防犯/防犯小説

【連載第1回】良好な夫婦関係の陰で、夫に魔が差す… テレクラの甘い罠~夫の言い訳

表面的には問題のない夫婦関係の陰で、夫には不満があった。妻が不在の夜、ふと目に入った“テレクラ”のネオン。ちょっとした火遊びのつもりが危険を招く。

佐伯 幸子

執筆者:佐伯 幸子

防犯ガイド

※この連載記事は、実際に起きた事件をベースに構成してあります。【全8回】

よき夫

会社員のY川K介(33歳)は、仕事のできる男である。特別ハンサムというわけでもないがナイスガイということで人気がある。おまけにやさしく、感じがいい。当然、自分でもよくわかっていて、誰に対してもそつのないつき合い方をする。女性にだけモテるのではなく、男性にも受けは悪くない。人間関係に優れているというか、人づきあいに長けているといえる。それが仕事に反映されるのだ。

若い女性社員だけでなく年上の女性たちにも人気がある。情熱的な視線をK介に送ってくる女性もいるが、社内や仕事関係ではトラブルの元になるだけと割り切って、絶対に手を出さないようにしている。ときおり、(この女性なら)と思うこともあるが、自分の身が大切であることをよく理解している。

3年前に結婚した。相手は数年間交際したM子(32歳)で、やはり仕事のできるキャリアウーマンである。30歳になる前に結婚したいという彼女の希望だった。結婚しない理由はなかったし、K介が仕事をしていく上でも結婚していることは信頼につながることでもあった。既婚者であることは女性からのアプローチを避けることにもなった。



二人の結婚には、家族も誰も反対しなかった。みな、似合いの夫婦だと言った。もちろん、当人同士も相性がよく、おしゃれで家事能力もある快活な妻との結婚生活は快適だ。まだまだ子どもは欲しくないが、35歳になる前に子どもが欲しいという、これも妻の希望に添うことになるだろう。リーダーシップのある妻は、ある意味で楽だった。


夫としては、年に二度の海外旅行につき合って、あとは「結婚記念日」と「誕生日」「クリスマス」などといったイベントに、適当なプレゼントを用意してディナーを一緒にすれば、妻は一切文句を言わなかった。互いに忙しいので、ウィークディは連絡事項以外の会話をすることはほとんどない。それでも週末は必ず一緒に過ごした。形としては「週末婚」に近いと思っている。

たまに週末にホームパーティを開くときに、ワインを注いだり、バーベキューをまかされたりという“夫”としての役割を果たさなくてはならないこともあるが、それもいやがらずに愛想良くこなす。友人たちの間では、「理想的な夫婦」と評されることも多いのだ。

互いに仕事上の責任が重くなり、つき合いも避けられない日常になってきて、妻とは同居人あるいは兄妹のようなあっさりとした関係になってきた。もちろん愛情はあるし、間違いなく夫婦なのだが、本来は他人同士でありながらむしろ肉親のような感覚になってきていた。だが、K介には不満があった。


→夫の不満
→→寄り道
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