ろうそくの灯かりで時間がゆるやかに流れ、贅沢な気分
ろうそくを日常に感じたのはフランスに滞在していたときです。 彼らにとって教会は生活の一部であり、田舎の小さな教会にも必ずろうそくが 灯されていました。 ろうそくはいつも身近にあるもので、なんでもないスーパーへ行ってもたくさんの種類が 売られており、食卓のテーブル、玄関へ続く小さな庭など、暮らしの中でろうそくを灯す風景を 普通に見ることができました。 蛍光灯の煌々と輝く日本の生活に慣れてしまうと、ヨーロッパの薄暗さは、 最初「暗い・・・」と少し不自由を感じるのですが、 しばらくその中で暮らしていると、このぐらいの明かりの方がゆったりと 気持ちが落ち着いて、くつろげることに気がつきます。
去年の秋、山形で蜜蝋キャンドルを作るアトリエを訪れました。 車でなければ行くことができないような山の中、ロッジ風の小さな小屋で、 こつこつと手作りのろうそくが作られていました。
アトリエの風景。学校の古い棚や椅子を使っています。
昔ながらの製法で、蜜蝋を時間をかけてゆっくりと溶かし、吊るした芯に少しずつ 垂らしては固まるのを待ちます。それを何回も繰り返して太さをつけていきます。 ちょっと根気のいる作業。面倒と言ってしまえば、確かにそうなんだけれど、 オーナーの安藤さんはそんな苦労を感じさせず、丁寧に愛情を込めて作っています。 蜜蝋キャンドルが好きで、ミツバチが好きで、そしてミツバチの飛び交うこの森の 自然が大好き、という思いが何気ない言葉の端々に滲み出ているような人でした。
蜜蝋というのは、ミツバチがハチミツをおなかの中でロウに変え、 巣を作るために使うものです。ミツバチが一生かかって集められる蜜の量は たったスプーン一杯だそう。だから一本のろうそくには数え切れないほどたくさんの ミツバチたちが集めた、貴重な蜜蝋が使われているのです。 すべて天然の蜜蝋100%なので、食べても大丈夫だそうです。 蜜蝋は大昔から人々の生活に欠かせないものであり、 古代エジプトではミイラに使われるなど、様々な重要な儀式に蜜蝋がたびたび登場します。 ヨーロッパでは最も神聖なろうそくとして、教会でも捧げられています。
ツリーのかたちのろうそく。最後の仕上げまで気が抜けません。
もともとハチミツが大好きなので、このアトリエでもろうそくをいくつか買い求めてみました。 蜜蝋キャンドルは以前にも使ったことがありましたが、ここのものは 特に香りが強く、赤い薄紙を開くと、ぷんと花のようなハチミツの香りがしました。 火をつけずに部屋の中に置いておくだけでも、ほのかにいい香りが漂って、空気を ゆるめてくれるようです。ろうそくの色はオレンジに近い、コクのある黄色。 ミツバチが蜜を採る花によって、色は多少変わります。季節によって、 微妙に色の違う蜜蝋ができるのだそうです。
赤い薄紙を開くと、とろりと艶のあるろうそくが現れます。
ろうそくの明かりで生活することは、質素なようで実はとても豊かな気持ちになります。 去年の暮れに訪れた、とある料理教室でも、食事の時間に蜜蝋キャンドルが 使われていました。「舌が研ぎ澄まされる気がする」と先生は言います。 ろうそくの炎は人の心を落ち着かせ、大勢が集まるときでも、 自然と笑顔がこぼれる様な、和やかな雰囲気を演出してくれるように思います。
ハチ蜜の森キャンドル
山形県西村山郡朝日町立木825-3 ハチ蜜の森入口
tel 0237-67-3260
http://www.mitsurou.com