恵比寿の駅から続く急な坂道を登っていると、 左手にふと、蔦の絡まるこじんまりとした建物があります。 そこだけ忘れ去られてしまったかのように、 やや枯れた風情でひっそりと佇むその建物をぼんやりと 眺めていると、まるで時間が止まったような錯覚に陥ります。 簡素な階段を3階まで上った一番奥に、隠れ家のようなお店ができていました。

夢の中で見た、幻想の博物館のような小部屋

店の様子
店の奥のアトリエ。古い映画のシーンのようです。
「tmh.SLEEP」は、デザイナーの古田智彦さんが手掛ける、ジュエリーやアクセサリー、オブジェ などを扱うお店。 モノトーンカラーの静かな店内には、ささやくように作品が陳列されています。 お店というより、博物館の標本室にでも来てしまったかのような、 どこかミステリアスな雰囲気。 並べられたひとつひとつに、何か計り知れない内緒の物語がそっと秘められているような気がしてきます。 果てしない想像力をかき立てられるような、思慮深く魅惑的な輝きを放っているのです。 窓の外では赤く染まった蔦が優しく風になびき、光と影のコントラストが一層 この空間を神秘的に演出しています。

店名の「SLEEP」は訳すと”眠り”ですが、 「ぼんやりと霞んだ儚いまどろみ」のようなイメージが込められています。  

リング
キャンドルに被せてあった紙から、アイディアを得たリング。


小さい頃から古物や美術書に 囲まれて育ったという古田さん。
「自然とものづくりに触れることの多い環境でした。また、子供の頃から絵を描くことより木を彫ったり、 粘土をこねたりなど、立体を造ることが好きでしたね。 立体の中でも特に小さいものが好きだったので、 ジュエリーに興味が湧いたのでしょうか。 アート的な要素を持ちながらも身近であり、身に付けて使えることも 魅力のひとつです」。
日本でジュエリーのデザイン・メイキングを学んだ後、フィレンツェに留学し、古典的技術を習得して一層腕を磨きました。 古田さんの作品はアパレルメーカーの目に止まり、 そのまま取引が始まったそうです。 帰国後は、恵比寿にあるアンティークショップ 「ECRITURE」にて2年間 共同で店舗を構え、2009年の5月に独立しました。


ジュエリー
アンティークのフェーヴをモチーフにしたり、
ハットピンからイメージしたバロックパールを使った作品など。


デザインのアイディアは日常生活の中から生まれてくるという古田さん。 「ECRICUREにいたときは、今まであまり見たことのなかった様々な素材と出会えたことが大きな収穫でした。 毎日圧倒的な強さを持つ古いものに囲まれていたので、 ヘタに作品が創れなかった。おかげで鍛えられました。 コンテンポラリーなデザインでありながらも、 古いものとも自然に馴染むような、永く飽きの来ないパーマネントな作品を作っていきたいと思っています」。

ジュエリー
ダイヤモンドの原石が内側に埋め込まれたリング。


次ページでは、店内のインテリアやユニークな作品をご紹介します。