かれこれ電気炊飯器という道具を永らく使ったことがありません。家電売り場でいろんな最新機能の付いた炊飯器がずらっと並んでいますが、眺めれば眺めるほど、どれがどうだか分からなくなってしまいます。色々機能があると、もう、いいや、となってしまう。こうやって進化の波にじわじわと遅れていくのですが……。今となっては、炊飯器をどうやって使うのか、操作方法がたぶん分からない。でもなんとなく、炊飯器がなくても事足りる感じに暮らしてきました。

ごはんがなければパンを食べればいいじゃない、という訳ではなく、日本人たるもの、ごはんなしには生きられない、ごはん大好き人間です。だから、ごはんはずっと鍋で炊いてきました。そう聞くと“こだわって、うまい飯が食べたいから”とわざわざ鍋に固執しているのかといえば、別にそうでもなく、たまたま買わずにいただけ。初めての一人暮らしのとき、炊飯器でも買おうかな~、と思っていたら、引っ越しを手伝ってくれた友人が「鍋でも炊けるよ」と何の気無しに言い放ったことから「そうか、鍋で炊けばいいのか」と納得し、それ以来ずっと鍋炊きでいます。

鍋で炊く方法は簡単にいうと「お米と水を入れて火にかけて、沸騰したら弱火で○分、火を止めて蒸らし○分」というものです(○分は鍋の大きさや炊く量で変わります)。あまり難しいことや細かいこだわりみたいなものはないのですが、だいたいコツがつかめてくると、失敗することはほぼありません。思ったより面倒ではない。だから続いているのでしょう。どうせ鍋で炊くなら土鍋がおいしいよ、という話を聞き、しばらくは土鍋を使用していました。確かにおいしい気がする。土は火の当たりが柔らかいせいかもしれません。しかしある日パッカリ割れてしまいました。使い方が悪かったのか、また、そんなにいい土鍋を使ってなかったからなのか。あと土鍋は重いというのがちょっと面倒でした。

その後は鋳物鍋(ル・クルーゼやストウブなど)を使っていました。鋳物もやっぱり重いけど、割れることはありません。でもじっくり煮込み料理などにも使いたくて、ごはん用鍋がしばしば別の用途で使用中ってことがありました。あと沸騰したときに、大抵の鍋は中の水分がフタの隙間から下に吹きこぼれます。鋳物はフタが重いので、こぼれにくいほうではありますが、それでもちょこっとフタが持ち上がって漏れてきます。今でも愛用している鍋ですが、ごはん専用というより、たまに炊くことがあったり、という使い方。鋳物鍋は多様に使えるので、持っている分にはとても便利です。

次はタイ製のアルミのぺこぺこした鍋を使ってみました。見た目はややちゃちな感じなんですが、意外と使えるんだな、これが。ぺこぺこに薄っぺらく軽い鍋なので、沸騰するとやはりフタが持ち上がって間から思いっきり水分がだーっと流れてきますけど(吹きこぼれ防止用らしい中蓋も付いてましたが、やっぱり流れてきました)。しかし、今まで重い鍋ばかりだったので、軽いというのはこんなにも清々しいものか! というくらい身軽な感じがしました。よっこらしょ、と鍋を出す体力が必要ありません。ひょいっとふわっと持ち上げられるのはやはり魅力。しかしぺこぺこ鍋はうっかりすると焦げました。薄いので、火加減を少し慎重に見張らないといけません。それでもこのキッチュな感じが妙に憎めず、日常使いするのに愛着があって結構使っていましたが、だんだん底が焦げて黒ずんできました。

鍛金のアルミ鍋です

京都で見つけた、鍛金のアルミ鍋です


まあ、鍋であれば基本的にどんなものでも、ごはんは炊けるのです。タイの安い鍋でも、いいお米で炊けばピカピカに炊けていました。あとは自分のこだわりや気分、好みが大きい感じがします。自分が納得する好きな鍋で炊けばよい。そこで私が今最終的に行き着いているのは、鍛金の厚手のアルミ鍋。こちらは京都の「WESTSIDE33」という工房で買いました。三十三間堂のすぐ近くの静かな道沿いにあります。三十三間堂でずらりと並ぶ荘厳な千体の仏様を眺めた後は、やや現実離れした幻想的な気分に浸っていますので、この工房を訪ねて、普段の生活道具を眺めると、ほっと現世に戻ったような落ち着きを取り戻せるように思います。私の中での小さな決め事に「和食の道具は京都で買う」というのがありまして、京都へ行くたびにちまちまと道具や器を買い求めているのですが、京都という力はほんとうにすごくて、まるで魔法にでもかかったように、料理がおいしくできるような気になるものです。気分の問題ってのもありますが、気分はかなり味にも左右されるのです。

丁寧な仕事が感じられる

丁寧な仕事が感じられる


さてしかし、実際この鍋は優秀です。いやほんとに、京都で売られている道具は「うーん」と唸るような素敵なものが多くて、道具選びが毎度楽しい。こちらは鍛金という、一枚の金属板を金槌等で叩いて均一に伸ばし、形作る技法で作られています。職人の手仕事の道具です。丁寧に叩き込まれた地肌の様子が端正できれいです。人の手ならではの微妙な柔らかい丸みがあるのもよいです。こちらの職人さんは京都の老舗・有次から独立された方だそうです。こうして作られた鍋は熱伝導率が良く、保温性も高いといわれます。実際手に取ると、アルミの割にはしっかりとした重さがあります。土鍋や鋳物鍋ほどのどっしりした重さではありませんが、アルミのふわっとした軽さではなく、ある程度厚みがあり、落ち着いた安定感があります。タイ鍋のようなぺこぺこではない、頑丈さがあるように思います。また逆に重い鍋は、その重さにへこたれて使うのがややおっくうになったりするのですが、こちらはさほどではないので、日常使いの気軽さがあります(手元にあるのは「段付き鍋厚型2合用」というもので、直径17.5cm、重さ860gでした。ル・クルーゼの20cm鍋は2.5kgくらいあります)。ごはん炊きは日々使うものなので、私の場合、重さの程よさも大事なポイントになります。軽過ぎても不安ですが、重いと毎日使うには敬遠してしまいそうなのです。

炊けた!お米は鳥取の田中農場さんです

炊けた!お米は鳥取の田中農場さんです


ごはんを炊いてみました。2合用ですが、実際は3合半くらいまで炊けます(3合用、5合用などの鍋もあります)。火にかけて湯が沸くと鍋のフタがカタカタいうので、これが沸騰の合図になります。やや音がうるさいですが、このくらい大きな音で知らせてくれた方がうっかり忘れることがありません。これを合図に火を弱め、タイマーをセットします。縁のところが段付きなので、フタの隙間から水分が出ても、吹きこぼれて下に落ちることはありません。今まで水分垂れ流しだったので、この件は相当すっきりしました。あとはタイマーが鳴るまでほったらかし。鳴ったら火を止めて、再びタイマーをセットし、蒸らし終わるまでほったらかし。簡単です。あっという間に沸騰し、あっという間にできあがります。だいたい40分前後。炊飯器よりはずっと早いです。鍋で炊くとお焦げが、といいますが、この鍋は普通に炊いたら全部ふっくらでお焦げはできませんでした。炊き加減が均一で安定していると思います。お焦げを作るには最後ちょっと強火を入れるなど、工夫が必要です(タイ鍋は工夫しなくてもお焦げができることがしばしば)。

フォルムや機能としてはいわゆる文化鍋ってことです。一昔前の日本の家庭にはどこにでもあったという基本の鍋。この鍋がキッチンのコンロに鎮座している姿がなによりも凛々しく頼もしくてうれしい。今日も頼んだよ! と安心してごはんを任せられる。誠実で真面目な働き者の鍋だと思います。結局、炊飯器はいらない生活が今後も続きそうです。


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