがちなモデルとされていました。ところが近年、同じ前後16インチのファットタイヤを備えたスポーツスター XL1200X フォーティーエイトが爆発的な人気を博し、奇しくもそのスタイルの先駆けであったファットボブが今、評価を受けつつあるのです。
他にない個性を散りばめるファットボブ。それではその乗り味について触れていくこととしましょう。