ハイスペックな窓と断熱材

古民家再生について、私は以前からちょっとした疑問をもっていました。それは、古民家を自宅にするには、リサイクルや愛着といった利点のほかに、現代の一般的な住宅のような基本性能を期待することはできないのだろうか、ということです。愛着をもつことができて、手に入れたときには満足できても、冬の寒さや夏の暑さを我慢したり、耐震性に不安を抱えながら暮らすのでは、「よい住宅」だとはいえないのではないでしょうか。

その点、Oさんの家は単なる古民家の再生ではありません。そのことがよくわかるポイントは、窓と断熱材です。

1階西側の窓。最新スペックのサッシとガラスですが、不思議と古民家にマッチしています
2階居室の天井部分も古材が縦横に走ります。奥の壁は、経費節減と趣味を兼ねて、ご自分で塗るため残しているのだとか
1階のリビングと和室の境にある引き戸は、サイズ調整のために木材が足されています。これも古民家の味といえるでしょう

なんと、窓には木製サッシ+複層ガラスが採用されているのです。それもLow-Eガラスにアルゴンガス入りというハイスペックなもの。当初は予算を考えて、ブラウン色のアルミサッシなら外観とも合うし、いいかと思っていたそうです。けれども、結露が起こるかもしれないし、やはり断熱を考えると、外気温の影響を受けやすい窓の断熱が重要だと考えたからだそうです。

実際に暮らしてみて、夏冬共に、窓辺にいても暑さや寒さを感じないほど、断熱性能が高いことを実感できたので、この窓を選んで正解だったそうです。

断熱材には、古紙などのリサイクル材を繊維状にしたセルローズファイバーを採用。壁に55mm、床下に100mm、屋根に100mmが充填されています。実際の断熱性はどうかというと、特別な気密施工をしているわけではないので、気密性が最新の住宅に比べるとやや劣り、断熱性も高断熱仕様の最新住宅と比べれば「それなり」といったところだそうです。しかし、実際の生活では我慢を強いられることはないレベルで、一定レベルの断熱はできているそうです。

しっかりつくった地盤と基礎と土台

気になる耐震性はどうなのでしょう? Oさんが家を建てるにあたり最も重視したことは、地盤と基礎と土台の3要素だそうです。敷地の地盤強度がどうなのかをしっかり調べたうえで、安全で長持ちする家を建てようと考えたわけです。

例えば、土地購入の際は活断層のない場所、低地ではなく高台にあることを前提に探したそうです。そして、探し出した土地でも、購入する前には、スウェーデン式サウンディング方式で地盤調査を実施して地盤の安全性を確認したといいます。また基礎では、ベタ基礎を指定するほか、基礎に使用するコンクリートの仕様も指定したとか。その仕様がマンション建設に匹敵するほど高水準のものだったので、施工業者から「もう少し緩くしてください」と言われたようです。

土台には腐りにくい4.5寸角の青森ヒバ材、通し柱は5.5寸角を使用。ゴム製が多い基礎パッキンは耐久性に難があると考えステンレス製基礎パッキンを採用したそうです。土台と基礎をつなぐアンカーボルトは施工精度に注意するよう指示したほか、アンカーボルトには錆防止のため防錆塗料を塗ったそうです。その他にも、柱や梁を緊結するのに見えないように金物を使用しています。

そのほか、床材にはむく材を利用したり、室内は漆喰で仕上げたり、室内の塗装はベンガラとかき渋を使ったりと、自然の素材をふんだんに利用しています。

古材を使用した注文住宅

ここまでOさんの家を拝見して、この家は、まさに「古民家の材料を使用した現代の住宅」なんだと思いました。それは、間仕切りが少なく、リビングに吹抜けがある間取りが現在ハウスメーカーが建てている住宅と似ていることからもうかがえます。実際には、建坪が16坪ほどのこの家で、できるだけ広々とした空間を求めた結果、このような間仕切りの少ない間取りにいきついたのだとか。

1階は、リビング・ダイニングとキッチンをつなげ、大きな吹抜けを組み合わせて広々とした空間を演出しています。また、2階の吹抜けのあたりからリビング・ダイニングが見下ろせて、家族の気配がわかるようにしていたり、2階にもトイレと洗面室を設置するなど、古民家ではあまり見かけない工夫もされています。このあたりは、現代の住宅と全く変わりありません。凝った建具とか欄間を採用せず、素材を生かしたシンプルな建具を採用している点も、現代の住宅デザインに通じるものがあります。

100年前の古民家の部材を再利用した家で、快適にその後も100年住む。そして100年後にまた解体して再生できる可能性があることは、リサイクルという点だけでも、とても素敵なことだと思います。

自分の理想の住宅を実現できたOさんですが、実はこの「現代的な古民家」は、建て売り住宅を買うのとそれほど大差のない価格で実現できたそうです。ただ、情報を集めたり、土地を探したり、たくさんの打ち合わせに費やした分だけ、完成品である建て売り住宅を買うよりは時間がかかりました。また、一般の住宅のように新しい部材だけで建築する住宅に比べれば、基礎にとりかかってから完成まで6ヶ月という工期は長いといえます。ですが、トータルとして家づくりにかかった費用は、土地を買って家の新築を考えている人の平均的な費用とあまりかわらないとのことです。

「家が完成するまでに少し長い時間がかかったり、職人さんたちの手間もかかったけれど、自分の意志を貫いてよかった」と、Oさんは笑いながら話してくれました。ちなみに、1階の漆喰は職人さんにお願いしましたが、2階の漆喰はご家族で仕上げたのだとか。これは、まだ小さなOさんのお子さんにとっても、とてもいい思い出になったことでしょう。そして、こういった作業をすることで、わが家に対する愛着はますます深まるのではないでしょうか。

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