保育園・保育所

トイレに行く余裕もない「保育士の職業病」あるあるって? “先生が足りない!”崖っぷち保育のリアル

保育士不足の現場では、一体どんなことが起きているのか。『子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会』呼びかけ人の平松知子さんに保育所のリアルを聞いた。これがもし、保育ではなく子育てだったら……。

大楽 眞衣子

執筆者:大楽 眞衣子

子育てガイド

4コマ漫画で知る! 保育士不足が招く子どもたちのリアル

「あとでね」「ちょっと待っててね」―――。保育士の手が足りず、子どもたちの声にすぐに対応できない保育現場。「本当はこんな保育は望んでいない」と多くの保育士が頭を抱えるが、その原因は国が定める「配置基準」にある。
【イラスト】【画像】(c)子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会

3歳児クラスは20:1の保育士配置基準 (c)『子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会』

現行では、保育士1人に対し、0歳児3人、1・2歳児6人、3歳児20人、4・5歳児は30人。

この数字にいまいちピンとこないという人は、「抱っこやおむつ替えが必要な0歳児3人を同時に1人で育てる」「口にいろいろ入れたがる1歳児を1人で6人」……などと想像を巡らせると、いかにこの配置基準が無謀であるかが伝わるだろう。

遊びの行動範囲が広がる4・5歳児の基準は30人だが、これは“75年間も”変わっていない。

愛知県で40年以上保育士を続ける、社会福祉法人熱田福祉会の理事長、平松知子さんは、保育士配置基準の改善を求めて、仲間と『子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会』を立ち上げた。「保育士が足りない」という保育士らの訴えを、社会の大きな声に変えるためだ。

実行委員会が提言する適切な配置基準は、保育士1人に対して、0歳児2人、1歳児3人、2歳児5人、3歳児10人、4・5歳児15人で、現在の基準とは大きく開きがある。
仮

現行の保育士配置基準と、実行委員会が提言する改善基準 (c)『子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会』

「子育てが身近でない人だとなかなか実感が湧かないかもしれませんが、お母ちゃんだとすぐピンときてくれます。『1歳児を1人で6人も? え!? とんでもない』『0歳児と3歳児の2人でもワンオペで大変なのに』『双子の子育てなんて、とても1人じゃできないのに』って共感してくれます。でも、子育てと深く関わったことのない人が役所の担当者になった場合、なかなか分かってもらえないんです」(以下、平松さん)

実行委員会では、社会により分かりやすく保育の現状を伝えるため、4コマ漫画を公開した。絵の得意な複数の保育士有志が描いたものだ。数字だけで訴えるより、はるかに手応えがあった。

「この切実な問題を“社会の声”にするにはどうしたらいいんだろうか、と実行委員会で考え、漫画を作ろうということになりました。漫画の破壊力はすごく、行政の担当者に見せると『こりゃムリですね』ってみなさんおっしゃるんですよ」
 

膀胱炎は保育士の職業病あるある!? トイレにも行けない保育士 

「崖っぷち保育~これが現実~その④」~幼児クラスは、(3.4.5 歳児クラス)1人担任です~【画像】(c)子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会

【崖っぷち保育】幼児クラス(3・4・5歳児クラス)は1人担任 (c)『子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会』

例えば、3歳児クラスを担当する保育士が、トイレに行きたくても行けない状況を描いたイラスト。この漫画では、トイレをがまんしている保育士と、遊びをがまんしている子どもの様子が描かれている。保育士の目や手が足りず、焦る状況が伝わる。

「保育士がトイレに行きたくても、その場を離れたら残りの大勢の子どもたちを代わりの同僚が1人で見なくてはいけないという状況が起こりえます。だから、とてもトイレには行けない。うちの職員が膀胱炎になって受診したときに、医師から『保育士さんあるあるだよね』って言われちゃったんです。現状の配置基準では、保育士はトイレにも行く余裕がない状況なんです」
 

3歳児20人の給食現場……保育士、千手観音になる

崖っぷち保育~これが現実~その① 3歳児クラスは、20:1の保育士配置基準 給食の場面 【画像】(c)子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会

【崖っぷち保育】3歳児クラスは20:1の保育士配置基準 給食の場面 (c)『子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会』

20人の3歳児を保育士1人が見る給食の様子を描いたこの漫画では、保育士が千手観音のようになって一心不乱に給食の準備や処理に追われる様子が描かれている。食育に向き合う余裕はない。

平松さん自身も同じような経験を繰り返してきた。保育士だけでなく、子どもも「先生が足りない」と感じていることに、ある園児の絵によって気付かされたことがあるという。

「3歳児15~16人をわたし1人で担当していたときがあって、ある女の子がお昼寝の絵を描いたんです。それが、画用紙の真ん中に描かれている私から、手がニョキニョキたくさん出ているという絵でした。『これ何の絵?』って聞いたら、『平松ちゃんの手が、もっといっぱい生えたら、みんなが一緒にトントンしてもらえるのにな』って答えて。

あぁ、子どももそう思ってるんだ。保育士がもっといたら、子どももうれしいんだなって思いました。お昼寝のとき、『ごめんね、待っててね』と言いながら、両手を広げて順番に2、3人の園児をトントンしていました。まだ甘えたい盛りなので大丈夫だよ、ここにいるよ、と声をかけながら寝かせていたんです。

今思い返すと、描かれたたくさんの手は、まさに配置基準の問題だなということが分かります。もうその子は30歳くらいになっていますけど、その当時から手が足りない状況は続いているんです」
 

常態化した崖っぷち保育……「配置基準」の改善が不可欠

このような4コマ漫画にとどまらず、TikTokの動画や保育士あるある川柳なども発信するようになり、共感の輪は広がっている。

保育士の手が足りないという状況は、一人ひとりの子どもに向き合う時間が少なくなるということ。不適切保育や保育所内の事故報道が続いているが、個々の問題はあるにせよ、常態化した“崖っぷち”の環境が影響していることは想像に難くない。

多くの保育士たちは、理想と現実の間でもどかしさを感じながら日々を過ごしている。

>>世界と比べ劣悪! 日本の保育士配置の諸外国との比較
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