■こだわりや思いが注がれた家
東京・上野の池之端にある横山大観邸に行ってきました。横山大観が90歳で亡くなるまで暮らしていたこの住まいを見て、アプローチのつくり方や中庭をとって通風・採光を確保するなど、現代の都市型住宅に通じる設計上の手法を発見しましたので、そのあたりを中心に、どんな家だったのか、ご紹介しましょう。
■アプローチの工夫で彩りのある演出を
横山大観は説明するまでもない、日本画の巨匠。その大観の住まいは木造2階建てで、もともとは1909(明治42)年に建てられたものですが、戦災によってすべて焼失してしまったのを、1954(昭和29)年、再び同じ場所に、基礎をそのままいかしてに再建したものだそうです。この建物は上野の不忍の池のそばにあります。周囲には中高層の建物が多く、その中に取り残されたように建っているのが印象的でした。
どっしりとした木の門をくぐってから玄関までのアプローチには、石が敷き詰められ、植栽が施されています。それほど長いアプローチではないのですが、訪れた人はその門の中に入った途端、都会の喧騒を一瞬、忘れてしまうでしょう。庭先に植えられた木々の緑によって、別世界が広がっているのです。
門から玄関までのアプローチのつくり方で、豊かな演出ができるというよいお手本のようです。
木の門を一歩入ると木々の緑が目に飛び込んできて、とてもやすらげます | 敷石の上を進み、くぐり戸を通って玄関へ誘導されるアプローチです |
■中庭をとって明るく、風通しのよい家に
横山大観邸の敷地は、東西にやや細長い敷地で、道路に近い東側に設けられた玄関(正確には玄関横の出入り口)から建物内へ入ると、中庭があります。左手に客間があるので、この家を訪問した人は必ずここを通ることになるのですが、この中庭のおかげで家の中ほどまで光が差し込み、玄関付近や客間までの廊下が明るく、風通しもよくなっているのです。客間の奥には日本庭園があり、そこに通された人は庭を眺めながら、もてなしを受けたことでしょう。
この横山大観邸のように、中庭をとることで、家のすみずみまで通風・採光を確保したり、家の中心でも開放感を味わえるようにするという設計手法は、現在のように密集した都市にも通じる方法だと思います。