そのワードローブを手掛けたデザイナーは、オレグ・カッシーニ、ジバンシー、シャネルなどだが、中にはジャッキー自身がデザインしたものも。雑誌『VOGUE』の名物編集者ダイアナ・ヴリーランド、そしてニューヨークの高級百貨店バーグドルフグッドマンのディレクターとの協力により実現した、スパンコール刺繍のチューブトップにシルクジョーゼットのスリーブレストップが重ねられたアイボリーのドレスがそれ。今、目の前にしても思わず着てみたいと思わせる時代を超えた洗練が表されている。
アメリカが世界中の羨望を集めた50年代を経て幕を開けた60年代。東西冷戦の緊張の中誕生したケネディ政権は決して明るい材料ばかりではなかった。しかし、そんな激動の時代の渦中においてもジャッキーはいつも彼の隣で輝いていた。彼女は常に自身を「ファーストレディとしてでなく、ケネディの妻として」認知されたいとしていた。といっても、ただの奥さん、だったわけではないだろう。フランス文学を専攻し、パリへ留学した学生時代、その後ワシントンタイムズヘラルド紙の記者として活躍していたキャリアを持つ彼女。それは、大統領夫人として政治や社会のうねりに巻き込まれてしまうのではなく、自分が選び、愛した男の妻としてしっかりと地に足をつけた生活をし、自らのスタイルを築きたいという意味だったのではないか。
ひとりの人間としての個性が表現され、アメリカの歴史や文化もがそのワードローブにリアルに息づいたジャッキー・スタイル。単なる流行でなく、真にファッショナブルな生き方として今も憧れることのできる姿がそこにはあった。
* THE METROPORITAN MUSEUM OF ART “Jacqueline Kennedy: The White House Years” / 1000 Fifth Avenue ( at 82nd St.) / 212-570-3791 / 7月29日まで
<写真をクリックすると拡大されます>
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。