防犯/防犯小説

ミセスの危機管理ナビ~切り裂かれた年賀状(2ページ目)

【連載第1回】主婦・加瀬麻季子の趣味は法律や心理学に危機回避法。主婦仲間たちにも一目置かれている。ある日、知り合いの主婦・横山絵里から相談を持ちかけられ、見せられたのは切り裂かれた年賀状だった。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

主婦仲間からのメール

「ううん。でも、多分、見た目じゃ分からないんだよ、きっと。見た目で悪い人だって分かったら、すぐ捕まっちゃうでしょ? だからね、いつもは普通の人みたいにしていて、変身するんだと思う。○○レンジャーになるみたいに。そいでもって悪が世界セイハして、地球があぶなくなって…」
やはり子どもだなと思いながらも、核心を突いていると思った。

事件後の報道で、容疑者の周囲の人たちが「まさかあの人が」「そんなことをするような人には見えなかった」と言うのをよく見る。つまり、人は見た目では悪いことをするかどうかなんて分かるはずがないのだ。「いつかやると思っていた」と言われる人は、それまでに悪いことをさんざんやってきているようだ。そうは見えない人が悪事に走るのはなぜなのか。その理由に興味があるし、誰でも一歩間違えば、いわゆる「魔が差す」ことがあれば事件を起こすかもしれない。

身近な事件をよく考えると、どこに問題があったのか、何がいけなかったのかということが見えてくる気がした。そう考えると、人は意外と無防備だということが分かってきた。主婦仲間で世間話をするときには、つい熱が入ってしまう。そのせいか、ちょっとしたトラブルがあると自然と相談を受けるようになっていた。以前住んでいた町でもトラブルが起きたことがあった。主婦たちの間で間違った噂を立てられた女性がいて、そのとき、郵便物が盗まれていたことが事件の発端であり、郵便受けに鍵をかけていなかったから盗まれたのだろうと、麻季子が指摘したことがあったのだ。

絵里の自宅に呼ばれる
絵里の自宅に呼ばれる
あの事件も結局、人の気持ちが引き起こしたものだった。何がその人にとって理由になるか分からないものだとつくづく思う。人付き合いはだから難しい。とはいえ、楽しく生きたいものだし、問題は解決するためにあるのだとネガティブに考えるよりはポジティブに考えている。子どもがいるので、自然と母親同士の付き合いが多く、情報交換は互いに役立っている。

そのうちの一人で、徒歩で3分ほどの距離に住んでいる37歳の横山絵里から、ある午後、携帯電話にメールが来た。
「麻季子さん、こんにちは。横山です。ちょっと相談に乗ってもらえるかな。できればうちに来てくれると助かるんだけど。30分ほどお時間ありませんか?」
翔太は塾に行っており、夕食の支度も問題はない。
「それでは、15分後にお邪魔します」
と返信した。

絵里は男の子ばかり3人の子持ちで、翔太の着なくなった衣類を譲ったりして仲のいい家族だった。家をたずねると、幼稚園に入ったばかりの末の子がまとわりつきながら絵里と一緒に迎えてくれた。
「ああ、麻季子さん。ごめんなさい。忙しいでしょうに。さ、上がってください、どうぞ」
と、リビングルームに通してくれた。

「散らかっているでしょう。恥ずかしいわ」
「男の子ばかりだからしかたないわよ」
「まあね。女の子が欲しくてがんばったんだけど。今となっては男ばかりでよかったと思ってる」
「あらどうして?」
「女の子ってかわいくていいんだけど、その辺の子とかテレビとかで見ても、コビを売っている小さい子とか見るとね。男の子のほうがあっさりしてるからいいわ」
「あ、絵里さん、どうぞおかまいなく」

話しながら手際よく紅茶を用意して持ってくると、絵里もソファに座った。

  • →切り裂かれた年賀状……p.3
  • →→更なる不審事/あなたの一票/関連防犯ガイド記事……p.4
    • 前のページへ
    • 1
    • 2
    • 3
    • 4
    • 次のページへ

    あわせて読みたい

    あなたにオススメ

      表示について

      カテゴリー一覧

      All Aboutサービス・メディア

      All About公式SNS
      日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
      公式SNS一覧
      © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます