マンション物件選びのポイント/マンションの性能・耐久性

マンションの寿命、耐用年数はどうやって決まる?

マンションの耐用年数はどのくらいなのかご存じですか?「60年もつ」と耳にしますが、根拠はあるのでしょうか。現実には長持ちするマンションがある一方で、40年で壊されてゆくマンションもあるのです。マンションの寿命を決める要素は何なのか、見ていきたいと思います(改訂:2018年12月/初出:2010年6月)

井上 恵子

執筆者:井上 恵子

住まいの性能・安全ガイド

マンションの耐用年数は60年とよく耳にしますが、根拠はあるのでしょうか。今回は、マンションの寿命を決める要素について解説していきます。

【目次】  

マンションの寿命は「60年」って本当?

「マンションはコンクリートでできているから長持ちするはず」「60年は住めるでしょう?」そう信じている人が、たくさんいます。
マンションなら60年はもつだろう・・・という根拠は何だろう?

マンションなら60年はもつだろう・・・という根拠は何だろう?

「60年」という数字がどこから来ているかというと、鉄筋コンクリート造の建物(=マンション)の資産を計算する便宜上、財務省が一律で決めた法定耐用年数の「60年」から来ているのだと思われます。しかし、1998年の税制改正で、それ以降の鉄筋コンクリート造の住宅(新築の場合)の法定耐用年数は「47年」と、短くなっています。

実際には、耐用年数は建物ごとにバラつきがあります。造り方・住み方がそれぞれ異なるマンションが「一律に同じ」と考えることには無理があります。
 

マンションの平均寿命は46年 建て替え物件の着工時期は築後37年

国土交通省が2002年に作成した報告書によると、マンションの平均寿命は46年、建て替え物件の着工時期は築後37年となっています。

「そんなに短いの!?」と感じた方も多いと思いますが、平均寿命とは、あくまでも取り壊されたマンションの平均寿命で、実際には、30~40年程度で取り壊されるマンションがある一方、それらと同時期に建てられても、ずっと長く人が住み続けられるマンションもあるのです。

同じ鉄筋コンクリートでできているマンションなのに、短命なものと寿命が長いものがある。では、その耐用年数を決める要素は何なのでしょうか。  
 

建物の寿命を決める3要素 

同じ鉄筋コンクリートでできたマンションでも、短命で終わるもの、長持ちするものと差が出てくるのは、下記にあげる要素が大きく関係しています。

1.建物本体
・劣化のしにくさ:「コンクリートの水セメント比」や「鉄筋のかぶり厚さ」というものが関係しています。
・設備配管類の維持管理のしやすさ
2.メンテナンス
・入居後の適切なメンテナンス
3.外的要因
・地震などの外的要因

以上の3つの要素はいずれも深く建物の耐用年数に関わってきますが、今回は「1.建物本体」に関わる内容を具体的に見ていきましょう。
 

耐久性に影響を与える「水セメント比」

鉄筋コンクリートの劣化とは、どのような現象をいうのでしょうか。
ひび割れは鉄筋コンクリート造の建物の寿命を短くする原因のひとつ

ひび割れは鉄筋コンクリート造の建物の寿命を短くする原因のひとつ

鉄筋コンクリートの劣化は、コンクリートの中にある鉄筋が錆びることから始まります。それを防ぐために、鉄筋を守るようにコンクリートがまわりを覆っていますが、時間経過とともにコンクリートに収縮が起こります。収縮が大きいとヒビが入り、そこから雨水などが入り込んで内部の鉄筋を錆びさせます。

ヒビ割れの原因となるコンクリートの収縮には、コンクリートを構成するセメントと水の割合(=水セメント比)が関係しています。セメントに対して水の割合が大きいコンクリート、すなわち水セメント比が高いコンクリートを使用して建てたマンションは、時間経過とともに収縮が起こりやすく、ヒビが入る可能性も高くなります。
 

鉄筋を守るコンクリートの厚み「かぶり厚さ」

また、鉄筋の周りを覆うコンクリートの厚さ(=かぶり厚さ)が厚ければ厚いほど、中の鉄筋はさびにくくなります。専門的な内容になってしまいましたが、水セメント比とかぶり厚さ、その他建物の寿命を左右する条件についてはこちらの記事に詳しく解説しております。
鉄筋の周りを覆うコンクリートが厚いほど鉄筋の劣化が遅れ長持ちする

鉄筋の周りを覆うコンクリートが厚いほど鉄筋の劣化が遅れ長持ちする

では次に、劣化のしにくい仕様になっているマンションの簡単な見極め方と、期待できる耐用年数、設備配管類の維持管理について見てみましょう。
 

住宅性能表示制度で長寿マンションを見極める 

この建物本体の「劣化のしにくさ」については、専門的な内容となり、一般の人がチェックするのは難しいでしょう。

簡単な見極め方法として、住宅性能表示制度を利用する方法があります。現在首都圏の新築分譲マンションの7割程度、大手デベロッパーの供給する分譲マンションではそのほとんどが同制度を利用しています。
 

住宅性能表示制度を利用して建てたマンションは、パンフレットなどにこのマークが記載されています

住宅性能表示制度を利用して建てたマンションは、パンフレットなどにこのマークが記載されています

同制度を利用したマンションでは「劣化対策等級」という項目で、そのマンションがどれだけ長持ち仕様で造られているかを、一般の人にもわかりやすく表示しています。購入の際にはぜひ活用してください。
 

耐用年数75~90年を期待できるマンション

住宅性能評価の「劣化対策等級」には等級1~3までがあり、等級ごとに、以下の耐用年数が期待できるマンションであることを示しています。

■等級3……おおむね3世代(75~90年)
■等級2……おおむね2世代(50~60年)
■等級1……建築基準法に定められた対策がなされている(最低基準)

※日常のメンテナンスがある程度行われること、通常の自然条件が続くことを前提としています。

等級3の物件は、60年を上回る75~90年もの耐用年数を見込める建物であることを示しています。等級の高い、すなわち長持ちするマンションは、前ページで解説した「水セメント比」「かぶり厚さ」といった条件をクリアしている物件です。

性能評価書の「劣化対策等級」の等級を確認するだけで、もう難しい内容をチェックしなくても済みます。そして次に大切なのが設備配管類の維持管理のしやすさです。
 

 築30~40年で壊される理由とは?

 構造躯体はまだ使えるのに取り壊されてしまうこともある。

 構造躯体はまだ使えるのに取り壊されてしまうこともある。※写真はイメージです。

これまで触れたように、すでに取り壊されたマンションの平均寿命は46年。実はその多くが、設備配管が取り換えられない造りになっていたことが原因とされています。

排水菅などの設備配管類の寿命はコンクリートより短く、25~30年といわれています。古い時代に建てられたマンションには、この設備配管類をコンクリートに埋め込んでしまった例が多く見られます。

設備配管類がコンクリートに埋まるかたちで建てられたマンションでは、配管類の取り換え時期が来ても交換することができず、結局は配管類の寿命とともに、建物の寿命を終えることになります。

耐用年数を上げるためには、設備配管類のコンクリート埋設がないことは最低限の条件であり、最近注目されているスケルトン・インフィル仕様であれば、さらに建物の寿命が長くなることが期待できます。
 

寿命を左右する設備配管類の維持管理のしやすさ

例えば「排水管が詰まった」など、日々の設備配管類の不具合は住民の日常生活に大きく影響を与えるため、日頃の清掃、点検も欠かせません。そういう意味でも、清掃・点検しやすいよう、パイプスペースの適切な位置に点検口があることなど、維持管理がしやすい造りになっていることも、とても大切なことなのです。

設備配管類の維持管理のしやすさも住宅性能表示制度を利用したマンションなら、性能が一目でわかります。詳しくはこちらをご覧ください。

以上、耐用年数の長いマンションの条件がおわかりいただけたでしょうか。建物本体以外の重要な要因であるメンテナンスや外的要因の排除(耐震性)については下記の記事を参考にご覧ください。

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マンションの資産性は「管理」で決まる
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