長年、治療の手立てなしとされてきた、アルツハイマー病。国内で発売されている薬では、エーザイの痴呆改善薬「アリセプト」が知られていますが、治療薬はまだできていません。しかしじつは、今、きわめて効果的な薬が生まれつつあるのです!東京都神経科学総合研究所部門長 松本陽先生にお伺いしました。
抗体を作る画期的な治療法が登場
―アルツハイマー病ワクチンで有効なものは
これまでに開発されなかったのですか?
いいえ、じつは有効な薬はすでに作られているのです。代表的なものが、アイルランドに本社を置くエラン・ファーマシューティカルのワクチン。
アルツハイマー病は、アミロイド・ベータペプチドという物質が脳に凝集することで発症する、とされています。そこで同社は、体外からアミロイド・ベータペプチドとともに免疫賦活剤(白血球に刺激を与える物質)を投与し、体内に抗体を作りだす方法を考えたのです。抗体に脳のアミロイド・ベータペプチドを攻撃させ、病気の原因を可能な限り取り除こうする試みです。
この取り組みは、一躍、世界中の注目を浴びることとなりました。しかし、残念ながらこの薬は日の目を見ることはなかったのです。理由は、患者への臨床実験をおこなったところ、治験者の5パーセントが重篤な脳炎を起こしたため。副作用が大きいとの理由から、商品化には至りませんでした。
重篤な副作用を克服する
―副作用を起こさない薬の開発は
進んでいますか?
かなり進んでいます。日本国内でも、いくつかのワクチンが研究開発されていますよ。たとえば、われわれ都神経科学総合研究所が考案した、遺伝子を用いたDNAワクチンです。
DNAワクチンは、投与するときに免疫賦活剤を必要としません。また、一回投与すれば、長時間体内にワクチンがとどまり、ゆっくりと効き目が起こります。結果的に、過剰な免疫反応を避けることができ、副作用が起こりにくいのです。
―その薬を投与すれば、
アルツハイマー病になっても治るのですか?
成功すれば、初期から中等期程度のアルツハイマー病の治療が可能になるでしょう。といっても病気を根本から治すことはできませんが、痴呆症状や問題行動などはかなり改善されるに違いありません。つまり、薬物治療さえ続ければ、十分に健康的な生活が送れるようになる、ということです。ちょうど糖尿病患者の場合と同じですね。
製品化は数年後?
―ほかにどんなワクチンが
開発されているのでしょう?
国内では、国立長寿医療センター研究所や東京大学も、同様の開発をしていますよ。
面白いのは、東京大学の試みです。これは、遺伝子組替え野菜などを利用し、ワクチン投与と同じ効果を狙うもので、食べることで、痴呆治療をおこないます。われわれの研究と同様、これらの開発も現在、動物実験段階と聞いています。
―製品化はいつ頃に
なりそうですか?
都神経科学総合研究所で開発中のものは、少なくともあと数年かかるでしょう。というのも、日本では遺伝子治療に対する理解が薄いため、臨床実験をおこないにくいのです。そこで、われわれは海外の製薬会社と提携し、開発を続けています。その場合、薬はまず海外で発売され、その後、厚生労働省の認可を受けて国内発売――という経緯をたどるでしょう。つまり、海外にくらべ出遅れて市場に登場することとなるのです。この薬を待っている多くの人のことを思うと、一日も早く製品化・発売したいのですが。
いずれにせよ、そう遠くない日、アルツハイマー病治療の決定打が生まれることは間違いありません。
有効なワクチンが誕生すれば、重度のアルツハイマー病はじょじょに姿を消し、老後の生活をいきいきと送れるようになるに違いありません。今後の開発の動向に期待したいところですね。
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