▼五島記念文化財団美術新人賞の海外研修は自由に研修先を選べるということですが、イタリアを選んだ理由は?
まずイタリアの古いルネッサンス以前の絵の具を研究したいと思いました。テンペラとかフレスコとか、油絵が発達する以前の絵画の描かれ方やその画材に実際に接してみたいと思います。
またそれらの絵画は、祭壇画、壁画など、建築の一部だったりするのですが、そんなタブロー化される前の絵画に興味があります。
▼タブロー化される前の絵画というのは、額に入って持ち運びが自由になる前の絵画ということですね。
そうです。それは日本の伝統的なものと共通性があると思います。屏風は絵でもあるけれども部屋を区切る仕切りでもあります。襖絵は絵でもあるけれども建築の一部でもあります。
▼清野さんの行かれるフィレンツェにはイタリアの古い美術が収蔵されている美術館が多くあって、研究には事欠きませんね。
その中でもフィレンツェのウフィツィ美術館にあるシモーネ・マルティーニ作の「受胎告知」(リンクは下記)は個人的に西洋美術の中で最も好きな作品です。
そこに描かれたマリアは、決して美しくない顔なのに、表情がすばらしい。天使から告知を受けた時の複雑な心理情況がすごく滲み出てくるような表情をしているんです。また、色が深く複雑で、重なり合って透けて見えるような色がうまく活かされています。
西洋絵画では珍しいくらいに平面的な表現なのですが、その平面性がシルエットの美しさを強調しています。
▼平面性がシルエットの美しさを強調している、ということは?
現実的な描写ではなく平面的であるからこそ、形がストレートに現れているということです。
目を閉じると他の感覚が鋭くなるように、現実的で説明的な要素を排除することによって本来の形の面白さが現れてくるのだと思います。
▼日本画的「平面性」を追求するうえでも、「油絵が発達する以前の絵画を研究する」ことが重要なのですね。
油絵の具の発達で絵画の再現性はすごく進歩しました。油絵の具は粒子が均一で中間色が出るので、再現には適していると思います。
しかし絵は絵なのだから、イリュージョン的に平面に三次元を再現する必要はないと思います。うかつに三次元的な空間を作ってしまうと、それは現実になってしまいます。
絵画はあくまでも非現実のなかに表現していく「絵空事」であって、そこに面白さがあるのだと思います。だから再現とか描写ではない絵画性を追求していくと、やはり平面性が重要になってくるのです。
日本画の絵の具は色も限られているし、粒子もまちまちなので再現には向きません。しかしモチーフを表現するとともに絵の具の質感というか二次元をデザインすることができます。紙の質感、絵の肌合いを同時に味わうこともできます。
▼清野さんにとって、これから探る「日本画」とはどんなものですか。
以前は単純に「新しい日本画」を探していたのですが、5、6年くらい前から、日本美術と西洋絵画の本質的な違いを意識しはじめるようになりました。
この機会に改めて自分にとっての「日本画」のあり方について見つめなおしたいと思います。とりあえずイタリアには和紙と墨と筆を持って行きます。
●関連リンク/ウフィッツ美術館
●関連リンク/シモーネ・マルティーニ作「受胎告知」
清野圭一(せいの・けいいち)/1963年神奈川県生まれ。武蔵野美大大学院修 了。2003年1月から1年間イタリア・フィレンツェに滞在。
性格はドイツ向きだと言われるのですが、イタリア人に倣って、すっとぼける 術を身につけたいですね。イタリアは美術に限らず、なんとなく美意識が高い ような気がします。一年暮らしていると気付かされることも多いんじゃ ないかと思っています。
■清野圭一ページ
■五島記念文化賞美術新人賞受賞者一覧
■関連サイトAll About Japan [イタリア]