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旅をイメージさせる本や雑貨が詰まっている
旅をしたくなるきっかけって何だろう。 何気なく目にした写真、映画の中のワンシーン、人から聞いた楽しい思い出・・・ どうも断片的なものが多いみたい。 でもそのカケラは強烈なインパクトで記憶の中にとどまっていて、 あれこれと更なる想像を膨らませ、心をざわざわとさせる。 そして無性に募る想いは臨界点に達し、 これはもしや運命の出会いかも?と勝手に思い込んで盛り上がる。 出発前の能天気に高揚した気分はなんとも気持ちいいものである。
気がつくと旅に出ている、ということもある。 急な発作のように、あまりに唐突で衝動的に「旅したい病」が発病する。 思いつきでふらら~っとなりゆきのままに出かけていく。 無防備で行き当たりばったりだから、遠回りだし、 思いがけないハプニングが待ち構えていて、リスクの多い旅。 でも本当の面白びっくりはこういうところに隠れていたりする。 いずれにしても旅はとっても身近なところにあって、行きたいと思えば行けるのだから(時間や金銭的な 理由は抜きにして)、結局自分達は幸せな時代と場所に暮らしているなあ、と思う。
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個性的でインパクトのある建物。左側が本屋で 右はカフェスペース。
ユトレヒトの江口さんから、新しいお店を手伝っているという 話を聞いた。旅をテーマにした本屋さん。 しかもPAPER SKYが プロデュースしているという。普通の本屋さんとはちょっと違うかも・・・と期待が膨らんだ。 つい最近、ここにならきっとある、といつも頼りにしていた大手書店の悲しい知らせを聞いて、 よろよろした気分だったので、期待はなおさらだった。 青山一丁目の駅からもすぐ。個性的な建物の一角に本屋はあった。 入り口の外にはダンボールが積み重ねられ、中に雑誌が無造作に積み上げられている。 外国のニューススタンドのような雰囲気。既に旅先にいるような錯覚に陥る。 旅の気分を盛り上げてくれる気配がむんむんの入り口だった。

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カラフルでかわいい外国製ダンボールに雑誌が積まれている。
普通、町の本屋で「旅」というコーナーへ行くと、ガイドブックがずらっと並んでいる。 その国への行き方、気候、通貨、言語、そして観光名所を説明したハウ・ツー本である。 それはそれでもちろん必要なんだけど、ここにはいわゆるガイド本はあまり見当たらない。 天井まで届く壁一面の本棚には、旅をキーワードに様々な角度から集まった本がぎっちり詰まっている。 それは、メトロの案内図だったり、不思議でかっこいい建築だったり、 未知の料理の味だったり。旅へのイマジネーションをふくらませる本、 旅先で読みたい本、帰ってきてからじっくり余韻を味わいたい本など、 写真集やらエッセイやら絵本やら、古本あり、洋書あり、のなんでもアリアリ。 大きさも材質も古ぼけ方もいろいろで、そのデコボコ感覚のテクスチャーを眺めているだけでも面白い。
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左はロシア本コーナー。右の黄色い本は、 美術館を眺める人々を撮影した、
エリオット・アーヴィットの写真集。 スタッフお気に入りの一冊。
PAPER SKYを立体化した、というコンセプトのこの書店は、 入った瞬間から、もう旅が始まっているかのような、ワクワク感が立ちこめる。 どこでもドアが無数にある感じ?! それは雑貨のセレクトにも表れていて、 天井には今は無きTWA航空の大きな模型がぶら下がり、棚のあちこちにはホテルのマッチやボールペン、 航空会社のアメニティなど、どこかで見たようなスーヴニールが散りばめられている。 サウジアラビア航空の機内用カトラリーなど、ちょっと珍しいものもあって興味をそそる。 店内はそれほど広くはないのだけど、細かいアイテムがいちいち気になって、 掘り出せば掘り出すほど、次々に見つかるへんてこおちゃめなグッズについ心を奪われ、 いつの間にかどっぷりと長居してしまう。

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左はルフトハンザのバッグ。右はサウジアラビア航空のティーセット。
レジ横のちまちましたコーナーにも目が離せない。
私がウロウロしている間にも、スタッフが大きなダンボールを運び、 到着したばかりの荷物を解いている。 7月初旬にNYで買い付けしたものが、続々と入荷してきたとのこと。 ふらっと訪れるお客さんにも気軽に声をかけ、新しい本の話などで会話が弾んでいる。 古本屋とか専門書を売るお店って、ちょっと気難しい感じのおじさんがいて、 何を聞いてもむすっとしてるっていう印象があるけれど、ここはそんな心配はいらず、まったく気さくな雰囲気。 スタッフにも控えめながら親しげな、本好きオーラがにじみ出ている。
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トランクに外国の地図。今のシーズンは海関連の本もずらり。
この本屋を出る頃には、すっかり長旅をしたような気分で、 心地よい疲れと、不思議な充実感を味わえた。 となりにはアメリカのハイウェイ沿いにあるモーテルをイメージしたという、 開放的なカフェもあって、お腹の中まで旅気分を満たしてくれる。
BOOK246
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