メーカーが手がけたファクトリーカスタムモデル・スポーツスター XL1200X フォーティーエイト
2011年のデビューから現在にいたるまで、不動の人気ナンバーワンの座をキープする『スポーツスター XL1200X フォーティーエイト』。実際に街で見かける頻度も多いですし、ハーレーダビッドソンの雑誌広告に何度も登場するなど、名実ともに認められた人気モデルと言えます。このフォーティーエイト、いわゆる“ファクトリーカスタムモデル”と呼ばれるメーカーによってカスタマイズされた特別仕様モデルで、ベーシックなスタイルのスポーツスター(現行ラインナップから姿を消したXL883)と見比べると、かなりオリジナリティに富んだ一台に仕上げられています。
もっとも目を引くのは、ロー&ロング(低く、長く)を実現したそのスタイリング。前後とも極太タイヤを履かせた16インチサイズの足まわりはインパクト大で(スタンダードなスポーツスターはフロント19インチ/リア16インチ)、ヘッドライトからリアエンドにかけて形成される流麗なフォルムと相まって、実に美しいスタイルを生み出しています。
国産メーカーでは考えられない姿かと思いますが、いわゆる前後16インチという設計はハーレーダビッドソンに脈々と受け継がれている『FL』と呼ばれるスタイルで、同メーカー的に見れば割りとスタンダードなもの。ただ、この仕様をスポーツスターに取り入れたことがサプライズであって、新しい領域に踏み入ったハーレーダビッドソンの象徴的モデルとも言えるでしょう。
ハーレーのカスタム手法に「チョッパー」や「ボバー」という呼び名がありますが、ムダを削ぐ(チョップする)ことがそれらの語源であるところからも、このフォーティーエイトがファクトリーカスタムモデルと呼ばれる理由がお分かりいただけるかと思います。
フォーティーエイトの独特のフォルムを生み出しているのが、特徴的な各パーツ。低く設定されたハンドルバー(しかもミラーがアンダーマウントに)にピーナッツタンクと呼ばれる容量わずか7.9Lのフューエルタンク、コンパクトなそら豆シート、チョップドリアフェンダーと、すべてこのフォーティーエイトのために設計されたパーツ群なのです。ちなみにこのフォーティーエイトという名前は、ハーレーダビッドソンがこのピーナッツタンクを初めて採用したのが1948年だったことに由来します。
見た目は絶妙なXL1200X フォーティーエイト ところが乗ってみると……
スタイルだけなら非の打ちどころがないフォーティーエイトですが、実際に乗ってみると、独特のフォルムなだけにアクの強い乗り心地が随所に見受けられます。まずライディングポジションですが、着目していただきたいのが足の位置。写真をご覧いただくと、私の足が前に突き出しているように見えるかと思います。これはフォワードコントロールと呼ばれ、一般的には停車時に両足がストンと地面に落ちるところ(またはそれよりも後方)にあるステップが、このように前方に取り付けられています。このフォワコン、ハーレーダビッドソンではカスタムモデルに取り入れられている珍しくはない仕様なのですが、本来ライディング時に体のバランスを取るための両足が前方に投げ出されているため、コーナリング時に荷重移動させる際、バランスが取りづらくなってしまうのです。また前述のそら豆シートですが、流麗なスタイリングを重視した設計のため、走行時、後ろにずれていく体をホールドしてはくれません。そこにこのフォワコンが加わるので、ライダーはただ座るだけで体を支えねばなりません。その効果が顕著に表れるのが高速道路を走ったとき。走行風で体がどんどん後ろに流されてしまうため、ハンドルにしがみつくような乗り方を強いられます。設置面の多さから直進走行時は高い安定性を誇るなど、極太タイヤによる恩恵ももちろんありますが、改めてクセの強い一台なのだと実感しました。
完成度はグンを抜いて高く、存在感も魅力的なフォーティーエイト。「でも、乗ってシンドいんじゃイヤだな」と思われてしまいそうですが、心配ご無用。ハーレーダビッドソンの楽しみ方のひとつであるカスタムにより、オーナーに合った仕様に変えてしまえば難点はクリアされます。私ならフォワードコントロールをミッドコントロールとし、さらにさまざまな種類のシートから自分に合うものを選びますね。タンク容量が少ないためロングツーリング向きではありませんが、ファッショナブルに街を颯爽と駆け抜ければ、もっとこの一台と楽しく付き合えると思います。