レントゲンだけではない! 日常的な放射線被曝とは
国際線は時間が長いのが問題です!
食べ物からの分で馴染みがあるものを挙げておくとカリウムの放射性同位体や炭素の放射性同位体があります。炭素の同位体は考古学の年代測定に用いられています。
宇宙から降り注ぐ「宇宙線」に対して、地球は2つの守り(シューティングゲーム風にいうとシールド)を持っています。
1つは地磁気によるシールドで、南極と北極では弱くなります。言い方を変えると緯度が上がると、宇宙線による放射線は強くなります。北極圏ではオーロラが見えるのはこのためです。
もう1つは大気(空気)です。宇宙線は大気にぶつかると拡散して弱まります。航空機は地上1万m以上を飛ぶので大気によるシールドが弱くなり、地上よりも多くの宇宙線による放射線を浴びることになります。
地上に届く宇宙線は極めて微量なので、人体への影響を心配する必要は全くありません。自然界の放射線の影響を心配されるのは、長時間飛行機に乗る場合でしょう。
国際線飛行機が浴びる宇宙線は地上の10~100倍
自然放射線は空気からが多いんです!
通常、1年間に浴びている放射線の量、自然放射線を細かく見てみましょう。自然放射線の1年分を日割で概算すると空気から約180日分、食べ物から約60日分、土壌から約60日分、宇宙線から約60日分という日数になります。宇宙線からの分が1/6なので計算しやすいように6の倍数で計算します。
成田からニューヨーク、片道12時間、往復で24時間(1日)航空機に乗っていた場合、地上の6倍の宇宙線からの放射線を浴びたと仮定すると、1日分の余分の放射線を浴びた計算になります。60倍で計算すると10日分の放射線を浴びた事になります。
60倍で計算した場合、仮に海外出張が多いビジネスマンがニューヨークに年36回行ったとすると、出張の往復だけで一般人の1年分の自然放射線と同じ量を浴びてしまうという計算になります。年間で考えると人の2倍の放射線を浴びることになります。ただし、これは大気中にいた場合の計算で、航空機内での被曝量の計算ではありません。半導体を用いた測定機器による測定やシミュレーションでは、飛行機の中では、ここでの計算よりも少ない被曝量です。
生物多様性と自然放射線の関係
地球上に生命が誕生する時点で、自然放射線はありました。自然放射線に耐えることができなかった生命は絶滅しています。これまで続いてきた地球上の生命は、ある程度の自然放射線には問題ない生き物ばかりです。心配されている放射線による害は、放射線が細胞内の分子に当たった時に生じる「活性酸素」によるものです。活性酸素は細胞内の分子を酸化してしまって、酸化された後に元に戻れない分子の場合は細胞内で本来の化学反応ができなくなります。遺伝情報を傷つける可能性もあります。細胞は活性酸素を消去する機構と、傷ついた遺伝情報を修復する機構を持っています。
放射線はボクシングのボディブロウのように少しずつ効いてくるわけではありません。少量の放射線を浴びた場合、障害は蓄積せず、放射線を浴びなかった時の状態まで一定時間で回復します。実は100日分の放射線をまとめて浴びたとしても、大きな問題にはならないのです。
ただし、ボクシングのアッパーカットのように大量の放射線を一度に浴びた場合、細胞は死滅してしまいます。例えば骨髄で細胞が死ぬと、血小板が減って鼻血などの出血が止まらなくなったり、白血球が減ると感染症になったりします。皮膚では髪の毛が抜けたり、消化管が穿孔したりという放射線障害が起きます。放射線障害では、通常の場合、航空機内で、そのレベルの大量の放射線を浴びることはまずありません。過剰な心配は不要です。
妊娠中の海外旅行、放射線被曝は大丈夫?
妊娠期は、特に放射線被曝に対してナーバスになりやすい時期です。意外に思われそうですが、放射線治療の対象になることがある悪性腫瘍と、おなかの中にいる胎児には似た部分があるからです。人体は放射線による活性酸素の産生に対し、活性酸素を消去する機構が働きますが、母体内で細胞分裂が早い時期の胎児の場合、遺伝子の修復機構が追いつかない可能性があると考えられているためです。
安全性に絶対はないので、妊娠したことがわかっている場合は長時間の航空機に乗るのは避けるべきかもしれませんね。ほとんどの場合は全く問題ないと考えられるのですが、医学的な理由ではなく、予測できない宇宙物理学的な観点から、リスクがある場合があるからです。
太陽の活動は変化します! まれに非常に高いこともあるので、無用な心配を増やしたくないなら海外旅行は控えめに
宇宙線は、太陽が発生源のものと、太陽以外が発生源のものの2つに分けられますが、後者は超新星の爆発でもない限り、大きく変動することはありません。一方、太陽からの宇宙線には変動があります。
確率的には極めて低いのですが、太陽からの宇宙線が非常に多い時期があります。その場合は一回の飛行で大量の放射線を浴びてしまう可能性があります。大量といっても通常の成人には問題がないレベルですが、妊婦の場合は無用の心配を増やさないためにも、やむを得ない場合は除いて航空機を避けることをお薦めします。
パイロットや飛行機搭乗員への影響は?
実際、出張や海外旅行で航空機を利用する程度なら、放射線の心配する必要はありません。問題となる可能性があるのは航空機で働く人たちでしょう。航空機で浴びる放射線は地上より多いのは確か。飛行時間だけではなくて、路線により浴びる宇宙線による放射線は変わります。地磁気によるシールドの関係で、赤道近くでは宇宙線による放射線は少なく、緯度が高いほど増加するからです。日本からの路線だとヨーロッパ方面の路線では多く、東南アジア方面の路線では少ないことになります。国際線の搭乗員の場合、一般的な人の数倍の放射線を浴びているはずです。長期的な影響についてはまだ詳しい調査結果がなく、検討が始まっている段階ですが、結論が出るのにはまだまだ時間がかかりそうです。