輸入車/注目の輸入車試乗レポート

限りなく”レーシングカー”、マクラーレン セナに試乗

マクラーレンが伝説のF1ドライバーの名を冠した、500台限定のハイパーカー。様々な規制や基準をとにかくクリアして公道を走れるようにしただけの、限りなくレーシングカーに近いマシンだ。その走りにエストリルサーキットで触れた。

西川 淳

執筆者:西川 淳

車ガイド

伝説のF1ドライバーの名を冠する「マクラーレン セナ」

マクラーレンセナ

マクラーレンで過去最高のパフォーマンスを持った、アルティメットシリーズの最新モデル。500台の限定生産とされ、マクラーレン・プロダクション・センターにて手作業で組み立てられる。価格は67万5000ポンドから

マクラーレン・セナとは、いったいどんなクルマか。伝説のF1ドライバーの名を冠するほど“すごいクルマ”、ということだけは、クルマ好きなら誰でも分かることだろう。

英国のピュアスーパーカーメーカー(=SUVはもちろんなく、そのうえミッドシップモデルしか作っていない)マクラーレン・オートモーティヴには、スーパーカーのシリーズが三段階で用意されている。

下から順に、“スポーツシリーズ”(540C、570S、600LT)、“スーパーシリーズ”(12Cに始まるシリーズで、最新モデルが720S)、“アルティメットシリーズ”(過去にはP1)、だ。

セナはそのアルティメット(究極の意)に属する、世界限定500台のハイパーカーである。価格がおよそ1億円、というにも関わらず、正式発表を前にオーダーリストは埋まってしまった。

P1ベースではあるけれども、コンセプトはかなり違っている。P1が、超高性能ながら日常利用をかなり意識したプラグインハイブリッドのスーパーカーであったのに対して、セナは、様々な規制や基準をとにかくクリアして公道を走れるようにしただけの、限りなくレーシングカーに近いマシンだ。それゆえに、セナという伝説のレーシングドライバーの名を冠することができたと言ってもいい。
 

パフォーマンスでの注目は空力とシャシー

マクラーレンセナ

ボディサイズは全長4744mm×全幅2051mm×全高1229mm、ホイールベース2670mm。乾燥重量はわずか1198kgとされた

P1との最も大きな違いは、ハイブリッドシステムを搭載しないこと。徹底的な軽量化に努め、サーキット走行に有効なエアロダイナミクス性能も存分に磨きあげた。もちろん、すべてはサーキットでの経験に裏打ちされた最新の技術によって、である。それ故、その出で立ちからはもはや、ロードカーの雰囲気を感じることのほうが難しい。

第三世代CFRPモノコックキャビンの“モノゲージ”前半部分がP1とそっくり同じであることからも、セナがP1をベースに開発されたことが分かる。後半部分にはロールゲージが埋め込まれており、ボンディング(接着強化)も各所に追加されて、マクラーレンのロードカー史上、最強の強さを誇るコクピットキャビンに仕上がった。

4L V8ツインターボエンジンをミッドに積んでいる。800ps800Nmというピークパワー&トルクで、P1よりもハイチューニング。並のレーシングカーがアシ元にも及ばない数値だ。とはいえ、パフォーマンス面で注目すべきは、エンジン性能ではなく、むしろ、空力とシャシーである。そこが、ロードカーとレーシングカーの最も大きな違いでもある。

空力性能の高さは、時速250km/h(レースモード)でダウンフォースが最大800kgに達する、という事実からも明らか。そんなことを知らなくても、フロントとリアにアクティブ機能を備えたエアロデバイス満載の姿から、容易に想像できたという方も多いだろう。

マクラーレンセナ

折り畳み式ドラーバー用ディスプレイを採用。TFTスクリーンに各種情報を表示するフル・ディスプレイ・モードと、折り畳んだ状態でスピード/回転数/選択ギアなどのみを表示するスリム・ディスプレイ・モードが選べる

シャシー性能では、進化したレースアクティブ・シャシー・コントロールⅡを採用したことにより、四輪それぞれの車高やダンピングを状況に応じて最適に制御できるようになった点に注目したい。もちろん、リアアクティブウィングを最大限活用したモータースポーツ由来のブレーキングシステムも備わった。

そして、何より、車体が軽い。およそ1200kg。800psのエンジンを積むということは、パワーウェイトレシオは驚愕の1.5kg/psだ。

マクラーレンセナ

ダブルシェル設計のカーボン製シートは、1脚が8kgと軽量に。ドア下部の開口部にガラスを備えた(オプション)、マクラーレンのアイコン、ディヘドラルドアを備えた。軽量化のため内張りも最小限にとどめられている

 

コースに入った瞬間、マシンはその表情をがらりと変える

マクラーレンセナ

エストリルサーキットに並んだアルティメットシリーズの限定モデル、セナ

アイルトン・セナがF1GPで初勝利を飾った思い出の地がエストリルサーキット。そこで、マクラーレンのセナに初めて試乗することになった。粋な演出だ。

ゆっくりと走り出す。ピットレーンを走らせている間はレーシングカー的な硬さというより、むしろ、メカニカルグリップによる動きのしなやかさに感心していた。意外にガチガチなクルマじゃないな、と思ったわけだ。何なら鼻歌まじりで気を抜いてコースに入り、アクセルを開けた途端、マシンはその表情をがらりと変えた。

マクラーレンセナ

最高出力800ps/最大トルク800Nmを発生する4L V8ツインターボを搭載し、0-100km/h加速2.8秒。ミッションはデュアルクラッチの7速SSGを採用

前後左右の動きの鋭さと軽やかさに、まずは驚愕する。右アシにちょっと力を入れるだけで、瞬時に車体が前へと飛び出す。自分で抱えることもできるんじゃないか、と思えるほど動きは軽い。それでいて、車体の隅々にまで意識が届いているという感じも確実にあった。隣に座った先生(プロドライバー)から“アクセルは慎重に開けろ! ”、とたしなめられる。

加速フィールは、これまでに乗ったどんなスーパーカーとも異なっていた。軽さゆえだろうか、恐ろしいまでに重さのない速さだ。それなのに車体はというと、すこぶるつきの安定感をみせる。もちろん、不用意に踏み込むとすぐさまテールが暴れだしてしまうから、先生の言うとおり、右アシの動きには繊細さと慎重さが必要なのは確か。けれども、そこは優秀な制御システムが助けてくれるはず、だから、多少は安心して踏み込んでも大事にはいたらない。

ステアリングの厳格な動きにも驚くほかない。両手の動きに併せて間髪をいれずに腰ごと回り動く。それも、べったり路面に張り付いたままに。これもある程度、速度の低いうちはいい。けれどもクルマに慣れてくるに従って、腕が辛くなってきた。ダウンフォースが効いた状態で速く曲がっていこうとすれば、それなりに腕力が必要になってくる。日ごろの運動不足がたたって、筋力が低下しており、腕が上がってしまったのだった。

数値だけでは計れない“レーシングカー”の領域に

マクラーレンセナ

可動式のアクティブ・エアロブレード(フロント)とアクティブ・ウィング(リア)を中心とした、アクティブ・エアロダイナミクスは250km/hで800kgのダウンフォースを生み出す

頭上から金属的な吸気音が降り注ぐ。スポーツカーの運転で、排気音よりも好きな音だ。アップ&ダウンシフトは強烈にひとことで腹にズシンズシンと響く。もうまるでロードカーのそれじゃない。

そして何よりもその驚異的なブレーキ性能に唖然となった。有名な高速最終ターン“パラボリカ・アイルトンセナ”を4速で抜け、そのまま1km弱のストレートを駆けぬけると、いとも簡単に時速260km/h以上へ達した。インストラクターの指示に従って早めにブレーキを踏みつけたら、リアウィングあたりが後へガツンと引っ張られたような感覚におそわれる。ミラーをちらと見れば、ウィングがそそり立っていた。しかも、1コーナーのうんと手前でとまってしまい、再度コーナーに向かって加速するという、格好悪い事態に。ガツンと踏めばその向こうにもう一段、激しくブレーキの効き始める領域があったのだった。

マクラーレンセナ

走行モードは、パワートレインにコンフォート/スポーツ/トラックを、サスペンションにはさらにレースが加わる。レース由来のブレーキシステムにより、200km/hから停車までの距離はわずか100m

800馬力超級のスーパースポーツには、人よりも乗り馴れているという自負があった。パワーウェイトレシオ1というメガワットスーパーカーを駆ったことだってあるのだ。それでもなお、マクラーレン・セナの特別さは際立っている。最高出力の数値では計ることのできない、ロードカーとレーシングカーとの間にある大いなる隔たりが、そう思わせたのかも知れなかった。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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