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キッチュな80年代のリアリティ(2ページ目)

「80年代のファッション」が、意味を変え、キッチュにスタイリングされる時、そこには独特の刺激が存在する。バブルを経験した後では、やたらと空虚に見えてしまう80年代の盛り上がり。だがそこに行き着くまでには、東京のファッションが異様な興奮を生んでいた時期があった。日本が金満になり、そして破綻する前の話。

執筆者:森田 剛

 

たとえば、サッシュベルトはフェミニンなスタイルに着けたりすると、昔のアイドルファッションやボディコンみたいになってしまうので、ジーンズにTシャツのカジュアル・スタイルに巻いてしまうとか、あえてハズした感覚の方が面 白い(写真左)。

写真右では長い間ダサイの象徴だったケミカル・ウォッシュのデニムとのコーディネート。
レインボ-カラ-のスパッツ、蛍光色の靴紐を通したリ-ボックのシューズなど、ダサカワイイ感じがいい。
マニュアルみたいにセンスよく引き算なんかしない、アナーキーなまでに足し算のスタイリングが、むしろ自分ぽくてカッコいいのでは?

80年代のテイストをちょっとハズシ気味に取り入れるのは、たとえば「ヴォーグ・イタリア」に発表されている STEVEN MEISELのファッション写真などにも、その傾向がうかがえる。

コーディネートにビザ-ル(奇異)なものを加える事で、ファッションは自分用にカスタマイズされた物のようなリアリティを帯びる。
今年になって、服に缶バッジをジャラジャラ付けている人をよく見かけるが、そのムードは、トレンドという言葉が今ほど流通 していなかった80年代初頭、それも特に原宿を彷佛とさせる。

シャネルスーツとボロルック。
当時よく聴いていたMELONの中ジャケから。

テクノやニューウエーブが流行っていた時代、原宿は奇妙な格好をした人種で溢れていた。自分は他人とは違うという事を争っていたその人間たちは、(洗練されている)(ダサい)以前に、リアルだった。既成概念やルールにとらわれず、ファッションに関しては新しい事が次々と起こっていたし、ものすごい速度で、自分たちの感じている事がファッションになってゆくようなスピード感があった。まだバブルを経験する以前の事だ。

自分のスタイルに、相反するキッチュな要素をとり入れる事、そして変化やスピードを求める事、不況下の閉塞的状況に必要なのはそんなマインドかもしれない。
近い過去であり、個人的には10代の頃にぴったりと重なった80年代のテイストは、今年のトレンド、という事で終わってほしくないほど、示唆に富んでいる。

写真提供:マガジンハウス『POPEYE』(6/11号)

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