新フェーズへと動き出したAMG
AMGモデルには、スリーポインテッドスターを抱くことへの誇りと反抗が相克しているように思う。その融和と摩擦、協調と軋轢、といったものを引っ括めて全てが、AMGの魅力というわけだ。いくら貴方が“AMG好き”だからといっても、三菱デボネアAMGやパガーニゾンダを無条件に惚れてはしまうことなどないはず。メルセデスあってのAMGであることは自明であり、それは単にブランド戦略やハードウェアの性能といった商品的な裏付けに留まらず、メルセデスというブランドが積み上げてきた歴史や伝統をあえて踏み台にしてぶっ飛ばすという快感こそが、半ば倒錯の境地というべき魅力を生み出している。
そんなAMGの各モデルに積まれているエンジンは、名機M156に代わるM157だ。
完全にAMGのオリジナル開発品で、メルセデスのエンジンラインナップからは全く孤立した存在であったM156に比べると、M157は多くの点で、メルセデスシリーズラインナップのV8エンジンと似通っている。
直噴、ダウンサイジング、そして過給器。その構成はもちろん、各種寸法まで共通部分が多いとなれば、以前のAMG製チューニングエンジンの手法に舞い戻ったかのような印象を受ける方も多いことだろう。
もちろん、各種設計は完全に別物とされている。メルセデス用4.7リッターV8を、ただ単に5.5リッターへとスケールアップしたエンジンではない。ただし、各所に共通部分が多いのは、ひとえに高効率化と高性能の両立を計るという、現時点では軽量化と並ぶ自動車メーカー最大の課題を克服するための便法だったと理解すべきだ。過去とは、取り巻く環境が全く違っているのだった。
高効率化とはすなわち、燃費向上であり、それはストレートにCO2削減へと繋がっている。AMGモデルにどうしてそんなもんが必要なんや! と、クリーンな日本に住まうユーザーは、抗議の声を上げることだろう。
まったくもってそうだ。CO2論議は根本的なところで間違っていることが多い(排出権取引はどうなった? )が、もはやヨーロッパを中心とした経済システムのひとつに組み込まれてしまった。これはもはや、問答無用のルール、である。
AMGを買う多くの社会的地位の高い人間にとって、従来どおり呑気に高性能だけを楽しむというわけには、ホンネはいざ知らず、世間体としていかない。SLS AMGのようなスーパーカーならいざ知らず(だからこそ、そのEV計画は偉大だったりする)、他のAMGモデルはほとんど趣味と実用がオーバーラップする存在である。
そういうクルマに好んで乗る、乗りたいステータスホルダーにとって、社会的現象であり、半ば責務となった炭酸ガスの削減は、無視して通るわけにはいかない守るべきルールになったのだ。
ことそういうわけで、AMGとしてもベースであるメルセデスモデルと同様の手法で、高性能と高効率を両立していくことを決断せざるをえなかった。
直噴V8ツインターボのM157/63AMGユニットには、アイドリングストップの備わったAMGスピードシフトMCTが組み合わされている。これはSL63に先んじて搭載されていたマルチクラッチ制御のトルコンレスオートマチックの改良版で、スポーツ性能のみならず、燃費向上にも大きく寄与するものだ。
M157のパワー&トルクスペックは搭載モデルによって異なるが、おしなべてM156搭載時に比べ、各モデルともレベルアップが計られている。そして、燃費性能を大幅に引きあげた。AMGは今、新しいフェーズに向かって動き出したのだ。