保護猫のボランティアをやっているわたしが大昔に出会ったホームレスさんの話です。公園に住み着いていたその男性は、猫を集めて子猫を産ませることを繰り返していたので、どんどん猫が増え、とうとうご近所から苦情がくるまでになりました。

ボランティアの仲間数人で、猫を保護しては手術をするTNRを行っていましたが、ある日、今度はその男性から苦情が。話を聞くと、「三毛猫のオスが生まれるのを待っているから、不妊手術はさせない」「三毛のオスが生まれたら大金が手に入るんだから!」とたいそうな剣幕でした。オス三毛はとても貴重で、大金で取引されるという噂を聞いたそうです。

実際に現在、オス三毛が大金で取引されているかどうか、わたしにはわかりませんが、オス三毛がでるのを期待しながら子猫を産ませるのが、男性にとっての生きがいだったのかもしれません。

そんなこんなで何度も話し合いましたが、最後まで三毛とサビのメス、そして白黒のオスの3頭だけは手術をさせてもらえませんでした。その後も子猫が生まれるたびに、子猫を保護し、新しい飼い主さんを探す日々が続きましたが、最終的に男性は公園から立ち退きを命じられ、3頭の猫とともに姿を消してしまいました。

男性が今でもオスの三毛を探しているのかなぁと想像すると、少し切なくなります。

三毛のオスが生まれる確率は?

三毛のオスは珍しいですが、この世に存在しないわけではありません。さまざまな説があるのではっきりとした確率はわかりませんが、1/3000~1/30000以上の割合で生まれると言われます。わたしの母は女学生の頃に三毛のオスと暮らしていましたし、知り合いのボランティア仲間が以前オス三毛を保護した時は、写真を撮らせてもらいました。
オスの三毛猫さん

オスの三毛猫さん


でも確かにオス三毛が少ないことは事実です。では、オス三毛がなかなか生まれないのにはどんな理由があるのでしょうか?

オス猫に希少なカラーとは?

まず、「三毛猫のオスは珍しい」とよく言われますが、実際に生まれにくいのはオレンジ(茶色)と黒の二色の色の毛を持った猫のオスです。二毛、いわゆるサビ猫(トーティ、ベッコウ猫)という毛色の猫です。

オレンジ色の部分のシマ模様は、消えにくい性質を持っているので、ほとんどのオレンジ色の猫には縞模様が見えていますが、黒色の部分に縞模様がなければ、単色カラー(ソリッド)となり、二色(オレンジ+黒)であればサビ猫、三色(オレンジ+黒+白)であれば三毛猫になります。

黒の部分に縞模様がある場合は、白が入っていない猫は麦わら、白が入っていれば縞三毛と呼ばれるカラーになります。
サビ猫ちゃんの女の子

サビ猫ちゃんの女の子


オス三毛が生まれにくい理由はオレンジの遺伝子に秘密あり

人間も猫も同じですが、染色体は基本ペアで、父親と母親からそれぞれひとつずつもらってきます。性染色体にはX染色体とY染色体があり、女性はXX、男性はXYと表します。

生まれてくる子猫は、それぞれの両親から一つずつカラーの遺伝子をもらってき、その組み合わせで猫の毛色が決まります。通常、猫の毛色を決定する遺伝子は、常染色体上にありますが、オレンジ(O遺伝子・大文字のオー)だけは特殊で、伴性遺伝子と呼ばれX染色体上にしかありません。o(小文字オー)の遺伝子はオス/メスどちらにも存在しますが、毛色を決定するために必要なO(大文字オー)はX染色体上のみにあるので、XXを持っているメス猫には「OO」、「Oo」、「oo」の三種類が生まれますが、X染色体が一つしかないオス猫(XY)は、「O」か「o」のどちらかひとつしか持つことができないので、オレンジと黒の両方の毛を持って生まれることがないのです。

「OO」と「Oo」は、大文字Oなのでオレンジ色の毛色、「oo」は、小文字oなので黒色となります。

*大文字のO(ラージオー)
*小文字のo(スモールオー)
*説明を簡潔にするため、猫の模様(パターン)については省略しています。
左から、キジ白、茶白、シマ三毛兄弟

左から、キジ白、茶白、シマ三毛兄弟


オスの三毛猫が生まれるのは染色体異常?!

それでも、世の中には遺伝子的には生まれないはずのオスの三毛猫が存在するのは、なぜでしょうか?

正常な遺伝子で生まれるオス猫はXYですが、染色体異常でX遺伝子が一つ増えてしまったXXY(クラインフェルター症候群)であれば、Xが2つあるので「Oo」になる可能性があり、二毛や三毛のオスが生まれる可能性があります。このほか、性染色体が2つある「XX/XY」という染色体異常でも、オスの三毛猫が生まれる可能性があります。ただし、この場合のオス三毛には繁殖能力がなく、繁殖能力があるオス三毛こそ、この世の中で一番貴重な猫になるでしょう。
麦わらのお嬢さん

麦わらのお嬢さん


世間に知られているオス三毛さん

オスの三毛はその希少性故に、航海の守り神などとされてきました。その昔、母の元で暮らしていたオス三毛も、地元の網元に懇願されて譲ったそうです。

1956年(昭和31年)、第一次南極観測隊と共に南極に行き、越冬した「タケシ」という三毛猫のオスがいました。タケシは、動物愛護団体に保護されましたが、南極観測隊の出港を知った女性が乗船を推薦したところ、航海に縁起がよいと一緒に南極へ行くことになったそうです。

また、カンニング竹山さんが主演した亀井亨監督の作品「ねこタクシー」に登場する「御子神さん(みこがみ)」を演じた「みーすけ」も、オスの三毛猫です。
三毛猫のお嬢さん

三毛猫のお嬢さん



三毛のメスはツンデレで、とても猫らしい猫が多いですが、オス三毛もなかなか興味深い性質の子が多いようです。母が飼っていたオス三毛は非常に気性が荒く、滅多に触ることも許さなかったそうですが、ドラマを観ていると「みーすけ」くんは、とても穏やかで優しい性質に見えます。

どんな子でも、どんなカラーでも、出会えて一緒に暮らしている猫さんがあなたにとってのオンリーワン。その猫さんに出会えたことに感謝!