一年に一度のチャンス! 幻の島、八重干瀬へ
この世のものとは思えない色彩を放つ池間の海。この海の中に幻の島が眠っています
宮古島の北に浮かぶ池間島の先に、一年に一度だけ姿を現す幻の島があるのをご存知ですか? 「八重干瀬(やびじ)」と呼ばれるその島は、旧暦3月の大潮の日に池間島の北東約15kmの海面に突如姿を現す、南北10km、東西7kmほどの大きさの島。宮古島の1/10にも値する大きさで、海面に姿を見せない海中部分の大きさも含めると1/3にもなると言われています。とにもかくにも驚く大きさのこの島の正体は、なんと巨大な珊瑚礁。100以上の珊瑚礁からなる、日本で一番大きな珊瑚礁なのです。八重干瀬の名前の由来は、大きくわけて八つの干瀬があるからとも、幾重にも干瀬が重なり合っているからとも言われています。
八重干瀬とは?
元気な珊瑚にとそのまわりを泳ぐ熱帯魚たち。色鮮やかな海の中の世界(イメージ) (C)OCVB
そんな八重干瀬は、14世紀ころから地元の漁師さんたちに漁場として利用されていたようで、宮古の言葉で海の畑を意味するインヌパリの名で呼ばれています。沖縄では、干潮時に姿を現す珊瑚の干潟はイノー(海の畑)と呼ばれ、貝や海藻、そして逃げ遅れた魚が簡単に捕れる場所として大切にされているもの。時にはタコや大きな魚があがることもあり、海に入らずにして女性や子供でも食材を捕ることができるので、昔から島の人々にとっては天然の冷蔵庫的役割を果たしてきたものです。そんなイノーの巨大なものがこの八重干瀬。しかも、陸続きではなくずっと沖合にあることから、簡単に行くことができません。必然的にこの巨大な珊瑚の自然が壊されることなく、守られてきたことに繋がったというわけです。
魚場としてはもちろんですが、日本で一番の大きさを誇る八重干瀬は、ダイビングやシュノーケリングのポイントとしても人気です。宮古の海の中でも一際美しい池間島周辺の海は、天国そのもの。船の上から眺める八重干瀬までの海の景色は、この世のものとは思えない美しさで、見る者を一目で魅了します。もちろん、総明度抜群の海の中の世界の素晴らしさは言うまでもありません。種類豊富な珊瑚のまわりをくるくると泳ぐ色鮮やかな熱帯魚たちの姿に思わず見惚れてしまいます。深く潜らずとも、その生命豊かな海の神秘を実感できるとあって、シュノーケリングにおすすめです。
宮古島と池間島を繋ぐ池間大橋からの絶景。このさらに北に八重干瀬が位置します
実を言うと、八重干瀬がその姿を海面に現すのは、年に一回っきりというわけではありません。年に数回の大きな大潮の時には多少ながらその姿を見ることができるのです。ですが、珊瑚礁の破壊を守るため八重干瀬への上陸に関しては、宮古島観光協会によってガイドラインが引かれているので、上陸が許可されるのが、この春の大潮の時となっているのです。春の大潮の八重干瀬観光は、宮古島観光の大きな目玉のひとつでもあり、毎年この大潮に合わせて宮古島平良港から八重干瀬行きの船が出され、幻の島を見ようと多くの観光客が訪れています。
ちなみに3月3日というと、普通は「雛祭り」を連想すると思いますが、沖縄各地ではこの日は浜下りの日。浜下りとは古くから沖縄に伝わる風習で、地域によって神事と関わっていたり、女性に限定されたりと多少意味合は異なりますが、海に入って身を清め災厄を祓う行事のこと。現在では、ごちそうを持って海へ出かけ、潮干狩りをしたりしながら一日海で遊ぶ日として定着しています。
宮古島では、この旧暦3月3日の浜下りの風習は「サニツ」と呼ばれ、昔は集落によって様々な催し物が行われる祭事であったようです。現在では、海辺でピクニックを楽しむ家族連れの姿を多く見かけることと思います。
貴重な自然の宝庫である八重干瀬は、2013年に国の天然記念物にも登録されています。宮古島を訪れるなら、一度春のこの大潮の時期を狙ってみるのもいいでしょう。海の恵みや、生命力の豊かさを目の当たりにできる体験となることだと思います。ただ、くれぐれも八重干瀬観光の際は、珊瑚を傷つけることのないよう気をつけてくださいね。