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定年までと定年後では、良い住まいの立地条件は異なる

定年までは暮らしの中心が仕事ですが、定年後の暮らしの中心は趣味や旅行など人により様々です。よって、定年までと定年後では良い住まいの条件は異なります。定年前と定年後それぞれの立地について優先順位の高い3項目についてご説明します。

大久保 恭子

執筆者:大久保 恭子

これからの家族と住まいガイド

定年までと定年後では、良い住まいの立地条件は異なる

良い住まいの立地条件とは

良い住まいの立地条件とは

住いは暮らしをささえる器なので、暮らしの中心となることが変われば、それにふさわしい住まいも、変化するのが自然の流れでしょう。多くの人にとって、定年までは、暮らしの中心は仕事です。ですから、定年までの住まいは、たいがいの人にとって、仕事(勤務先)本位で決まる、といっても過言ではありません。

一方、定年後の暮らしの中心は、園芸や菜園、習い事などの趣味、旅行などの遊び、地域ボランティア活動などの社会貢献等々、ひとにより様々です。したがって、定年後の住まいは、これまでの仕事に替わって暮らしの中心となる新しいこと本位で決まる、しかもひとそれぞれ、といえるでしょう。


定年までの良い住まいの条件

では、定年までの仕事中心の暮らしにふさわしい住まいの条件を整理してみましょう。スペースに限りがあるので、優先順位の高い項目を3つに絞りご説明します。

1、通勤に便利な沿線・駅
住まいを選ぶときの優先順位は、通勤に便利かどうかが、当然高くなります。人に平等に与えられた資源は時間です。毎日の通勤時間を定年まで積み上げると膨大に。しかも、この時間に対して会社は給与を払ってはくれません。

通勤は毎日のことだから、予算の範囲内で、より短く、より快適に通勤できる路線・駅を選ぶのが定石というわけです。東京圏の通勤時間の平均は片道で50分ちょっとですが、理想的には30分程度でしょうか。自由な時間が得られれば、趣味や勉強に費やすことができ、人生がより豊かになるはずです。

2、売却・賃貸しやすい沿線・駅
終身雇用の時代はとっくに終わっています。定年まで3回程度の転職は当たり前。仕事が変われば勤務地も変わるので、自宅を売却する必要が出てきます。したがって、買い手がつきやすい沿線・駅かどうかを見極めることが大切です。

万一売らずに貸すことも視野に入れておくなら、借り手がつきやすいかどうかも、確認しておきましょう。買い手、借り手の需要は都心からの所要時間が、30分以内であれば比較的安定的といえるでしょう。前述の理想の通勤時間とも一致していますね。駅から自宅までの徒歩時間は5分以内にとどめておくのがよいでしょう。

3、広さや部屋数よりも都心からの近さを優先
広くて、部屋数も多ければ、ゆとりある暮らしができます。でも、都心から30分以内で80平米以上、3LDK以上のマンションは、新築であれば1億円を超える昨今です。では限りある予算の範囲で、近さと広さのどちらを優先させるべきでしょうか?

私は近さ!と断言します。そのうえで、広さをできるだけ確保するために、中古マンションに目を向けることをお勧めします。とりわけ2000年以降に建てられた性能評価を受けたマンションは、耐久性、耐震性といった基本性能がしっかりしていて、丈夫で長持ちするものが多いのです。維持・管理のしっかりしたマンションも増えてきており、築13~15年後で第1回目の大規模修繕が実施されたマンションは新築時に匹敵する居住性を甦らせることができます。

価格については、築19年までは新築に比べてどんどん下がっていき、買いやすくなります。下のグラフは2011年に流通した中古マンションの価格を築年数ごとに示したものです。
2011年に流通した中古マンションの価格

 (三井トラスト不動産 不動産マーケット情報より)


いずれのグラフも築19年くらいまでは比較的グラフの傾きは大きく、たとえば東京都の築1年ものの坪単価は261.4万円であるのに対して築19年では161.2万円と坪あたり約100万円もの価格差があります。それより古くなると価格の動きは変化します。築20年ものは149.9万円なのに対して築40年ものは142.1万円です。築20年の違いがあっても価格差はわずか7.8万円しかありません。

こうした価格の動きを踏まえると、近さと広さを両立させつつ、新築に匹敵する居住性を確保できる築13~15年以上の、大規模修繕実施済みの中古マンションの中から自分の家族に合ったものを選ぶ、という条件が整理できるのではないでしょうか。ただし、いずれ売却の可能性があるようでしたら、築20年以内のものが良いでしょう。築21年以降の古いものは成約率が低く、売れにくいという実態があります。


定年後の良い住まいの条件

次に定年を迎え、毎日会社へ通勤する必要がなくなったときにふさわしい住まいの条件を整理してみましょう。

1、定年移住、複数居住
しつこいようですが、住まいは暮らしを支える器です。定年を機にまずは、これまでの仕事に替わること、何を暮らしの中心とするかを決める必要があります。趣味?遊び?新たな仕事?まず必要なのは、これからの人生設計ですね。中心となることがひとつではなく、複数ということもあるでしょう。

そして新たなことをするのにふさわしいのは、これまでの住まいとは異なる地域という選択肢も生じてくるかもしれません。そうなれば、定年移住ということもあり得ます。また、これまで慣れ親しんだ自宅はそのままに、もう1か所住まいを増やすことも考えられます。やりたいことのために、複数の住まい、というのもあり!です。

私ごとで恐縮ですが、還暦をむかえたとき、仕事中心の暮らしから「家事の習慣」「運動の習慣」「趣味を通しての人付き合いの習慣」を確立する暮らしへと転換すべく、これまでの生活を再構築する決意をしました。もっかのところ、3つの習慣を身に付け、継続するのに相応しい住まいを模索中のため、現在4か所居住を実践しています。

日本全国、空き家だらけの昨今です。移住、複数居住も住宅コストをあまりかけずに、実現できるようになりました。新たに住いを、となると買う、借りるどちらがいいか?も気にかかります。馴染みのないところへ移住、というのであれば、様子が分かるまで、まずは借りてみることをお勧めします。また、地方の住まいを選択するなら、資産価値の面では下落傾向にあるので、やはり借りるというのが、無難な選択かもしれません。

2、車を使わず、歩いて暮らせるところ
75歳を過ぎると身体機能の低下が進み、車の運転が難しくなってきます。車がなければ、日常の買い物も通院もできない、ということになれば生活が立ち行かなくなってしまいます。そうした先々のことも見越して選ぶなら、歩いて用がたせる街に暮らすことをお勧めします。

とりわけ、地方都市は車社会ですが、昨今、郊外に広がった商業・医療・就業などの都市機能を市街地の中心部に集約し、その周辺に住宅地を寄せていくコンパクトシティ化があちらこちらで始まっています。大都市部においても同じ動きが始まっています。また、歩いて用が足せるということは、日常的に身体をうごかす機会が多いということです。コンパクトシティは便利なだけではなく、健康に暮らせる街でもあるのです。

3、NPO活動が盛んで孤立しにくいところ
超高齢化の時代。長生きすれば、伴侶や親しい友人の死により、いずれひとりになることも、想定しておく必要があります。高齢者のひとり暮らしは、身体機能の低下により、外出が難しくなり、人付き合いが絶たれてしまうことが危ぶまれます。人付き合いがなくなれば、生活のハリが消失します。そうなると、食事や片付けといった日々の家事が滞りがちになり、やがて暮らしは破たんしていきます。人はひとりでは生きていけないのです。

大都市のマンションは玄関がオートロック、住戸ごとの扉も内側から鍵がかけられていて、外部者が居住者と簡単に接触することはできません。隣同士で挨拶もしない、場合によっては顔も知らないということもあります。このように大都市では、高齢になればなるほどひとり暮らしの人は、誰しもが孤立する可能性が高いのです。

一方、地方では地元の町内会活動などを通して、ご近所との付き合いは免れません。やや強制的かつ束縛的なつながりは煩わしいという面もありますが、ほうっておいてくれないだけに、孤立しにくいという良い面もあるのです。介助なくして外出できなくなったとき、最後に残るのは、何かと声をかけあうご近所づきあいです。こうしたことから、あくまでも一般論としては、田舎のほうが都会より孤立しにくいといえるでしょう。

では、大都市に暮らす人は、孤立は避けられないの?という声が聞こえてきそうですね。大都市のなかで孤立せず暮らせる可能性が高いのは、NPOの多いところ、というのが私なりの答えです。人と人がつながる仕組みづくりはNPOによるものが多いのではないでしょうか。

NPOはホームレス支援から健康クラブまで多様なコミュニティを提供しています。NPO活動の盛んなところでなら、何かしらの活動に参加する機会が得られます。そうした活動を通して、仲間づくりをすることで、孤立を避けることができるのではないでしょうか。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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